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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 前編
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第60話 ダメ人間

「いや、お見事! 剣の腕前も素晴らしいじゃないか」

「魔女様のおかげですよ。あの黒い塊が瘴気の原因みたいですね」

「体内に取り込ませて力の増幅を錯覚させ、内側から蝕んでいく……まるで麻薬だ」

「人の弱みにつけ込みじわじわと広げていく。嫌なやり方です」


 ひとまず宮廷魔道士たちの体内にあった瘴気は消え去った。

 自我が壊れる前に取り除けてホッとする。


「魔女様! これは一体どう言う事でしょうか!?」


 突然倒れた魔道士たちに驚いて、合否を判定していた宮廷魔道士団長が慌ててやってきた。

 そして彼こそがベルジック公爵家の次男で、軍の副将である。

 不審な言動がないか確かめるために、アルフはわざわざ二カ所の試験を受けていた。

 観察するチャンス到来とばかりに目を細める。


「今倒れている者たちは悪魔の力に飲まれそうになっていたのさ」

「確かに最近は言動におかしな部分がありましたが……飲まれるとは一体?」

「己の欲望を糧にして体内で種を育てていたのだろうね。根が張ったら生命力を吸い取られる」

「この宮廷内でそんなことが……!?」

「実際危ない所だったよ。彼らはこの冒険者くんに感謝した方がいい。良い働きだった」


 そう言って銀の魔女はアルフを讃える。

 しかし観察していた対象に逆に目を向けられてアルフは慌てる。

 これでは注目を浴びないように素早く斬った意味が無くなってしまった。


「先ほどの翼竜(ワイバーン)への魔法も見事だったが、君が彼らを救ってくれたのか」

「僕は銀の魔女様をサポートしただけです。目覚める頃には正気に戻るでしょう」

「謙遜しなくていい。さぞ名のある魔道士だろう」

「いえ、通りすがりの冒険者です」

「では名の知られた冒険者かな」

「たまたま城門前でスライム討伐の募集を知って来ただけの者ですよ」

「ふむ。君ならすぐにでも宮廷魔道士になれる。我が国のために力を発揮してみないか?」


 そう言って魔道士団長からスカウトされる。アルフが恐れていた事態になってしまった。

 宮廷魔道士の立場にだけはなりたくない。


「無理です!」

「まさか即答で断る者がいるとは思わなかったよ。理由を聞いても?」


 この国の魔道士や魔法使いならば誰もが憧れ、喜んで希望する職なのかもしれない。

 しかしアルフは自分が向いていないことを必死で力説する。


「僕には規則正しい生活なんて絶対に送れません! 夜更かしで寝坊します!」

「そ、そうか。朝遅れるくらいならば特例で認めてもいい。それほどの力だ」

「毎日遅刻、早退、欠勤の自信があります!」


 自分で言っておきながら、ダメ人間さ加減に悲しくなる。

 勤務中の昼寝までつくかもしれない。まともに仕事が出来る気がしない。


「それでも国に仕えれば、冒険者をするよりも安定した生活が送れると思うが」

「安定した生活を送ると破綻するので無理です」


 出来る事ならアルフだって毎日を平穏無事に暮らしたいと願っている。

 しかし安定を選ぶと言うことは毎日悪夢を放置しなければならないと言うことだ。

 悪夢が現実になり続けることを選んだら、きっと精神状態がボロボロになるだろう。 

 現状を顧みると場合によっては国や世界が破綻するかもしれない。


「安定するのに破綻するとは……?」

「まあまあ。冒険者くんにもきっと事情があるのだろうさ。無理強いは感心しないな」

「しかしこの才能を野に置くのは余りにも損失だ」

「自由に吹く風を掴まえておく事なんて出来ないよ。ほら、もういない」

「え?」


 身の危険を感じてアルフはその場から一目散に逃げ出していた。

 寝起きの頭でうっかり魔法を使ったせいだ。

 瘴気をまとう翼竜(ワイバーン)に気を取られ大勢の前だと言うことを失念していた。

 

「はぁ……。ドロシーが知ったら、迂闊すぎる(ポンコツ)って言われるな」


 そうだ早くドロシーを迎えに行こう。余計な仕事を増やしている場合じゃない。

 そう思って廊下を歩いていたのに、騎士団側で案内してくれた受付人に見つかってしまう。


「あ! 向こうの試験はどうでした?」

「合格しました」

「凄い! 両試験突破は一人だけですよ!」

「通りすがりの冒険者ですから」

「それでは応接間へどうぞ。軍の将軍からお話があります」

「将軍って、もしかしてベルジック将軍ですか」

「そうです。危険な任務になるので将軍が指揮するようです」


 ベルジック将軍にも一度会って確かめておいた方がいいかもしれない。

 アルフは案内されながら応接間へと向かった。


■■■


 応接間に入ると、三十人程の剣士がすでに待機していた。

 思っていたよりは少ないが精鋭で挑むということなのだろう。


 屋内で窓は閉め切られており、汗の臭いが漂ってきてむさ苦しい。

 剣士たちの中で黒フード姿のアルフはとても浮いているようで、ジロジロと視線を感じる。 

 そのまましばし待っていると、鎧に身を包んだ騎士が部屋に入ってきて壇上に立つ。

 周囲の様子を見るに彼が将軍のようだ。


「諸君。まずは討伐隊への志願を感謝する。私が今回の隊を指揮する将軍のベルジックだ」


 基本的には王都を守護する騎士であり、将軍が自ら周辺の領土に赴くことは異例の事だ。

 それだけの非常事態と言うことだろう。


「現在、我が国の西域にて無数のスライムが発生しておりその性質は極めて厄介である」


 将軍はスライムについての特徴を力強く説明していく。

 状況はさらに悪化しているらしい。


「……このスライムによる食料不足が連鎖して、凶悪な魔獣の存在も多数確認されている」


 詳しい状況を知らず凶悪な魔獣が出ると聞いて、尻込みする者も現われた。

 数名が部屋を退出していくが、誰もそれを咎めることはなかった。

 無駄に命を捨てるよりも余程良い選択だろう。


「騎士団と諸君らで魔物や魔獣の討伐を行い、スライム討伐は魔道士団が担当する予定だ」


 攻撃を受けると増殖するのだから、スライムの討伐に剣や槍などの物理攻撃は向かない。

 魔道士たちが集中出来るように騎士団が魔物討伐に専念すると言うのは頷ける。

 懸念されるのは果たしてスライムの討伐が魔法攻撃で可能なのかと言うことだ。

 アルフと同様の疑問を持った者が質問している。


「それについては、西域を司る銀の魔女様が協力して下さるので心配無用である」


 どうやらスライムの討伐は魔女様任せになるようだ。

 将軍が壇上から降りて、さらに詳細な連絡が部下から伝えられている。


「うーん」


 そんな中、アルフは腕を組んで悩む。

 確かに強力な魔法を使うようだが、魔女様は無限増殖スライムをどうするつもりだろう。

 西域では地の精霊が怒り狂っているらしく、とても対処に手が回らないような気がする。

 これは後で確認しておいた方が良さそうだとアルフは考える。


 そして頭を悩ませる理由がもう一つ。

 ベルジック将軍からも副将軍からも瘴気を感じることはなかった。言動も至ってまとも。

 宮廷魔道士団へのスカウトには困ったが、問題は感じられなかった。

 ベルジック公爵家は一体どうなっているのだろうか。

 

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