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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりのベビーシッター編
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第46話 海洋王国ヴェルヌ

 スーリオンが目を覚ますと、ゆらゆらと揺れる事が無い広い部屋だった。

 高価そうな家具や調度品があり、ソファでは見覚えのある黒いローブを着た魔道士が綺麗な女の人が描かれている本を眺めていた。


「あ……あの……」

「おはようスーリオン」

「何だか部屋が変わっているような……?」

「船が到着したから港町の宿に移動したんだ」


 下船の時間になったのでスーリオンを起こそうとしたアルフだったが、無理矢理起こすのはやめて幌馬車の荷台へと転移させ、さらに港町で新たにとった宿のベッドへとその身を移していた。


「僕、どれくらい寝ていたの?」

「だいたい半日。十二時間前後かな」

 

 メルヴィル港からフィッシャー港まで、通常八時間程の船旅になるが、遠回りした影響で約九時間の乗船時間だったはずだ。

 下船してからさらに三時間経過しているので、昨夜おやすみの挨拶をしてから十二時間程度ということになる。

 アルフにとっては濃密な時間経過だった。


「そんなに」

「疲れていると眠り続ける事ってあるよ……身体の調子はどう?」

「ちょっと気持ち悪い」

「あー船酔いでもしたかな」


 アルフは立ち上がり、水差しの水をグラスに注いでスーリオンへと手渡す。

 そして部屋の窓を開ける。明るい陽射しとともに心地よい海風が部屋に入り込む。


「これは何の匂い?」

「海からの潮風だよ。よかったら見てごらん。ここからは海が見える」


 ゆっくりとした足取りで窓際に歩いてきたスーリオンは陽射しを浴びて光る海に、目を輝かせた。


「うわぁ……これが、海! あれが全部、水……! 溢れたりしないの!?」

「大津波でも起きない限り心配ないよ。昨夜ベルジェ王国のメルヴィル港を船で出港して、海を越えて来たんだ。今は海洋王国ヴェルヌのフィッシャー港の港町にいるよ」

「海洋王国ヴェルヌ……?」

「周囲を海に囲まれた王国で、どこの国とも敵対していない中立国なんだ。海の獣人とも共存していて、ベルジェ王国では魔物と呼ばれているマーメイドやセイレーンも大切にしている国なんだよ」

「聞いた事ない魔物だけど、食べられたりしないの!?」


 スーリオンには初の外国のため文化的な違いに驚いているようだ。

 アルフはなるべく丁寧に説明していく。


「人の関係にも言える事だけど、大切にされたら相手も大切にするし、敵対する相手には敵対する。エルフの暮らす森にいる魔獣のように意思の疎通が困難で襲ってくる場合には仕方ないけれど、知能が高くて感情のある獣人とは仲良くすることだって出来るんだ」

「凄い国だね」

「僕もそう思うよ。平和を維持出来るっていうのは凄いことだ。さあ、空腹だろうから後は食べながら話そうか」


 そう言って隣室に移ると、テーブルにはすでに二人分の食事が用意されていた。


「外で食べるのも楽しいと思うけど、まだ身体が怠いだろうから部屋食にしよう」

「魔道士様はお金持ちなの?こんな豪華な部屋や食事は初めて見たよ。僕はお金が……」

「お金の心配はしなくていいよ」

「でも……」

「そうだな。それじゃあ対価にスーリオンの話を聞かせて貰えないかな。あんまり話したく無いことを聞くかもしれないから」

「うん、いいよ。魔道士様にだったら話す」

「さあ食べようか。実は僕も結構お腹が減っていたんだ」


 二人は席に着くと、さっそく食べ始めたのだが見たことのない魚介にスーリオンは戸惑っていた。


「これって魚なの? なんだか変わった色をしているけど……毒とかない?」

「そうだね川魚と海の魚では色や大きさが異なるけど、美味しいから食べてみて。もちろん毒なんてないよ」


 カラフルな魚を心配そうに見つめていたので、アルフが先に口に入れる。

 それを見て、恐る恐る皿の食事を口にしていく。


「……美味しい!」

「そうだろ?」

「この足みたいなのがたくさんあるのも食べられる?」

「心配ないよ。よく噛んで食べてね」


 時々、料理に質問しながら食べてあっという間に皿がきれいになっていく。


「久々にヴェルヌ王国の魚介料理を食べたけど、やっぱり鮮度が良いから味が良いな」

「初めて食べた料理ばかりだったけどとっても美味しかった! ごちそうさま!」

「うん。元気が出たみたいで良かった」


 ルームサービスを呼びテーブルを片付けてもらい、落ち着いた所でアルフは指を鳴らし防音結界を張る。


「さて、それじゃあ質問してもいいかな。君は森で捕われた後、どうしていたの?」

「……突然、身体が痺れて……目隠しされて運ばれて、気がついたら真っ暗な場所で……」

「うん。辛かったね」

「暗い部屋に杖を持ったお爺さんが来て、エルフは器にするから痛めつけろって言って……」

「それで身体が傷だらけだったのか。でも何でそんな事をしていたのか分かるかな?」


 杖を持った老人と言えば、おそらくルフラウスだろう。

 器というのは召喚した悪魔を憑依させるための身体と言うことだろうか。


 どうやらこの世界とは異なる空間からやってくる悪魔と呼ばれる存在は、召喚時には肉体を持たず、召喚者の願いを叶える事で少しずつこの世界に存在が固定されるらしい。

 どのくらいの時間で固定されるのかは不明だが、いずれは憑依しなくても独自に肉体を持ち始める。

 そうなった場合は討伐の難易度は跳ね上がる。

 アルフが消滅させた悪魔バルバラムはすでに本来の肉体を持っていた。


「身体を治そうとして無意識に魔力を使うんだって言ってた。それを繰り返すと魔力が上がるって」

「そう言うことか。君の他にも、捕まっているエルフの子はいなかった?」

「……僕以外にも女の子が三人いた」

「ララノア、メルロス、ナルルの三人かな? この子達も探すように頼まれているんだ」

「……うん」


 アルフの確認に辛そうにスーリオンが頷く。その表情にアルフもキュッと口を結び苦い顔になった。

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