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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの掃除人編
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第22話 猫パンチ

 馬車で大通りを進み、通りを見通せるテラス席のあるお店へと入ることにした。

 馬には荷台に積んで置いた干し草と水を飲ませて休ませてある。

 ドロシーを定位置の肩に乗せて店へと向かう。


「猫を連れていって大丈夫なの?」

「心配ないよ。ね、ドロシー」

『ニャア』


――チリリン。


 扉を開けると小さくドアベルが鳴る。

 本を読みながら紅茶を楽しむ客がチラホラ見られる。

 ゆったりとしたオルゴールの音が流れており、上品な客層に好まれている。


「雰囲気の良いお店ね」

「うん。『銀の兎』は女性に人気のあるお店なんだ」

「そうなの?」

「ヘルシーな野菜料理が有名だけど、お茶やデザートも美味しいよ」

「ずいぶん詳しいわね」

「街に遊びに来たときによく立ち寄るからね」


 店内に入ると看板娘でもあるラビィさんが出迎えてくれた。

 健康美溢れる抜群のスタイルで、実は『美人名鑑』にも載っている。


「いらっしゃいませ。あら、ラルフさんじゃないですか。今日はデートですか?」

「そう見える?」

「見えますよ。可愛い方ですね」

「あははは……幼なじみの荷物持ちです」

「じゃあ今日もドロシーちゃんとのデートかしら?」

『ニャア』


 ドロシーが嬉しそうに鳴き声をあげた。


「そんな感じかな」

「座席の希望はありますか?」

「えっと、お任せランチを二つとドロシースペシャルをテラス席でお願い」

「はーい。ご案内しますね」


 ラビィさんに案内されてテラス席に座ると、何となくローラの顔が怖い。

 何か機嫌を損ねることをしただろうかとアルフは頭を捻る。


「本当によく来ているみたいね」

「どうかしたの?」

「別に。お腹が空いているだけよ」

「そう? 食後のデザートは十種類から選べるから楽しみにしておいて」

「そんなにあると迷いそうね」


 話をしているとお任せランチが運ばれてきた。

 新鮮な野菜を使った卵サラダと、じっくり煮込まれている野菜スープ。

 そしてメインは野菜と魚介のパスタ。

 男性には少々ボリューム不足だが女性には喜ばれているらしい。


『ニャア』


 ドロシーにはいつも通り、山盛りのお魚プレートを出してくれた。


「本当に美味しいわ!」

「気に入ってくれてよかった」


 食事をしながら通りに目を配っているとボールを持った男の子を発見する。

 一人でボールを蹴ってそれを追いかけて遊んでいるようだ。


「ローラ、ごめん。少し席を外すね」

「どうかしたの?」

「食事が終わっているドロシーを遊ばせてくるよ」


 そう言ってドロシーを抱え、アルフは男の子の近くへと歩いて行き話しかける。


「やあ。こんにちは! ボール遊びの相手がいないみたいだけど?」

「母さんの買い物が終わるのを待っているから」

「よかったら僕の猫を遊び仲間にしてくれないかな? ボール遊びが好きなんだ」

「いいの?」

「もちろん。この猫はドロシーって呼んでね」

「僕とボール遊びしよう! ドロシー」

『ニャア』

「あのお店で食事中だから、買い物から戻って来るまで遊んでくれると嬉しいな」


 そう言ってアルフは『銀の兎』のテラス席を指さす。

 目の届く範囲であることを確認して男の子は元気にうなずいた。


「うん! 分かった」

「それじゃあ、ドロシー頼んだよ」

『ニャア』


 ドロシーは男の子の蹴ったボールを器用に前足で止め、頭を使って返す。

 時には両足を揃えて蹴り返したりしている。

 そうして楽しそうに遊び始めたのを見てアルフはテラス席に戻って来た。


「お待たせ」

「良い遊び相手になっているわね。ドロシー」

「だろ? 猫の手を借りたくなったらいつでも言ってね」


―――ガラガラガラガラガラガラガラガラッ!


「きゃあああああ!!!」

「避けろ!」


 食事の続きにしようと席に座りかけた時だった。

 通りの奥から馬車の激しい車輪の音と人の悲鳴が聞こえてきた。

 悲鳴のする方に目を向けると二頭立ての白馬の馬車が通りを暴走している。

 御者は必死に止めようとしているが全く制御が出来ていない。

 馬は極度の興奮状態で、理性を失っている。


「大変!? 馬車が暴走しているわ!」


 ローラが立ち上がり叫ぶ。

 事故の状況を知っているアルフは、男の子へと目を向ける。

 ボールが暴走する馬車に向かって不自然に跳ねた。


「あっ!」

『ニャ』


 しかしそのボールが馬車通りに出る前に、ドロシーが動く。

 ジャンプして強力な猫パンチでボールを跳ね返す。


「うわ!?」


 さらに男の子は、誰かに押されたように通りへ飛び出そうとしていた。

 くるりと回転して着地したドロシーが、続けてジャンプして体当たりする。

 男の子は尻餅をついてその場に座り込む。

 その目の前を馬車が猛スピードで通り過ぎていった。


「危なかった。さすがドロシー」


―――ガラガラガラガラガラガラガラガラッ!


 通りにいる人々は暴走する馬車をどうしようも出来ずにいた。

 叫びを上げたり、固唾を飲んで見守っている。


「さて、僕も仕事するか」


 そうつぶやきながら、アルフは馬車に向かって腕を伸ばす。

 狙いを定めて素早く指先を横に振った。

 二頭の白馬は突然速度を落としていき、やがて止まった。

 そのまま暴走していたはずの二頭は立ったまま眠り始めた。


「え……止まった……?」


 馬車の様子を見ていたローラは不思議そうな声を出す。 

 

「みたいだね」

「何だったのかしら」

「さあ? 何はともあれ事故にならなくてよかったよ」

「あの子、危うく馬車にぶつかりそうだったわよね」

「そうだね。ちょっと様子を見てくるね」


 無事に事故を回避できたアルフは、男の子の様子を見に歩いて行く。


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