第18話 質問タイム
部屋の扉を開けるとそこは外だった。
アルフのいた部屋は太い幹の上に建っていた。
辺りには想像以上の巨木が生え、豊かな森が広がっている。
下の幹に建物が見えたのでアルフはその場からジャンプで飛び降りた。
「サリオンさんは降りてきてくれって言ってたけど、本当に飛び降りるとはね。高所恐怖症の人には暮らせないだろうな」
『ニャア』
軽く扉をノックすると返事があった。
ここがダイニングなのだろうと室内へ入る。
「お待たせしました。サリオンさん」
「お、おお? また顔を隠しちまうのか」
「人見知りなので」
「いや、さっき堂々と話していただろ!?」
「まぐれです」
「気まぐれの間違いだろ!」
『ニャア』
「いや、ドロシーさんも話せるよな? 俺にはニャアしか言わないけど!」
『ニャア』
突っ込みが忙しいサリオンだったが、諦めて隣で笑って見ている妻を紹介した。
「ったく。もういいよ。こっちが妻のエルミアだ」
「ふふふっ。主人がこんなに遊ばれているのを見たのはいつぶりかしら?」
ふてくされるサリオンを見て、口に手を当てながら忍び笑いしている。
「初めまして魔道士様。娘達を助けていただきありがとうございました」
銀髪のセミロングで、娘達と同じく綺麗な深緑色の瞳。
アルフの感想で言えば『美女名鑑』にのせてもいいくらいの美人だった。
「こちらこそ感謝を。お気に入りのローブまで繕っていただいたと伺いました」
「裁縫が好きなのです。とても上質な布の衣ですね。もしや貴族様ではありませんか?」
「ただの通りすがりの魔道士です」
「ふふふっ。そうでしたわ。お口に合うか分かりませんが、まずはお食事を召し上がって下さいね」
娘のカレナと同じような気遣いを見せて食事を勧められた。
アルフは用意された席につく。
ドロシーの分も用意されていたので膝の上にのせて一緒に食べることにした。
それに合わせてサリオンの家族もテーブルを囲む。
ダイニングの窓は開けられていて、外から気持ちの良い日射しと小鳥のさえずりが聞こえてくる。
丸いパンと添えられた蜂蜜。煮込まれた野菜のスープ。
キノコとポテトのソテー。
そして食後には香りの良いアップルティー。
質素ながらも素材の味が生かされて、とても美味しく食べることが出来た。
『ニャッ!』
「ドロシーには熱すぎたかな」
ドロシーはアップルティーに挑戦して舌で肉球を舐めて熱そうにしている。
その姿を見て、エルミアさんがリンゴジュースに交換してくれた。
ペロペロと舐め続けている。ドロシーも食事に満足したようだ。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
「アップルティーのおかわりもどうぞ」
「もしかしてこのお茶にも魔力が回復する作用がありますか?」
「ええ。魔力の宿るリンゴの皮を煮ていますから、民間人の水薬みたいなものです」
身体がホカホカしてきて、実際に魔力が貯まっていくのが分かる。
魔道士にとってみれば最上級なお茶となるアップルティーを飲みながら話を続ける。
「とすればこの森に住むエルフの皆さんの魔力は高いのでは」
「どうでしょう。私は魔法を使えないので」
「村に魔法使いや魔道士はいないのですか?」
アルフの疑問に、エルミアではなく隣で会話を聞いていたサリオンが応えていく。
「昔は強い魔法を使える者もいたが、今は弓とか剣使いばかりだな」
「そうなんですか」
「後は薬師が調合の魔法を使う程度だ」
「何か理由でも?」
「だいぶ昔に同族での争いが有ったとき、火の魔法で森を焼いてしまったことがあるらしくてな。その時に勝利した遠いご先祖様が、強い魔法を使うやつはほとんど森から追放したらしい。俺が子どもの頃にそんな話を爺さんに聞いたことがある」
内在している魔力は高くても、扱い方が分からないということなのだろう。
少し勿体ない気もするが、アルフが口を出すことでは無い。
なるほどと頷いて、肝心な話に入るのでアルフは指をパチリと鳴らし防音結界を張った。
「興味深いお話でした。それでは僕に聞きたいことはありますか」
「いろいろあるが……昨夜、森に出現した赤黒い光の柱について何か分かるか?」
「あれは消滅結界と言います」
「消滅結界? 何の魔法なんだ」
「バルバラムという悪魔をこの世から消し去り、永眠させるために使いました」
「悪魔だって……!?」
「安心して下さい。存在を消滅させる魔法なので、再び復活することはありません」
「国を滅ぼすほどの存在があの場にいたと!?」
さらりと語られた事実にサリオンを含め、家族のだれもが青ざめた。
何かのきっかけでこの森どころか国が滅んでいてもおかしくなかったからだ。
「人さらいの中にいた魔道士に憑依していました」
「あ、あの何度も俺たちに忠告してくれた奴か!」
「魔道士様はそんな化け物を相手にしてあの状態になっていたのね」
「あははは……見事にボロボロでしたね」
悪魔が出現した場合、国によって対応は変わる。
通常は神託により選ばれた勇者を含む精鋭のパーティで討伐に向かう。
各国が同盟を結んで数千から数万の騎士団で討伐に挑むこともある。
冒険者ギルドに依頼して最高位の冒険者が複数で対処することもある。
それでも民が逃げだして亡国が生まれる場合もある存在だ。
それを一晩とかからずに倒して消滅させたと言う。
サリオンたちは、まるでお伽噺でも聞かされているような気分だった。
「あの……もしかして……旅の勇者様ですか?」
「いいえ。通りすがりの魔道士です」
「勇者パーティのメンバーとかでは」
「いいえ。他に聞きたいことはありますか? この後の予定がありまして」
まだ早い時間帯ではあったのだが。
ボストミラの町で日中に起こる事故を阻止したいアルフは気持ちが焦り始めていた。
サリオンと妻のエミリアは事の重大さに沈黙した。
しかし双子の娘達は質問タイムだと思ったのか次々に尋ねていく。
「あの……ドロシーさんはお話できると聞きました。どうしてですか?」
『ニャア』
「だそうです。他には?」
エレンの質問にはドロシーが答えた。
「えっと、魔道士様に恋人はいますか?」
「……泣きそうになるので聞かないで下さい」
カレナの質問には本当に泣きそうになりながらアルフが答えた。
「他にありますか?」
「俺から最後にもう一つだけ。行方不明になっている同族について何か知らないか?」
サリオンがしたその質問は、アルフが最近よく見る夢にも関係することだった。




