↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの魔道士編
14/275

第14話 消滅結界

 アルフが『眠りの魔道士』の異名を名乗ることは滅多に無い。

 無駄な争いを避けるために眠りの魔法を使うことが多いためか、その名で噂されているが、悪魔が相手となればその意味合いは変わってくる。


 過去、何度か国を滅ぼそうとした悪魔を永遠に眠らせていることに由来する異名でもあるからだ。

 助けられた国の王や皇帝などがその名を聞けば『英雄』と同意義であるし、悪魔からすれば同族を葬っている『憎き宿敵』とも言える。


「お前が噂に聞く『眠りの魔道士』だと? ずいぶんと我らの邪魔をしてくれたようだな。気が変わったぞ。楽に死ねると思うなよ」


 バルバラムと名乗った悪魔は両手の指先から黒い雷撃を高速で撃ってきた。

 身体を魔法で強化し、よろめきながらも躱していく。

 大きく距離をとるには転移が必要だが、数秒集中する時間すら取ることも出来ない。

 躱しきれない雷撃に撃たれ、少しずつフードがボロボロになっていく。


「……はぁ。……はぁ。……はぁ」


 止まることの無い連続弾にアルフは防護壁を張る間もない。

 荒い息をつきながら走り、躱し、逃げ続ける。

 時間が経ち、雨と共に身体から流れ落ちる血で周囲が染まっていく。

 闇の中で血の臭いだけが立ち込めていた。


「さて。エルフどもには逃げられてしまったようだし、そろそろこの遊びにも飽きたな」

「…………助かるよ。……夜遊びは程々にしないと、僕も怒られるんだ」

「血まみれのダンスは無様で楽しかったぞ。礼を受け取りあの世へ行け!」


―――パァン!

 

 バルバラムが雷撃を止めてとどめを刺そうと腕を振りかぶった。

 その瞬間、アルフは強く指を鳴らした。

 すると呼応するように地面が赤黒く光だす。

 複雑な紋様の巨大な結界が描かれ、上空へ向かって紅く光る光柱が伸びる。

 気付いた時には、その光を浴びた悪魔は動けなくなっていた。


「何っ!? 血の消滅結界だと!?」

「礼には及ばないさ。お前が永遠に眠ってろ!」

「や、やめ……ぐわあああっ!!!」


 光柱が輝きを増すと捕われた悪魔の断末魔が響き渡る。

 やがて結界の光が消える頃には悪魔の身体も崩れ落ちて、跡形も無く消し飛んでいた。


「やっと眠れる……か」


 身体は激しく傷つき、魔力も枯渇寸前。

 ギリギリの状態だったが悪魔を葬り去ることが出来た。

 安堵して座り込むと、もう動けそうになかった。

 そのままパタリと地面に倒れ込む。

 そこに一つの気配が現れる。


『ご主人様!』

「あ……。来てくれてありがとう。ドロシー」

『遅れて申し訳ございません』


 謝りながらアルフの全身に癒やしの波動を掛けていく。

 少しずつ傷が塞がり出血が止まる。

 それでも失われた血が戻る訳では無い。

 身体も冷えて危険な状態だった。


「エルフの皆は?」

『救出に成功し、全員無事に村へ戻っています』

「それは良かった」

『良くはありません! ご主人様が酷い状態です』

「雨のおかげで水も滴るいい男になったかな」

『ご主人様はいい男ですが、滴っていたのは血ですよ。強敵だったようですね』


 軽口を叩くアルフに呆れながらも心配そうに尋ねる。

 ドロシーには戦いの状況が見えていた。

 しかしアルフの空間転移魔法無しでエルフの村と往復するには時間が掛かってしまった。


「ああ。久々に死ぬかと思った」

『絶対に死んでは駄目です。ご主人様は死んでは駄目です』

「……大丈夫だよ。……でも少し眠ってもいいかな。ちょっと……疲れちゃって……あとは……」


 金色の瞳に涙を潤ませるドロシーを撫でながらアルフはゆっくりと目を閉じる。


『お任せ下さい。そしてお休みなさいご主人様』



■■■


 暗闇の中、目の前には大きな鏡が出現している。

 アルフは休むため、自らに回復魔法を掛けて眠った。

 しかし寝ているほど様々な夢を見て忙しくなるというジレンマがある。


「さて今回はどんな夢かな」

『ご主人様』

「やあ、ドロシー! さっきぶり」


 現実の死にそうな顔色と血や泥にまみれたボロボロのフード姿をしてはいない。

 元気な顔と綺麗な姿でアルフが挨拶する。

 ここは夢の狭間なので思い通りの姿をとることができる。


『本当に心配したのですよ。あんな無茶は止めて下さい』

「善処します。やっぱり僕にはドロシーが必要です。一緒に居て下さい」

『にゃ』


 アルフのストレートな言葉にドロシーは照れてくにゃりと身体を曲げた。

 そんな会話をしている中、鏡の中に映像が映り始める。


■■■


 アルフ達の住んでいるボストミラの町だった。

 二頭の白馬がひく高級仕様の馬車が走っている。

 その馬車が大きな書店の前に止まり、中から女性が姿を見せた。

 御者に手を取られながら降り立つその姿は天使のように美しかった。

 腰まで流れる金髪に澄んだ蒼い瞳。

 アルフがいつも眺めている『美女名鑑』の表紙を飾っている女性。

 セシル・ド・オードランだった。


 セシルは書店の店長と言葉をかわし、再び馬車に乗り込む。

 走り出した馬車のスピードが出始めた。

 白馬の前にボールを追いかけていた男の子が飛び出してくる。

 御者が慌てて馬の手綱を引くが間に合わない。

 男の子は馬に激突した。

 バランスを崩した馬車は隣を走っていた別の荷馬車に衝突して横倒しになっていた。


「きゃぁぁぁぁー!!!」

「た、大変だ! 誰か治癒師か医者を呼んでくれ!」


 男の子の母親だろうか。悲鳴が響き渡り、町並みは騒然となっている。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。