第13話 荷の重い悪夢
襲撃してくるのにずいぶんと時間が掛かった割には、馬鹿の一つ覚えのような遠方からの弓矢攻撃を繰り返すのみだった。
警戒していた男達も失笑している。
「魔道士様の見立て通り、どうやら商品が自ら来たようですな」
「無駄口を叩いていないで昼間のエルフを連れてこい」
魔道士が口元を歪めながらクーズーに指示を出す。
「あの商品をどうする気です?」
「人質として見せてやれ。脅せば隠れている仲間も出てくるだろうさ」
「なるほど、さすがは魔道士様」
「引きずり出したら見せしめに目の前で痛めつけてやればいい」
「ほう?」
「今後抵抗する気も失せるだろう」
「それは妙案ですな! おい、お前、馬車から連れてこい」
「へい」
そう言って指示された男が一人、エルフを捕らえている馬車へと向かって歩いて行く。
「ただ出てくるのを待っているのも暇だな」
「そうですねえ」
「お前らも突っ立ってないで、矢を撃ってきたエルフを狩って来い。俺の防護魔法が掛かっているのだ。ただの矢など蚊ほども怖くないぞ」
クーズーの護衛であり奴隷狩りでもある男達は魔道士の言葉に顔を見合わせる。
「それはそうですが、夜間は視界が悪くて見つかりませんぜ?」
「だったら明るくすれば良いだけの話だろうが」
”炎よ 我が魔力を喰らい 燃え上がれ”
杖を持ち詠唱すると魔道士は矢の飛んできた方角の木々を燃やし始める。
パチパチと音を立て火の粉が飛び、瞬く間に森は炎に照らされ明るくなった。
「これなら問題ないだろう?」
「はははは! こりゃ良い! 誰が先に捕まえるか競争だ」
「いいだろう。負けた奴が祝杯の酒代を出すってことでどうだ?」
「乗った」
「おー見える見える! あっちに慌てて逃げて行くぞ。俺が一番乗りだ」
「おい待て! 抜け駆けはずるいぞ」
三人の男が喜び勇んで森に入っていく。
しばらくすると奥から叫び声と倒れる音が聞こえてきた。
思わずクーズーは笑い出す。
「わはははは。こんなに愉快な狩りは初めてだ!」
「僕もこんなに不愉快な火遊びは初めてです」
「な!?」
「夜の火遊びはしちゃいけないって、子どもの頃に教わっていませんか?」
クーズーは突然目の前に現れた黒ローブの人物に驚き、その場で尻餅をついていた。
――ドサッ。
そしてパチリと指の鳴る音が聞こえたと同時に意識を失った。
アルフは天に向けて片腕をかざす。
すると辺りに霧が立ち込め、サーッと音を立てながら雨が降り始めた。
木から木へ燃え広がろうとしていた火はその雨で消えていく。
次第に森は再び闇に閉ざされていった。
「ほう。天候を操るとはな。エルフにも魔術を使える奴がいたのか」
「あなたの相手は僕がしましょう」
「いや、お前はエルフじゃないな? 気配が違う」
”闇の炎よ 我が魔力を喰らい 燃やし尽くせ”
詠唱しながら杖を向けて黒い火炎弾を放ってきた。
アルフは手を振り目の前に光の壁を作りだす。
黒炎はその壁に当たり黒煙を上げながら消滅していく。
「そういう貴方も人ではありませんね」
「人さらいに手を貸す人で無しとでも言いたいのか?」
「悪魔と呼ばせていただきます……よ!」
今度は逆にアルフが巨大な光の弾丸を両手で作りだし投げつける。
黒い壁が出現したが、一瞬で吹き飛ばす。
そのまま光の弾丸は魔道士の全身に当たり爆発を起こした。
「やはり憑依していましたか」
眩い光が消えたとき魔道士の男は地面に倒れて気を失っていた。
その腹を片足で踏みつけながら異形の存在が立っている。
全身紫色の肌で背には二対の黒い羽。額には左右に角がある。
「くくっ。まさか正体を見破られるとは思わなかったぞ」
「そこの踏みつけている魔道士にでも召喚されたのですか」
「力を与える代わりに心を壊してやったのさ。俺の操り人形だったがもう用済みだ」
「その男をどうするつもりです?」
「後でまとめて喰ってやるのさ」
言いながら気を失っている男をクーズーの倒れている方角へと蹴り飛ばす。
「エルフ族が言っていましたよ。酷く臭うと。食事よりも湯浴みをお勧めします」
かなりの魔力を込めて聖属性魔法を放った。
憑依は解けても悪魔本体にはダメージが通っていないようだった。
軽口を叩きながらも、その事実に額から冷や汗が流れ出していた。
「我ら悪魔が洗い清めるとでも思うのか? お前の出した雨で充分だ」
悪魔はニヤリと笑う。
「お礼に本気を出してやろう!」
「うぐっ」
突如懐に飛び込まれ、気付いた時にはアルフの腹に拳がめり込んでいた。
防御魔法によりダメージ軽減はあるが、身体が大きく吹き飛ばされる。
背後にあった巨木に背がぶつかり激痛を感じながら止まった。
「もう終わりか? 呆気ないものだ」
「まったく……荷の重い悪夢だな」
「悪夢だと? クハハハハ! 残念ながらこれは現実だぞ!」
「くっ」
内臓への衝撃で口の中には血の味が広がっていく。
回復させたいがアルフの魔法では眠ってしまう。
今の状況で使うことは出来なかった。
「我が名は『バルバラム』死ぬ前に覚えておくがいい!」
「だったら僕も名乗ったほうがいいか……通りすがりの『眠りの魔道士』だ」
言いながらアルフは立ち上がり、口の端からこぼれる血を手の甲で拭い取った。




