第12話 猫の手も借りましょう
今、森の中は通常の視野では先の見えない真っ暗闇だ。
普段から森で暮らしているエルフは夜目が利くようで、問題なく行動している。
ドロシーも夜目が利くが、アルフは魔法で視野を確保している。
夢の中では日が暮れて間もない時間に奇襲が決行されていた。
しかし介入に足止めしたため予定より遅い時間になってしまった。
「みなさんは魔法も使っていないのに、どうしてさらわれた娘の位置が分かるのですか?」
暗闇の中、迷い無く人攫いがいる方角へ進んで行くエルフ族の族長に今更ながら尋ねてみた。
「同族の周囲に嫌な臭いがしているからだ」
どうやら視覚だけでなく嗅覚も優れているようだ。
その臭いが森にあると村に行方不明の者が出るため警戒していたらしい。
しかし今回は運悪く風向きの加減で気づけなかったと話してくれた。
「近いな」
「ええ。これ以上近づくと気づかれるかもしれません。救出の作戦を練りましょう」
捕われている人たちの心境を思うと遅れてしまい申し訳ない。
しかし無事に助け出してあげたいので打ち合わせの時間を作ることにした。
パチリと指を鳴らし防音結界を作り出してから話し始める。
「精鋭を連れてきたが、もっと応援を呼ぶべきか?」
「今から呼び出すのは危険です」
「うむ」
「すでに森は魔物に有利な時間帯であり、大人数での移動は避けるべきです」
「たしかに魔物の気配はあるな」
「加えて相手に魔道士がいるため量より質で挑んだほうが良いでしょう」
「足手まといと言いたい訳か」
不満そうに述べた男に向かって族長が手で制する。
「いや、全てもっともな意見だ。村の防衛にも人手はいるし人質にされても困る」
「状況を整理しましょう。確認出来る敵は八人いますね」
「八人か」
「商人が一人、魔道士が一人、護衛が六人で、最も警戒すべきなのが魔道士でしょう」
「そこまで分かるのか?」
「対してこちらは弓使いが六人、弓も使える剣士の族長が一人、そして僕と猫一匹」
わかっている情報を共有していく。
「頭数は勝っていますね」
「猫を頭数に入れるのかよ!?」
「当然です」
『ニャァ』
本気なのかふざけているのか分からない調子で、淡々とアルフは説明していく。
初めは怒りで聞く耳を持たなかったエルフ達も魔道士の強さを知り、武器を魔法で強化してもらい、実際にその効果を確認したことでアルフを信用し始めていた。
さらにドロシーが鳴き声で精神を落ち着かせる波動を出していた。
冷静になれるようにエルフ達をフォローしながら作戦会議は続く。
「後はどう動くかですが……ドロシー、今の見張り状況は分かる?」
『剣を持った男が荷馬車の前後にいます。ご主人様』
「猫がしゃべった!?」
「優秀だって言ったでしょう」
「優秀な猫はしゃべるのか……んなわけないだろ! お前ら一体何者なんだよ!?」
「だから通りすがりの……」
「あー分かった、分かった。顔も名前も知られたく無いんだろ?」
「出来れば」
「人族はしがらみが多いからな。それで作戦はどうする。案はあるのか?」
付き合っていられないとばかりにアルフの言葉を遮って族長に作戦を聞かれた。
ゆっくりと頷いてから応えていく。
「弓使いの皆さんを二手に分けましょう」
「まず陽動ですが、最初に通常の矢を撃って逃げて下さい。そして追ってきた人物を強化した矢で射貫いて行動不能にしましょう。雷撃ダメージが入るので、痺れてしばらくは動けなくなるはずです」
「わかった。やってみよう」
「もう一方の弓部隊と族長さんで、娘さん達を救出でいかがでしょう」
「異存はない。魔導士はどう動く?」
「僕は遊撃で主に相手の魔道士に対応します。ドロシーは救出の援護をしてくれるかな?」
『ニャァ』
アルフの言葉に応えるようにドロシーが鳴く。
「本当に猫の手を借りるのか!?」
「もちろん」
「ま、ただの猫がしゃべるわけないわな」
「はい。優秀ですから困った時は手を借りてください」
『ニャア』
「救出を最優先で娘さん達を奪還したら離脱。村へ帰って防衛するのが良いと思います」
「そうだな」
「正直、どうなるかは敵の魔道士の力量次第ですね」
「承知した。後は臨機応変に対応しよう。皆、頼んだぞ!」
族長の言葉にその場の全員が力強く頷き返す。
■■■
高値で売れるエルフの娘を二人も捕まえられて、奴隷商人のクーズーは機嫌が良かった。
エルフの奴隷を手に入れて欲しいという要望は多い。
しかし数も少なく集めるのも一苦労だった。
エルフの森に集落があるのは分かっているが警戒して防衛力が高い。
こちらから村を襲撃するのは骨が折れる。
しかし相手が出てくるのなら容易に捕まえやすくなる。
「あの方も喜んで買い取って下さるだろう」
貴族から紹介された魔道士が奴隷狩りに協力してくれていた。
おかげでエルフが手に入りやすくなった。
広い森でも魔法の力でエルフがどこにいるのか分かるらしい。
村から離れて行動していた娘達がいたのは幸運だった。
囮にすれば他にも売れそうな商品が村から出てくるだろうと、待ち伏せすることにした。
怒り狂ってすぐにでも突撃してくるものかと思っていたが案外慎重なようだ。
この野営が罠だと見抜かれたかと焦り始めた頃、暗闇から弓矢が飛んできた。
「くくっ。無駄なことを」
魔道士の防護魔法により、目の前で落ちた矢を踏みつける。
クーズーは下卑た笑いを浮かべていた。
取引で手に入る金貨を想像してすでに楽しい妄想を始めていたからだ。
すでに自分たちが罠にかかっていることに気づいてすらいなかった、




