3 - 4.『Subjugation Party』
3-4.『討伐隊』
僕はどこか懐かしさを感じながら、宿で一晩をすごした。
翌日、シーナ、サグルと一階の食堂で再会する。
「やあ、ロムス、よく寝れた?」
「鍛錬が無かったので、ぐっすり眠れました。」
「……疲れてないのに?」
「いやモリスさん達はなかなか酷かったから……。」
想像を絶する鍛錬だった。思い出したくない事も沢山ある。〇〇が出来るまでは不眠不休、食事抜きなんてざらにあった。リーリアさんも優しそうで、意外と厳しい所は厳しかった。
「いつかみんなで挨拶に行こう。」
サグルがそう言うと僕は深く頷いた。
モリスさんもリーリアさんも幾ら感謝してもしたりないぐらいだ。本当に色々な事を教わった。完璧とは言い難いが、かなり僕自身も成長しただろう。出来損ないと言われた過去も忘れてしまいそうなぐらい。
「あ、ロムス。朝食が終わったら、人狼局に行こう。伝えないといけない事があるんだ。」
「伝えないといけない事?」
「話すと長くなる。それに実際に見てもらった方が早いからな。」
僕はシーナを見る。シーナは頷く。どうやらシーナは知っているらしい。真剣な表情から恐らく深刻な事なのだろう。底の知れぬ不安を唐突に抱えながらも僕達は談笑しつつ、朝食をとり終えた。
「美味しかったね。」
「やっぱりここの食事はいいね!」
僕達は食事を終えると、そのまま足早に人狼局に行く事になった。
人狼局に入ると、見覚えのある後ろ姿が見えた。
「ごめん、ちょっと待ってて。」
僕は2人に断って、その背中に近寄る。
「お久しぶりです、リーゼンさん!」
「……? ああ、ロムスか!元気にしてたか?」
「はい!アウメリアに昨日までいましたが、今日戻ってきました!」
「……という事はあの勝負をする時が来た!」
「と言いたい所なんですが、ちょっとだけ待ってくれますか?」
「何だ? また用事があるのか?」
「用事という程では無いんですけど、中央都市に戻ってすぐなので、少ししたい事があるので……」
「そうだな!久しぶりの中央都市だ!楽しめよ!俺はその間も強くなってるからな!」
「はい、勝負を楽しみにしてます。また時間が空いたらここで声を掛けますね。」
「おうよ!」
リーゼンさんとの会話を終えると、僕は2人の元へ戻る。
「今のはリーゼンさんだよね?」
「はい、そうです。あの勝負はまだ結果が出てないので。」
「ロムスも結局……勝負好き。」
「ハハハ……シーナが言う通りかもね。」
確かに勝負を吹っ掛けたのはリーゼンだが、元々リーゼンを煽り立てるような事をしたのは僕だ。その時点で勝負に持ち込まれるという予想が無かった訳では無いのだ。そう言われると、シーナの言う通り、僕も勝負好きなのだろう。
「それでサグルさん、話って?」
「本当の目的はそっちだったね。こっちに来て。」
サグルが僕を連れて行った先には依頼書が貼り付けてある、掲示板があった。サグルはその中央に貼り付けられている他の依頼書よりも大きく、〈至急〉という人狼局の印が入っている依頼書を指差した。
「危険指定生命体討伐依頼?」
「シーナと君は会ったって聞いたけど。」
「……あの怪物の事ですか?」
「多分、その怪物であっていると思う。」
「3年間、生き続けてるんですか!?」
流石にもう討伐されているだろう、と予測していたのだが、まさか未だに生き続けているようだ。確かにあの強さならば3年間など楽に生き延びそうではあるが。
「それで怪物に対して、人狼局所属の冒険者で討伐隊を編成して、一気に叩く計画があるんだ。」
「討伐隊?」
「そう。そして、その隊長は……羊主だ。」
そこでその名前が出てくるのか。荒くれ者の多い冒険者を纏められるような人物と言えば、羊主以外に居ないのは明らかではある。
「羊主主導なんですか?」
「うん、そうだ。どうやら一度、羊主と怪物は戦ったらしいんだけど、その時に深手を負ったらしいんだ。」
「そこで人海戦術に切り替える事にした……と。」
「多分それで正しいだろうね。」
あの羊主が倒せない程の怪物。僕とシーナが最初に中央都市に来る時に遭遇した怪物は、更に強くなっているのかもしれない。成長型の怪物。厄介な相手なのは間違いないだろう。
「2人は参加するんですか?」
「僕は参加するよ。シーナは?」
「私も……参加しようかな。」
「勿論、僕は参加する。羊主が負けたって言うなら尚更戦いたい。」
「……やっぱりロムスは戦闘狂かも。」
シーナの一言が胸に刺さる。それはかつて僕がリーゼンに対して抱いていた感想と同じものだからだ。まさか自分もそうと言われるとは思わなかった。
「そうと決まれば、依頼を受けに行こうか。」
「早い方が良いですしね。」
早速、僕達は受付に向かった。どうやら同じ目的なのだろう、冒険者は普段よりも多く並んでいた。待機時間に僕はサグルからさらに話を聞く。
「どうやら依頼参加者は今日の午後、〈セントロトーレ〉目前の大広場に集合するらしいんだ。そこで羊主から作戦を伝えられるみたい。」
「今日の午後? じゃあ僕が戻って来たのはぎりぎりだったんですね。」
「そうナイスタイミング! 僕もシーナもロムスが帰って来ないなら、参加を辞めようとしてたんだけど、まさか前日に帰ってくるなんて思いもしなかったよ。」
「依頼受注もほんの数時間後までだったから、何かの奇跡かもしれないね。」
どうやら僕は羊主と会わなければならない運命があるのかもしれない……なんて考えは自惚れの類なのだろう。それでもその機会がすぐに訪れた事に僕は興奮を隠しきれなかった。
「次の方、どうぞ。」
「はい、危険指定生命体討伐依頼を受けます。」
「3人全員ですか?」
「全員です。」
「名前をお願いします。」
「僕はサグルです。隣がロムスとシーナです。」
「あっ……」
名前を聞いた受付嬢が声を上げる。状況を呑み込めないまま僕達が立ち尽くしていると、奥から男性が出てきた。
「羊主からの命令で人狼局は、ロムスという冒険者並びに、その連れの迷い人の危険指定生命体討伐依頼への参加を受け付けられません。」
「……羊主の命令ですか?」
「はい。詳しい事情は分かりませんが、そうと命令されているので、人狼局はそれに逆らう事は出来ません。」
「僕だけが参加しないのであれば?」
「ロムスさんが参加しないのであれば、可能です。」
「では、それでお願いします。」
「ロムス……」
「ロムスはそれで良いのか?」
「僕は僕で考えておきます。2人は取り敢えず参加して下さい。」
「ロムスが言うならそれで良いけど……。」
僕は一旦受付から離れて、2人が依頼を受注するのを待った。しばらくして受注が完了したのだろう、2人が僕の元へ戻ってきた。
「僕達は終わったよ。何か策はあるのか?」
「今日の午後に大広場でしたよね?」
「うん、そうだけど……。」
「そこに羊主が来ると思うので、そこに直接訴えに行きます。最悪、力押しで。」
「大丈夫……なのか?」
「その為の3年間です。」
「……分かった。じゃあそうしよう。シーナも良い?」
「うん。ロムスの案が1番良いと思う。私はそれに従うよ。」
「決まりです。一緒に行くと何か言われる可能性があるので、大広場には2人で行ってください。」
「ああ。」
僕は先に人狼局を出て、準備をする為に宿に戻った。
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