3 - 2.『Aumeria - II』
3-2.『アウメリア 2』
モリスさんは僕の方を一度も振り返らずに家まで来た。
「モリスさん、どうしたんですか?」
「見つかりたくない奴がいるからね。」
「見つかりたくない奴?」
「モリス・ファイリア!」
「ほら、来たよ。」
遠くから走ってくる男が見える。あれは誰だ?
「誰ですか?」
「この都市で最も偉い奴だね。」
「都主?」
「そうさ。私の〈紋章式魔法〉に関する研究、書籍の権利を全て奪い取ろうとしている男さ。」
「うわ……ひどい」
「全くだよ。」
やはり迷い人は大半がこのような性格が歪んだ人なのだろうか。僕が出会ってきた中で一部の人は良い人だった。サグルや街主、モリスさんだ。だが、違う人の方が多いような気がする。
「おい、何故お前から来ないんだ!」
「はあ?」
「私は都主だぞ!?」
「親の金で就任した奴に言われたかないね。」
「なんだと!!」
モリスさんの胸倉を掴もうとする都主。モリスさんに手を叩かれ、あえなく距離を離された。
「暴力だ!」
「……うるさいねぇ。なんで私に突っかかるんだい?」
「それは、お前の権利が不正で手に入れたものだからだ!」
「どんないちゃもんつけなんだい……」
流石に不正で魔法の研究結果を偽造すれば、すぐに気付かれるだろう。だが、誰も何も言わないのは、間違いがないからだ。言い掛かりにも程がある。
「御父様は私の考えに賛成している!」
「親バカも良いところだよ。」
「私の御父様をバカにするな!」
「ああ、面倒臭いねえ! そんなに言うなら、逮捕状の1つや2つ用意してから来るんだね!いくら都主でも根拠なくあれこれ言うのは、いただけないと思うけどね!」
モリスさんは家に入る。僕も急いで中に入った。そこで扉が勢いよく閉められる。しかも丁寧に扉には魔方陣が描かれている。
「この魔方陣……」
「あんたの想像通りだよ。あいつ避けさ。」
ここまでやるか……。まあでも今回は治癒院に付き合わせた僕が原因だ。本当ならこの家の中に直接来れば良かった話だ。僕が人探しをする為、不法侵入にならないように、わざわざアウメリアの外に転移する必要があった。
「すみません、僕のせいで。」
「いや、良いのさ。悪いのは全部あいつなんだから。それより用事だ。用事。ついてきて。」
モリスさんは階段から家の地下に降りる。そこには混凝土で固められた丈夫な研究施設があった。
「ここで〈紋章式魔法〉の色々な研究をしているんだ。今はあんまりしてないけどね。用があるのはあの子さ。リーリア!」
「はい!」
20代半ばの女性が元気よく返事をする。
「彼女は?」
「私の弟子さ。まあ、姪だね。」
「叔母さん、どうしたの?」
「この子に〈紋章式魔法〉を教えておくれ。」
「私が!? 無理だよ! 私、叔母さんみたいに魔法全然上手くないし。」
「何を言ってるんだい。この世界で最も優秀な〈紋章式魔法〉の魔道士はあんただよ、リーリア。」
「そんな自覚ないんだけどね……」
「私が言うんだから間違いないよ。それにもう私はあんまり魔力が残ってないんだ。教えるのは難しいんだよ。」
「それもそうだけど……」
魔力が残ってない、とはどういう事だろう。老化によって魔力が減少する事は無いはずだ。
「魔力が残ってないって?」
「ああ、まだ言ってなかったね。私は魔力漏洩症っていう病気なんだ。常に魔力が外に流れ出るのさ。」
「治らないんですか?」
「色々試してるんだけどね……まだ特効薬は見つかってないね。」
「叔母さんがそう言うなら分かった。私やるよ。」
リーリアは僕の方を見る。
「お名前は?」
「ロムスです。」
「ロムスさん……若輩者ですが、よろしくお願いしますね。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
「よし、挨拶を終えたら早速指導開始とするかね。」
こうして僕の紋章式魔法の鍛錬は始まった。
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