表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/109

2 - 20.『News』

2-20.『知らせ』

 僕たちが人狼局から立ち去ろうとしていた時。1人の男が慌てて人狼局に飛び込む。


「た、大変だ!!!!」


 その知らせに冒険者(アドベラー)が食いつく。視線に耐えかねたのか、男の勢いが少し小さくなるが、息を整えて男は言った。


「中央都市の10キロメトルほどの地点に、正体不明の怪物が根城を作っていると分かった。俺たち調査部隊が接近した結果、羊主(エンペラー)の勅書に書かれていた怪物と同じであると確認が取れた。だが、気を付けろ。精鋭を集めた俺たちの部隊は俺以外全員殺された。」


「なっ!」


 冒険者(アドベラー)の1人が声を上げる。どうやらその調査部隊はこの人狼局に所属する冒険者(アドベラー)の中でも、かなり有名な者たちで組まれた部隊のようだ。それでもたった1人を除いて全滅。あっていいはずが無かった。


「そんな……」


「怪物の目的は分からない。だが、少なくとも殺戮対象が迷い人(ストレイシープ)であること。中央都市の付近で出没していること。その2つは分かっている。くれぐれも中央都市外での単独行動は慎んでくれ。そして行商人や馬車にも必ず護衛を付けるようにしてくれ。」


 男はそこまで言い終えると、急に倒れた。人狼局の床に血溜まりができる。冒険者(アドベラー)の数人が救助に向かう。人狼局の局員も途端に慌て出したようだ。


「これが治安悪化の原因だったみたいだね……」


 シーナが僕に言う。いつもと変わらない口調で言っているようだが、表情は暗い。それも仕方ないことではあるが。


「ちょっと休もうか。」


 人狼局の入口は人の行き来が激しくなっている。事態が落ち着くのを待つのが最善だと判断した。


「そうだね。」


 僕たちは空いていた人狼局の席に座る。近くでは冒険者(アドベラー)たちが目下の事態……怪物について話していた。


 僕たちは実際にその怪物に遭遇した訳であるが、まさかその怪物から逃げられたなどと口が裂けても言えることではない。つい先程、精鋭たちで組まれた調査部隊が壊滅したのだ。そこに逃げることができたなどと言えば、ホラ吹き呼ばわりされるか、祭り上げられて討伐に向かわされるかのどちらかになる事は疑いようのない。下手なことはしない方が良い。


 しばらく待っていると、治療師と思われる人たちが数人、人狼局に入ってきた。


「誰か治療師はいないか!?生き残った奴がいる!だが重症だ!治療師の数を多くしたい!」


 人狼局の中にいる冒険者(アドベラー)は互いに話し合うが、治療師が出てくる気配は無い。僕も決して光魔法回復系統の魔法が使えない訳では無いが、今ここで名乗り出るのは不自然だ。先程受付をしたばかりなのだ。下手に他の迷い人(ストレイシープ)にマークされるのは避けたい。


 結局、その治療師も治療に戻る為に、しばらくすると去っていった。


「さすがに罪悪感が残るな……。」


「でもロムスの言うように、私たちの印象はなるべく薄い方がいい。」


「そうだけど……。」


 僕は言葉を飲み込んだ。この先を言っても、シーナには関係の無い話だ。余計なお世話というやつだろう。素直に話を終わらせる。


「じゃあ、宿舎に行こうか。」


 シーナが頷く。場が落ち着いてきた今が頃合いだろう。僕たちは人狼局を出る。人狼局を出ると、太陽は傾き始めていた。お腹が鳴る。


「ふふっ、ロムス、お腹空いてるの?」


「恥ずかしながら……。急ぎ足で行ってもいい?」


「……うん、いいよ。」


 シーナは早足になっても笑っていた。そんなにお腹が鳴ったのがおかしいのだろうか。僕は少し不満だったが、我慢しておく。やっと元の雰囲気に戻ったのだ。無駄口を叩けば、また場の空気を乱しかねない。それだけは避けたかった。


 しばらく歩くと、言われた宿舎に着いた。質素な作りのようで、レトロな雰囲気が出ていて、意外とお洒落な建物である。僕とシーナは中に入った。


 1回は食堂と受付があるようだった。基本的には人狼局と構造が似ている。系列が同じだからなのだろう。だけど、それは少し残念だった。


「すみません、この部屋はどこですか?」


 部屋の鍵は渡されたが、部屋がどこかは分からない。僕とシーナはそれぞれの鍵を受付に座っていた女性に見せる。


「えっと……最近来た迷い人(ストレイシープ)さんですか?」


「はい、今日申請しました。」


「そうなんですね!人狼局は少し殺伐としている雰囲気だと思いますが、ここはそうでもないでしょう?」


「確かに……そうですね。」


 言われてみれば、人狼局のような雰囲気がこの宿舎には無い。恐らく宿舎にはしっかりとした規則を設けているのだろう。それが宿舎全体の雰囲気を損なわないようにしているのだ。


「だから2人ともこの宿舎の中では安心して暮らしてね。外での生活は大変だろうから。」


「……ありがとうございます。そうさせてもらいます。」


「それでよし!じゃあ、部屋に案内しようかな。奇遇にも2人は隣同士の部屋みたいだ。一緒においで。」


 僕は受付の女性に案内されて階段を昇った。1階の食堂から溢れる熱気は、2階に来ると一気に消え去った。一瞬にして夜になったみたいだ。


「いい部屋だよ。女の子の方が端部屋だね。君はその隣の部屋だ。」


「ありがとうございます。」


「……ありがとう。」


 僕とシーナはそれぞれ頭を下げた。「お易い御用!」と彼女はいい笑顔で笑った。それに釣られて、僕も笑ってしまった。


「……そ、それと、食堂っていつでも開いてますか?」


「えーっとね、食堂はウチの主人が料理を作ってるから、あんまり早い時間と遅い時間は空いてないね。少なくとも夜が開けている時間は開いてるよ。」


「分かりました。じゃあ、後で食堂にも行きたいと思います。それじゃあ、また。」


 僕はもう一度、彼女に頭を下げると、部屋に入った。シーナもその後、部屋に入ったようだ。まだ日が完全に暮れるまで、もう少しありそうだ。夕食まで少し寝ることにしよう。


「今日も色んなことがあったな……。」


 そう呟くと、僕の意識はだんだん薄れていった。




ポイント評価・ブックマーク登録お願いします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ