2 - 21.『Earth』
2-21.『チキュウ』
僕が目を覚ますと、すっかり日が暮れていた。隣の部屋も音はしない。もうシーナは食堂に降りただろうか。僕も部屋を出ると、1階に向かった。
「あ、目が覚めた?」
「はい、少し眠ってました。それでシーナは……」
「あなたの連れはそこにいるよ。あなたも夕食を食べておいき。」
「もちろん、そのつもりです。ありがとうございます。」
僕は一礼すると、シーナの元に向かった。シーナは二人席に1人で座っていた。その空いている席に座る。
「ロムス、よく眠れた?」
「うん。おかげさまで。……それにしても美味しそうな料理だね。」
テーブルに広げられた料理を見る。シーナ1人だったため、品目は大して多くないが、それでも見た目だけでこんなに美味しそうな料理は見たことがない。
「魔法が掛けられてるみたい。」
僕の疑問を先読みしたのか、シーナが答える。確かに魔法でも掛けられていないと、よだれが零れそうなほどに食べたくなるようなこの衝動は起こらないだろう。
「僕も料理頼んでくるね。」
食堂にはウェイトレスの役割を果たす人がいない。多分、受付を兼ねているあの女性がそうなのだろう。だから僕はそちらへ向かった。だが、その必要は無かったようだ。
「注文かい?」
いつの間にか僕たちの背後に立っていたらしい。全く気配を感じられなかった。恐ろしい人だ。おっと、でもそんな事を考える時間じゃない。僕は注文をする。
生憎とこの世界の文字は分からないため、丁寧に文字の横に添えられた写真を指さして僕は注文をする。
「これとこれとこれを。」
見た目だけで判断したが、多分美味しいだろう。注文を取り終えると、彼女は調理台の方へ向かう。その時に料理人の姿が見えた。繊細な盛り付けをしている人だとは思えない、筋骨隆々とした逞しい男性だった。
「あの人が料理人?」
「そうだよ。優しい人みたい。カエデさんから聞いた。」
「カエデさん?」
「受付の人。迷い人みたい。」
「ああ、それで。全然気配に気付かないと思ったら、この世界の人じゃなかったんだね。そう言われると納得できるよ。何か体術をしているようだったし。」
彼女……カエデさんは半袖だったが、そこから見える腕は女性にしては、筋肉がある程度あるものだった。如何せん、僕が素人であるため、はっきりとは分からなかったが、その予想は当たっていたらしい。
「お前らがここの新人か?たくさん食っていきな。」
どうやら出来たらしい。料理がテーブルに並べられる。奥には複数の料理人がいるのだろうか。この品目にしては完成までが早すぎるような……。
「ここに来た奴は全員言うんだが、これは全部俺一人で作ってるぜ?俺は料理系の魔法を使うからな。そういう世界から来たってことだ。」
つまり彼も迷い人。やはり至る所に迷い込んでいるらしい。
「ありがとうございます。じゃあ、頂きます。」
手を合わせると、僕はスープをスプーンで掬い、口に入れる。……美味しい。
「美味しいね。」
「おお、そうだろうとも!俺の魔法はそれだけじゃないからな?食べた者の能力を一時的に上げる効果もある。どんどん食べればその分お得ってことだ。」
「確かに力が漲るような気がします。」
「ガハハハ!おかわりは自由だ!でも残すなよ?」
「勿論ですよ。」
僕は二度三度頷く。一瞬だけ、首筋が冷える。これは殺気だ。刹那であったため、それをそうと悟らせないのが、実力者である証拠だろう。この筋肉は伊達じゃない、ということだ。僕は身震いする。
「そ、それよりも食べよう。」
シーナが首を傾げる。ほっといてくれ……。
+----------+
半分ほど食べ終わった時、誰かが近付いてくるのに気付いた。
「どうしましたか?」
「そんなに警戒しないでくれ。見ない顔だな、って思ったからさ。この世界に来てから短いんだろう?」
どうやら何かを仕掛けようとしている訳ではないらしい。言われた通り、警戒を解く。すると、相手も幾分か緊張が解れたのか、言葉を続けた。
「僕の名前はサグル。この世界に来て……3年かな。まだ友人も少ないからね。仲良くしてほしい。」
「ロムスです。こちらこそよろしくお願いします。」
差し出された手を握り、握手をする。
「彼女さんは?」
「……シーナです。」
「うん、シーナさん、よろしくね。」
相変わらず人見知りはあるようだ。でもそれに気付かなかったように、サグルは返事をしてくれた。優しい人のようだ。
「立って話をするのも失礼ですし、席を取ってきますね。」
僕は隣の空いていた椅子を持ってくる。シーナと僕の間に座ってもらう。「失礼するよ。」と言って、サグルは座った。僕がフォークを置くと、
「いやいや僕が押し掛けたんだ。ロムスは食べていていいよ。」
そう言われたので言葉に甘えることにする。少し料理は冷めてきたが、それはそれでまた違う味のようで味覚を刺激する。美味しい。
「サグルさんってどんな世界から来たんですか?」
話が始まらず気まずくなる前に、僕は話題を振った。サグルもそれに気付いていたのだろう。喜んで話に飛びつく。
「まだお互い知らないからね。まずはその話をしようか。」
彼は手短に彼の出生について語ってくれた。どうやら彼は〈チキュウ〉という広大な世界から来たらしい。サグルが住んでいたのは、その世界の中ではリンゴほどの大きさしかない所らしい。
そして彼が住んでいた〈ニホン〉という国は他国に比べて平和な国だったようだ。まず魔法が無い。それも驚きだが、人に危害を加える事は禁止されていたらしい。危害を加える道具も最小限と言うのだから、驚きである。
「ニホンでも昔は争いがあったんだけど、何百年も掛けてやっと僕が生まれた平和な時代になったんだ。」
彼がこの〈墓場の世界〉に来たのは、災害が原因だったらしい。タイフウと呼ばれる暴風雨によって家が壊され、その下敷きになったのが最後の記憶。確かに平和な国ではあるようだが、別の危険も存在するようだ。
「それでこの世界に来たと……。」
「うん。最初に人狼の世界に来た、と言われた時は驚いたよ。それにこの世界には僕のような境遇の人が多いこともね。君たちのような迷い人の事だ。」
「僕もここに来た時にはすごく驚きました。今でこそ落ち着いていますが、やはり迷い込んだ当初は精神的にもキツイものがあります。」
「とてもロムスが驚いている様子は想像できないよ。その話は本当かい?」
サグルは笑う。これは本当に気付いているのか、適当に言っただけか。少なくとも只者では無い。つい先程気付いたが、彼はいざと言う時に飛び道具を幾つも隠し持っている。更に腰に下がっているのは、麻痺や毒を治す薬だろう。あらゆる事態に備えているようだ。
「どうでしょう。」
僕は含みを持たせるだけにしておいた。あまり疑われたくはないが、嘘をついたと思われるよりは良いだろう。サグルはもう一度笑う。
「やっぱり面白い人だよ、ロムスは。だけど、僕が話したかったのはそうじゃない。この世界に迷い込んだ君たちに知っておいてもらわないといけない事だ。ここからは真面目な話だ。しっかりと聞いてくれ。」
そう言ってサグルは語り出した。
ポイント評価、ブックマーク登録お願いします!!




