2 - 7.『Report & Schoollife』
2-7.『報告。そして学校生活のひととき。』
閑話のようなものです。次回からはまたドタバタします。
「セルヴィアーダ公爵。」
執務室に一人の男が音もなく現れる。それはリルゲアだった。ロムスと戦った後、その足で公爵家へと立ち寄っていた。と言っても、公爵家までは相当な距離がある。リルゲアは魔法でここまで来ていた。
「リルゲアか。出来損ないと会ったか?」
「……はい、ロムスは私の受け持つクラスの生徒となりました。」
「結構。あいつはあれを使っていたのだな?」
「はい。【多重詠唱】を使用していました。また、それとは別の能力も使っていたようです。」
リルゲアの発言に公爵の顔が歪む。
「別の能力だと? 私が知らない事をあいつは知っているのか……? どんな能力だ。」
「正確には分かりませんが、魔法を打ち消すような効果を発揮していました。超位魔法すらも打ち消すほどです。魔法ではなく、能力であることは疑いようがありません。」
「そうか。あの忌々しい龍の血はまだ何かを隠していたということか……。それにあいつはどこでその能力の存在を知ったのだ……?」
公爵は思考を廻らす。家の中にはそれらしき文献は存在していないという事は分かっていた。となれば王都……そこまで考えた所でリルゲアが口を挟んだ。
「私は退出してもよろしいでしょうか? 魔力をかなり消耗していますので。」
「……詐欺師が。力の半分も発揮していないだろう?」
「どうでしょう?」
意味ありげな微笑みを残して、リルゲアは消え去った。公爵は溜息をつく。
「出来損ないもだが、リルゲアの処置についても考えないといけないようだ。おい、リース。」
リルゲアと同じように音もなく現れる。細身の男だ。
「何でしょう。」
「リルゲアを監視しろ。あいつが私を裏切るような事をすれば、即座に始末しろ。」
「……はい。」
リースは頭を垂れると、リルゲアと同じように消える。リースもリルゲアも公爵が抱える諜報員であった。誰もいなくなった執務室で公爵は笑う。
「あの出来損ないが暴走する前に、力を抑えなければならないな。そうすれば私は全てを手に入れる……ははははは!!!」
それに反応する者はいなかった。
+----------+
翌日。僕はヨルクスと登校していた。
「ねえ、ロムス? 君ってどこに住んでいるの?」
「宿だよ。家は遠いからね。仕方なく宿に住んでる。」
「そうなんだ。じゃあ、学院の寮に移ったら?」
「寮? 寮なんてあるの?」
初耳だった。どうせ父さんが意地悪で言わなかったのだろう。そうと知っていれば、お金を稼ぐ必要も無かったわけだ。
僕は宿代を払う為に、よく王都の外の森で魔物の駆除をしていた。冒険者ではないため、大した金額にはならないが、それでも宿代を稼ぐには良かった。でもその必要も無くなりそうだ。
「あ、でも、寮も毎月利用費を払わないといけないよ?」
僕の気持ちの盛り上がりは一瞬のうちに消え去った。
学院へと向かっている途中、スナートと会う。
「おぉ、おはよう。」
「ヨルクス、予習した?」
「……い、いや、してないよ?……先生何も言わなかったからね。それよりいいの?」
「いいんじゃない?」
僕とヨルクスは話しながら歩く。
「おい、待てよ……!!」
気付けばスナートと僕らとの距離はかなり離れていた。いつの間に後ろに下がったのだろう。おかしいなあ。その間も僕たちの足は止まらない。
「ええ、待ってくれよ……」
さすがに可哀想になった。話し掛ける。
「あ、スナートいたんだ。おはようー!!」
「ロムスって意外とサディストなんだな。」
「え?」
何か言ったみたいだけど、僕は聞こえなかった。いや、聞かなかった。
「行こうか。」
「あ、ああ」
僕たちが話していると、学院が目の前に近付いていた。話し込んだようだ。学院に入り、クラスを目指す。〈J-18〉……〈J-19〉……〈J-20〉。ここだね。扉を開く。
「兄貴、おはよう。」
中にいた愉快な5人組が話し掛けてくる。名前は……知らない。
「えっと……初めまして。」
「ひどい!?」
「ロムス~! おはよ~!」
「おはよう、リーラ。」
リーラとシーナがこちらに歩いてくる。もう来てたみたいだ。僕たちが最後かな。僕たちが部屋に入ると、その後ろからリルゲア先生が続く。
「みんな、おはよう。それじゃあ、授業を始めようか。」
リルゲア先生は教壇に立つと、重要な連絡をしていく。
「春華1月15日……えっと、明日からだね。〈J-19〉との合同授業を行います。それと〈新学祭〉の魔道大会の出場選手の募集を開始します。優勝者には特別報酬が出されます。希望者は私にまで。以上です。」
いよいよ僕の本当の学院生活が始まる。
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