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第19話 朝は元気に、ウォーミングアップを


◯孤児院 デアリスの部屋 1902年4月 朝


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まだ、日も昇って居ない様な早朝

寝返りを打つデアリス

その頭の中にウィスパーで声が響く

声の主はシュピナである

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 囁き声が頭の中で響く、少しずつその声が大きくなっているのを感じながらデアリスの意識は覚醒されていく。


『相棒(マスター)。朝だよぉー』

「うぅーん……」

『相棒(マスター)ってばぁー』

「あと、もう少しだけ……」


『相棒(マスター)!!!!!』

「おわぁ!」


 頭の中で声が弾け。デアリスは飛び起きる

 朝日もまだ昇るか昇らないかの時間に大音量でしゃべっているのは、シュピナだった。


『マスター、朝だよ! 朝になったらウォーミングアップしなきゃなんだよぉ。一緒にやろうよ!』

「あー、うるさい!もう少し寝たいんだってーの」


 ブランケットを頭まで被り、耳を塞ぐが、宝石少年(ジェムズ)の声は頭に直接響く為、まったく意味が無い。


『身体が欲しいよぉ。相棒(マスター)、頂戴よぉー。』

「なんなんだよ、シュピナ……」

『あ、やっと起きた。相棒(マスター)お願い、少年挿入(キャスト・インサート)して!』


 こんな早朝から、何を言ってるのか、迷惑な奴だなと、思ったが堪えて、眠い目をこすりベッドから這い出る。

 先日の挨拶で孤児院内では基本的にマルスがルームメイトの様な扱いに成ったため、彼は基本肉体が在る状態で眠っている。

 マルスを取り外し(エジェクト)しないと鋳造心臓《コア・ソケット》が使えない、致し方がないと、彼を揺り起こす。


「マルス、悪い。シュピナと交代してくれ……」

「ああ、了解だ、兄弟(マスター)」

「ごめんな!」


 取り外し(エジェクト)する、黒銀の光が放たれ、手にはヘマタイト(マルス)が転がる。

 ビロードの箱に彼を戻して。

 デアリスは、スピネル(シュピナ)を鋳造心臓(コア・ソケット)にセットする。


『早く早く!身体が鈍っちゃうからぁ』

「わかったから、待ってくれって……少年挿入(キャスト・インサート)」


 鋳造心臓(コア・ソケット)にラブベリーカラーの光が集約する。

 そして鋳造心臓(コア・ソケット)を中心に複数の八面体の結晶に覆われた。結晶はぐんぐんと伸びて。

 やがて一つの大きな八面体となる。ぴしり、と音がして、八面体の頂点にヒビが入る。

 そこから、大きなザクロの実を開くように割れてから、四方に砕けた。


 割れた結晶の中央から、溢れる様にラズベリーカラーの長髪を三つ編みにした少年シュピナが、現れる。

 宙を一回転してから着地して、飛び跳ねる様に喜んでいる。


「わぁ!生き返るぅ!相棒(マスター)ありがとう、助かった」

「そんなに窮屈か、宝石の姿って?」

「窮屈っていうか、落ち着かないんだよね」


 そう言って軽くその場でぴょんぴょんと跳ねてから、床に座り込み、ストレッチを始める。


(落ち着かない?どうしてだ……?)


 デアリスを横目にシュピナはストレッチをこなしている。

 その身体は関心するほど柔らかく、開脚された足は殆ど直線で、そこから真っ直ぐに投げ出した上半身も床にピッタリとくっついている。その様をデアリスは眺め、腕を組んだ。


「すごいな、そんな柔らかいのか」

「そうかな? 相棒(マスター)も始めたら良いよ」

「……折角起きたし、やってみるかな」


 提案に乗り床に座る、シュピナの動きを見様見真似して、開脚をして、上半身を前へ投げ出す。


「いててて……え、思ったより、キツくないか?」

「まぁ、ストレッチもだけど、身体を作るのは積み重ねだから、最初は痛いけど、続けると身になるよ」


 想像より、自分の身体が言うことを利かない事が悔しい。

 痛みに耐えながらデアリスはストレッチを続けつつ、シュピナへ疑問を投げた


「というか、シュピナはなんでそんなに身体を動かしたいんだよ」

「あれ? 言ってなかったっけ。おいら、曲芸師なんだよ」

「ああ、そういえば……」


 初めて会った時にも、凄まじい身体能力を見せてくれた。

 便利屋をはじめる時も、周りヘの設定はサーカスを転々としていたが独立を目指して資金を集める、という内容にしていた。


「曲芸師って、サーカスの?でもそれと、このストレッチ……関係あるのか?」

「あるさ、言ったでしょ?積み重ねだって」

「でも、お前宝石だろう?」


 それを聞いて、シュピナはふんっと鼻で息を強く吐いた。


「オイラ、人間の姿で生活してた時間が長かったからさ。身体が鈍るのが怖いんだ」

「怖い?」


 思わず聞き返す、するとシュピナは強く頷いた。


「一日休むと、取り戻すのに三日掛かる」

「うん?」

「サーカスで教わった言葉」


 思わず、ストレッチの動きが止まる。それを見てシュピナが立ち上がり、デアリスの背中を押した。

 最初は優しくだが、次第に可動域を超えて行く。痛い。


「いででで……」

「息止めちゃダメだよぉ。ちゃんと吸って、伸ばす時は、ながーく吐いてみて」


 デアリスは言われた通りに大きく息を吸い、長く吐きながら身体を伸ばす、呼吸を合わせて優しくシュピナはデアリスの身体を押す。


「……一日やらなければ自分に気付かれる。二日やらなければ仲間に気付かれる。三日間やらなければ、観客にも気付かれ。最後は誰もが去っていく」


 シュピナの言葉に、ドキリとして、思わず息が止まる。


「相棒(マスター)息、止めない」

「お、おう……痛った!……ぐぅ……」

「今、さっき言った言葉もサーカスで教わったんだぁ。だから、自分の為にも、仲間の為にも、そして観客の為にも、積み重ねておきたいってわけ」


 そう言うと、背中を押していた手を放して、シュピナは自分のストレッチに戻る。

 先ほどまでの床に座った状態に戻り、シュピナはお腹と太もも、胸と膝を完全に密着させた。

 それだけでも驚いていたのに、そこから更にお尻の後ろ側へ頭をくぐらせるように身体を押し込んだ。

 それはもうストレッチではなく、ひとつの曲芸だった。

 デアリスは思わずストレッチの手を止めて、大きく拍手をした。

 シュピナはその拍手に笑い、その姿勢を軟体動物の様に動かし、一度倒立してから、立ち上がって礼をした。


「……オイラ、この街で初めて人の姿になったんだよね」

「え、この街で?」


 てっきりどこか違う街でずっと過ごしていたとデアリスは想像していた。

 昔この街には滅多にサーカスが来なかったと、シスターや洗濯婦達から聞いていたからだ。

 なので、ずっと、国外で活動するサーカスで過ごしていたのだと勝手に思い込んでいたのである。


「何十年か前にさ、この街にサーカスが来たんだよ。それでさ、その時のお客さんが連れて行ってくれてさ、それでオイラもうすっかりサーカスの虜になっちゃってさ」


 そう言いながら、シュピナはぐぐぐ、と四肢を伸ばす。


「そんなに面白かったの?」

「すっごい楽しくてさぁー。オイラ、『あの人たちと一緒についていきたい』って言ったんだ」

「それで、当時のお前のマスターはオーケーしたのか?」


 懐かしい事を思い出す様に左上をシュピナは眺めた。


「いろいろ心配はされたけど、『そんなに行きたいならいいよ』って最後は言ってくれた」

「なるほどな、それで人間としてサーカスの一員に成ったわけか」

「そういうこと。いろんな練習したんだ。オイラ、ほら、目立つだろ。それに身体もちっこい、から一座から歓迎もされた」


「ありがたいことに鋳造心臓(コア・ソケット)ひとつをマスターが譲ってくれて。オイラは一座といろんな国でステージに立ったんだ」

「すごいなぁ……。ここから、いろんな場所に行って、いろんな人と会ったんだもんな」


 マルスの話も興味深かったけれど、みんな、想像を超える様な経験をしているのだと、デアリスは感動する。

 この世に生まれてから、この国どころかルビアの街から出たことすらないデアリスには、その記憶が新鮮で、鮮やかな物語の様だった。


「……でも、なんでやめちゃったんだ?オレの所に来たのは、なんか理由があるのか?」

「いやさ、オイラこの街に久しぶりに戻ってみたら知り合いがいて、それで相棒(マスター)を頼むって言われてさ」


 最初に会った時に、言っていた『信頼出来る奴』の事だろうか。


(もしかしたら、その人がオレの過去について知っているかも……?)


「なぁ、その知り合いって、どんなやつなんだ?」

「うーん、正しくは、知り合いによく似たやつ、かなぁ」


 よく似た奴、だとしたら話が大分変わる。

 それは、昔からの知り合いではない、全くの別人である。


「ちょっと待てよ。え、信用できるやつだって言ってたよな?」

「そうなんだけどさ。孫とかって言ってたから、問題ないかなぁって」

「孫?」


 孫、そりゃあ似ているだろう。だけど、それは本人では無い。別の人間だ、血の繋がった別のニンゲン。


「それ 知り合い じゃ あ な い じゃ あ な い か」

「いやぁ、オイラがこの街にいたのなんて、五十年くらい前だからさぁー、逆に本人だったらホラーじゃない?」

「五十年前?」

「そうそう。『祖父から頼まれている』みたいな感じだったんだよねぇ」


 笑いながら、そう返ってきた。

 シュピナの発言は冗談なのか本気なのか、いまひとつ掴みづらい。

 しかし、その話だけ聞くと、宝石箱を受け取ったオレアと大差無いのでは、とデアリスは頭を抱えた。


(たけど、五十年か、それは孫が出てきても可笑しくない時間経過だな……あれ?)


 ふと、デアリスは何かに引っかかった


(なんで孫はシュピナに気付けたんだろうか?)


 話は聞いていただろうし、手紙とかもあったのだろうけれど、声を掛けるのは見た目とかわからないと出来ないような……。

 質問をしたいが、なんて言えば良いか言葉が出せないでいると、シュピナはそのまま話を進めた。

 次第にその疑問は、言葉の渦に消えて、行方不明になってしまった。


「それで、『この街に来たんだったら、そいつを助ける仕事をしないか』って言われたから、おいら二つ返事でオーケーしたんだよ」

「よく、そんなの信用したな」

「うーん。なんて言ったらいいんだろう。魂の色が同じだったんだよね」

「魂の色?」

「なんか、アイツの血筋だし、なんだろう同じ意志をちゃんと継いでるって、感じたんだよねぇ」


 シュピナは少し遠くを見るような顔をした。


「オイラがこの街に最初に来たのは五十年くらい前。商売をしてる家に買われたんだ。それで、しばらくそこで少年挿入(キャスト・インサート)されて、仕事をしてたんだ」

「どんな仕事を?」

「今と一緒だよ。人助けしたりとか」


 確かに便利屋の仕事と同じ様な内容だ、でも折角あんなスゴ技が出来るなら、それも使えば良かったのに、と先ほどの常人離れした、軟体シュピナを思い出す。


「曲芸を見せたりとか?」

「いや、昔はそういうこと、出来なかったからさぁ」

「出来なかった?」

「オイラ、出来るようになるまで、何度も練習したんだよ?人のやってるの見たりさ」

「宝石少年(ジェムズ)ってなんでも器用にこなせるもんなんだと思ってた」

「まぁそうなんだけどね……」


 三人とも、自分より明らかに対応力があった為、デアリスはそうだと思い込んでいた。


「逆に、だからかな、憧れたんだ、夢が見れた」

「夢?」


 デアリスは話が気になって、まえのめりになる、

 そう、と頷くシュピナの瞳は乱反射して、磨かれた宝石そのモノの様に見えた。



『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』

原案:神田明子

作:西瓜すいか・差異等たかひ子

企画・制作:Hisshigumi Project


※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。



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最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


『ディスポーザブル・キャスト』を面白いと思っていただけたら、ぜひ応援していただけると嬉しいです。


ページ下部の【★評価】や【ブックマーク】をしていただけると、今後の連載の大きな励みになります!


ご感想も大歓迎です。

「このキャラクターが気になる!」など、一言でもぜひ聞かせてください。


毎日更新していきますので、これからも『ディスポーザブル・キャスト』をよろしくお願いいたします。

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