第2話 ヴァルミタール家の若旦那様
◯ルビアの街 小高い丘の上 ヴァルミタール家の屋敷 一階(1902年 3月)
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二名のメイド。
年長の者と、若い者、掃除をしている。
ドアの外、荷物配達人が訪れ、ドアベルを鳴らす。
年長のメイド、荷物を受け取る。
若いメイドは興味深そうに荷を見る。
年長のメイド、荷を解くと明るい顔をして、声を張り上げる。
今日はこの家の坊っちゃんの、祝いの日。
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坊っちゃん!という呼びかけが、屋敷に響く。執事がそれを聴き、若旦那様とお呼びするように、と返す。
そう、坊っちゃんという呼び名は、今日で終わり。
ここは小国の地方都市。十数年前に鉄道が通り、近代化の波が押し寄せた。人々の暮らしには、伝統も色濃く残ってはいるものの、貴族よりも商人、家柄よりも実利の方向へ、価値の天秤は大きく傾いた。
ヴァルミタール家はこの町に代々伝わる商家だ。徐々に規模を大きくして、最近はちょっとした家庭用の機械――ミシンや懐中時計も扱うようになった。舶来品や宝石など上流向けの商品も取り扱っている。――とはいっても、一番売れるのは石鹸や布、要は日用品だ。《日常に、少しの夢と彩りを》をコンセプトに揃えられたヴァルミタール家の商品は、この町で長く愛されていた。
「何?ズッカさん!」
坊っちゃん、という呼びかけに応じて現れた青年、アレクシス・ヴァルミタール。今年17歳になる。シャツに襟付きベスト、タイを締めているが、まだ表情にあどけなさが残る。
「お仕立てが届いたんですよ、坊っちゃんに」
「ですから、若旦那様だと申し上げているでしょう」
執事、ヨハン・クラウスヴァルトがメイド長をたしなめる。ヨハンは三十半ば。アレクシスの父より少し年下だが、落ち着いた雰囲気の男性だ。にぎやかなメイド長に静かな執事の、ちょっとしたバトル。ヴァルミタール家で毎日繰り返されている、日常の一コマだ。
「あらまァあたしったら。ほほ。どうもね、赤ん坊の頃から存じ上げてるもんですから、ついつい」
執事の指摘を気にもとめず、メイド長は笑った。メイド長が指示すると、すぐに見習いメイドのチェリカが、コートを持ってくる。
「若旦那様、こちらがあたらしいコートです」
「ささ、着てみてくださいな」
アレクシスはメイドたちに促されるままに、コートを羽織る。成人男性としての正装だ。
新調したフロックコートが、まだ少し重たげに見える。
「あらまァ若旦那様らしくなっちまって。」
「若旦那様、かっこいいです!」
「ありがとう、チェリカ。」
「チェリカ、メイドはそういうことを言わないんだよ。」
にこにこと嬉しそうなチェリカに、お小言が入る。見習いメイドの叔母でもあるメイド長からだ。
「でも、ズッカ叔母様だって見とれてたわ!」
「あたしはいいんだよ。チェリカ、あんたは行儀見習いに来てるんだから、もうちょっと一般的な言動ってものをだね……」
「ズッカさん、そのへんで。」
執事が叔母と姪の会話を止めた。しかしメイド長ズッカは構わず続ける。
「だけどねぇ、こういうのは、気づいたときに言わないと」
「ズッカさん。」
執事は、貼り付いたような笑みを浮かべて、復唱した。
「そ の へ ん で 。」
女2人は即座に黙った。この執事は物腰こそ柔らかいもの、怒らせると怖いのだ。
ヨハンは、よろしい、とひとこと言うと、コホン、と咳払いをした。
「若旦那さま。お仕度が整いましたら――」
執事が一礼して言う。
「旦那様がお呼びです。」
「いよいよ、なんだな。」
「はい。1年間の修行の、はじまりです。」
アレクシスは決意したように頷くと、ヨハンとともに、この家の当主、グレゴール・ヴァルミタールの部屋へと向かった。
『ディスポーザブル・キャスト-夢を見せる宝石少年-』
原案:神田明子
作:西瓜すいか・差異等たかひ子
企画・制作:Hisshigumi Project
※本作は複数の小説投稿サイト・媒体にて同時掲載しています。
第2話まで読んでくださり、ありがとうございます!
初日の2話をお楽しみいただけましたでしょうか。
『ディスポーザブル・キャスト』の物語は、まだ始まったばかり。
ここからアレクシスと宝石少年たちの世界が、少しずつ広がっていきます。
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次回、第3話は9月12日7:10公開。
以降、毎日7:10に新しい物語をお届けします。




