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ヨルから生まれた物語【第一部完結/9.18〜第二部開始】  作者: 灯ノ森みつき
【第一部】第五章《ヨル―撚る―》

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瞬く夜

不思議なくらい、穏やかな夜。


昼間の騒がしさが嘘のように、

窓の外には、

静かな闇が広がっていた。


Lunariaは、

誰もいない団欒室の長椅子の上で、

膝を抱えていた。


手の中には、

小さな猫の形をしたガラス細工。


兄が、最後にLunariaにくれたもの。


灯りを受けたガラスが、

指先の中で淡く輝いている。


「…………」


手のひらの上で転がしながら、考える。


兄が亡くなって、

まだたったの数ヶ月だった。


なのにLunariaの日々は、

こんなにも変わってしまった。


黎明国とのこと。


あれで良かったんだろうか。


……兄さまなら、どうしたのかしら。


何度考えても、

答えは出ない。


守ってくれていた兄は、

もういない。


父も母も、

遠い昔に亡くなっている。


……ひとりだった。


『Lunaria』


いっぱいの土産物を抱えて、

外遊先から帰って来た兄。


Lunariaの頭をぐしゃぐしゃ撫でて、

いつも嬉しそうに目を細めていた。


「……兄様。」


王になってまだ数日。


なのに――


兄は、

ずっとこんな場所にいたんだ。


Lunariaをぐしゃぐしゃ撫でながら。


笑って。


「……Leonis。」


兄の名前を呼ぶ。


兄は、完璧な王だった。


それでも。


いまのLunariaのように、

揺れた時もあったのだろうか。


王の座る場所は、

こんなにも暗くて、重い。


兄は。


この場所で、

どんな風に世界を見ていたんだろう。


「……会いたい。」


溢れた。


返る声は――ない。


「王様って、大変なのね。」


ぽつりと。


誰にともなく言う。


兄は、もういない。


けれど、

明日からも

世界は続いていく。


一日、一日を繋ぐようにして。


「……………」


ちら、と窓の外へ目を向ける。


西棟の中庭は、

まだ補修工事の途中だった。


今日は、

青年の灯りもない。


……猫達はどうしているのかしら。


思い出して、

少し眉根を寄せる。


「……なんなの、あの人。」


中庭で、

夜中に猫に餌をやっていた青年。


夜に現れた黒装束の男。


どちらとも。


Lunariaの知らないことを、

知っているようだった。


特異点。


観測対象。


座標。


世界がどこへ収束するのかを

“観る者”。


――Yule。


「……なんなの。」


自分のことらしい。


自分に関係のあることらしい。


なのに。


何ひとつ分からない。


なぜ、

あんなことが起きたのかも。


「………」


昼間の報告を思い出す。


黎明国は事件収束をもって、

明日、帰国の途に着く。


あちら側では、

『王族を殺害後、自責の念に囚われた神官の自殺』

という形で結論づけたようだった。


宵の国もまた、

一部人員が本国へ戻るらしい。


王弟付き高官達は残る。


けれど。


長く王都へ滞在していた者達の何人かは、

明日には王宮を離れることになる。


……その中に、

あの人もいるのかしら。


そうなると。


もう聞く当てがなくなってしまう。


「知ってる?」


ぽつりと。


側で揺らぐ夜へ問いかける。


Yule。


当然、

答えは返ってこない。


「あなたは、今日も綺麗なのね。」


泣いたり。


笑ったり。


怒ったり。


迷ったり。


常に揺らぐ人とは違って。


Yuleは変わらない。


いつも、そこにいる。


「……Yule?」


ふと。


金色の瞳が開いた。


底の知れない、

夜の色。


違和感に、

Lunariaは瞬きをする。


今……


目を閉じていた?


次の瞬間には、

気のせいだったような気もする。


けれど――


「………へんなの。」


やっと訪れた眠気に、

Lunariaは身を委ねることにした。


「おやすみなさい、 Yule。」


明日も世界は続いていく。


揺らぐ夜の側で。


Lunariaは静かに目を閉じた。

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