劍国中央神殿
劍国中央神殿。
継承の儀を明日に控え、
神殿内は慌ただしい空気に包まれていた。
「祭祀長様。」
神官長の声に、
高位神官はゆっくりと振り返る。
「本日の謁見ですが、
女王陛下のご都合により、
午後へ変更となりました。」
「……そうか。」
祭祀長は、
箱へ納められたままの細身の剣へ視線を落とした。
継承の儀――
初代国王より受け継がれてきた、
劍国で最も重要な祭祀だった。
神話の時代。
初代国王は、
《ヨル》を剣によって
自らの血脈に結びつけた。
以来、
直系の男子王族によって引き継がれ続け、今日に至っている。
だが……。
「……王女殿下で、大丈夫なのでしょうか。」
神官長が、ふと口にする。
誰もが胸に抱いている不安だった。
本来、剣によるヨルの継承は男性王族によってのみ行われていた。
しかし――
前国王の死によって、
直系の男性王族は途絶えてしまった。
神殿を満たす空気は、
静かな緊張を帯びていた。
失敗は、許されない――
「王女殿下は、体調がすぐれないようです。」
「…ふむ。」
長く顎に蓄えた白髭を撫でながら、
祭祀長は
先代の継承時を思い出していた。
今は亡き、前劍国王陛下。
彼が18歳の頃だった。
当時の継承者であった男性王族が、
突然に亡くなった。
それを境に、
唯一残された男子であった王太子の元へ、
ヨルがやって来たのだ。
「あの時と同じですな。」
ぽつりと、祭祀長がこぼした。
剣による、ヨルの継承。
それとは別の――
「ヨルは今、王女殿下の近くにおられます。」
神官長は息を呑んだ。
どうしても男子でなければならないならば、
傍系の血脈がどこかに残っているだろう。
だが。
それでも、ヨルの気配はLunariaの近くにあった。
……ならば。
「ヨルの意思に、従いましょう。」
祈るように、祭祀長は指を組む。
神官長も、同じ仕草をした。
剣は、王を選ぶ――
劍国では、そのように伝えられていた。
ヨルは。
誰を選ぶのか。
神に仕える者達には、
ただ祈ることしかできなかった。




