↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヨルから生まれた物語  作者: 灯ノ森みつき
一部:序章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/75

伝承◆プロローグⅠ


劍は王を選ぶ。


その地では、古くからそう語り継がれていた。


王が国を繋ぎ止める限り、劍は現れる。

それは王を守り、国を守り、境界を閉ざす。


だが誰も、その姿を知らない。


ただ幾度かの歴史の中で、王たちは記録を残した。


——それは剣であり、盾である。


世界の均衡を保つものだと。


二つを持つ王は選ばなければならない。


◇ ◇ ◇


晴れ渡った青い空に、白い鳥が舞っていた。


太陽に照らされた海洋。

帆船が帆を広げ出向していく。


宵の国、と呼ばれる国の港町。


煌めく水平線を眺める青年の頬を、

潮風が撫でていく。


明るい茶色の髪。

裾を短く揃えられた髪は洗いざらしのまま、

風に吹かれて柔らかく揺れていた。


海を映した、

夏の青空のような瞳は、どこか穏やかで。


白いシャツに胴衣といった、飾り気のない服装がよく似合っていた。


「なぁ、ちょっと選ぶの手伝ってくれよ。」


隣にいた短い灰銀髪の男が、

青年に声をかけた。


「え、僕がですか?」


「自分で選ぶと、いつも似たようなのになっちまうんだよ。」


男が立ち止まった露店の店先には、小さな硝子細工が並んでいた。


「妹さんへのお土産ですよね。」


「そう。」


地方へ出るたび、硝子細工をひとつ買って帰る。

それが、彼と妹との長年の習慣らしかった。


青年は広げられた品物を見回す。


「じゃあ、これなんかは?」


小鳥。

「持ってる。」


花。

「持ってる。」


星。

「あるな。」


「………。」


「だろ?」


男は苦笑した。


なるほど。


「それは悩みますね。」


青年も困ったように笑った。


「五歳の時からずっとだからなぁ。」


そう言う男の眉尻は下がっていた。

妹が可愛くて仕方ないらしい。


二人して、品物をじっくり見回す。


「他には……」


「たこ。」

「ないな。」


「……いか。」

「うまそう。」


「サメ。」

「怖ぇよ。」


「船。」

「俺は好きだけどなぁ。」


青年は思わず笑う。


あまり、女性の好みではなさそうだった。


「うち、海洋国家ですからね。」


港の方から、船が出航する鐘の合図が聞こえた。


「うーん……分かんねぇ。」


男は、ぼやきながら天を仰ぐ。

でも、その表情はどこか嬉しそうに見えた。


「あ。じゃあ、これなんかどうですか?」


言いながらひとつを手に取り、男にみせる。


「お。」


「お好きでしょう?」


青年が言うと、

自分を指刺しながら男が眉をひそめた。


「俺が?」


硝子細工と青年の顔を見比べる。


妹への土産物なのに。

そう思ってそうな顔だった。


だが、しばらく青年と硝子細工を眺めた後。


男はふと笑った。


「……悪くねぇ。これにするわ。」


店主に硬貨を手渡し、品物を受け取る。


「毎度あり。」


「おう、ありがとさん。」


まるで常連のように挨拶をし、

男はゆっくり歩き出した。 


町外れに待たせていた馬車に向かう。


「お、にいちゃん!

今日は酒場はいかねぇのか?」


「行きてぇんだけど、用事があるから今日は帰るわ。」


「また来いよ。」


「おう。」


港町の人々は、男の姿を見つけるたび気さくに声をかける。


青年も同じように手を振られ、

軽く会釈を返した。


「そんじゃ、帰るわ。」


「ええ、お気をつけて。」


馬車に乗り込む直前。


灰銀髪の男は、

何かを思い出したように青年を振り返った。


「……なぁ。」


「はい。」


「――――お前、いつ来んの?」


男の顔は、ふざけてはいなかった。


「……まだ言ってるんですか。」


「まだ言う。」


ぱっと、いつもの表情に戻る。

見間違いだったかと思うほど、一瞬だった。


「僕は選べる立場にありませんから。」


「お前、いっつもそれな。」


男が、わざとらしく大きなため息をつく。


「普通はさぁ、さすがにその気になるかと思うんだけどなぁ。」


「…………。」


はい、とも。


いいえ、とも。


青年は答えられなかった。


男は小さく肩をすくめる。


「まぁ……選ぶのは、お前だしな。」


「……はい。」


「じゃ。何かあった時は、頼むわ。」


その瞬間だけ。


青年の表情から笑みが消えた。


「……そんな日が来ないことを願ってます。」



「――またな。」


男は馬車へ乗り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。