第8話 異様な青年
稽古場に降りると、
ガルドが木剣を
二本持って待っていた。
「はい、これ」
一本を放ってきた。
反射的に掴んだ。
素振りを一度行う。
手に馴染んだ。
(木剣なんて久しぶりだな)
穴掘り師の天命を得てから、
一度も縁がなかったのに。
それを見てガルドが満足そうな笑みを浮かべた。
「ちょっと動いてみようか」
「え?副団長が」
誰かが驚いた声を上げた。
周囲がざわついた。
さっきまで手を動かしていた
団員たちが止まっている。
中には明らかな敵意を感じる視線もあった。
(気まずい)
この空気を作った元凶は相変わらずニヤケ面のまま、
向き合ってくる。
「どう、今の気分は?」
「最悪です」
「ははっ!」
それがゴングだった。
気づいた時には目の前まで剣先が伸びていた。
◇◇◇
速さだけで行った。
策も技も何もない。
ただ、
この一年で積み上げたものを全部足に込めた。
ガルドの目が変わった。
笑みが消えたわけじゃない。
ただ、さっきまでと違う目で俺を見ていた。
木剣が合わさる音が稽古場に響いた。
一合、二合、三合。
木剣のぶつかる音が稽古場に響く。
(速い)
ガルドは速いなんてもんじゃなかった。
何で自分がついていけているのかもわからない。
目の前に振ってくる
剣に対してガードをするだけで精一杯だった。
俺の踏み込みに対して、
半歩だけ動いて全部捌く。
無駄がない。
力じゃなく位置で受けている。
俺が必死に受け止めている間も、
ニヤケ面は継続されていた。
(くそ)
それでも止まれなかった。
◇◇◇
最後は踏み込みが一瞬遅れた。
ガルドの木剣が首筋に触れた。
「そこまで」
静かな声だった。
「はーーはーーー」
その場に倒れ込んだ。
止まった瞬間に汗が溢れた。
頭がガンガンする。
(一撃も当てられなかった)
悔しかった。
稽古場が静まり返っていた。
誰も何も言わなかった。
天井を見上げたまま息を整えた。
周囲をまともに見る余裕もなかった。
しばらくして、ガルドが顔を覗き込んできた。
「なんで笑ってんの」
(笑ってる?俺が?)
「そんな筈ないです。悔しかったので」
「楽しかったの間違いじゃない?」
首を動かして、ガルドを見た。
相変わらず何を考えているかはわからない。
ただ、失望した顔ではなかった。
「……そうかもしれないです」
ガルドは少し黙った。
それから、また例のニヤニヤが戻ってきた。
「そう」
それだけだった。
◇◇◇
アルドが稽古場を出ると、
しばらく誰も動かなかった。
剣の音が止まっていた。
足音も、声も、何もなかった。
まるで見てはいけないものを見てしまった後のような、
そんな静けさだった。
ここにいる者たちは皆、
王国でも一握りの精鋭だ。
家柄に恵まれ、血の滲む訓練を積んできた。
それでも、
さっき目の前で起きたことの意味が、
うまく処理できなかった。
穴掘り師。
十歳で授かる天命の中でも、
笑い話にしかならないものだ。
その天命を持つ少年が、
副団長の木剣を受け続けた。
誰かが小さく息を吐いた。
それが合図になるかと思ったが、
やはり誰も口を開かなかった。
ガルドは木剣を壁に立てかけた。
「思ったより早かったね」
独り言のような声だった。
誰に向けた言葉なのか、
誰も聞かなかった。
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改稿ばかりで申し訳ありません!!
ここまで読んでくださりありがとうございます!!
今日は暑かった…
もう既に夏が怖いです
毎日更新できるように頑張っていきます!!




