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澱界宮の探索者  作者: 赤上紫下
第 08 章

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01:探索者同士の情報共有を終えて

 人間は、依存症と呼ばれる状態に陥ることがある。

 よく聞くところではアルコール依存症、ニコチン依存症、薬物依存症、砂糖依存症など。砂糖なんかの糖類も広義ではアルコールの一種とも言えるし、ニコチンもアルコールもカフェインも広義では薬物とも言えるから全部一緒――というのは流石に暴論が過ぎるけど、共通点は確かにある。

 物質が絡まないものでは、ギャンブル、インターネット、スマホなどの行動が絡む依存症、人間関係の悪い例として挙げられているところをよく見る気がする共依存とか?

 まぁ、程度問題って奴で、依存症として扱われるのは、健康や精神などに関わるとわかっていてもそういった行動を止められないような、治療が必要だと周囲に思われる状態だろうけど。

 そういった依存症になる原因が何かといえば、『○○をすると気持ち良い』『○○をしないと気持ち悪い』といった学習をしすぎてしまった結果。脳の中に回路が作られる、なんて表現をされることもあるけど、それが物理的な事実なのか比喩なのかは知らない。

 そして、その中で特に危険なのは、薬物依存症かな。これも結局は快楽に繋がっているから依存してるわけだけど、禁止されるような薬物はとにかく快楽の強さだけを求めて副作用による体への影響がお構いなしだったり、製造環境が劣悪で不純物まみれだったり、そういう問題がない物でも効果中酷使されすぎた神経が壊れてしまったり。こっちの世界なら神経だって即日で簡単に治せるとはいえ、関わりたいものじゃない。

 関わりたくないと言えば、掲示板やSNSで頻繁にレスバを繰り広げている人達も関係依存に含まれる何かを持ってそうではある。実際の内心がどうだったとしても、『自分の味方は多い』『お前らの味方は少ない』『お前らは悪い○○と一緒』みたいなしょうもない詭弁合戦に加わる気はないけれど。

 ……そこら辺は別にどうでもいいか。


「ハァ……」


 情報共有中に予想外のところから織宮さんの幼馴染の所在が発覚したりもしたものの、その後は普通に解散して時間帯はまだお昼。

 澱界化した関東付近からの移住者を受け入れた巨大マンション群の大通りを、宙川さんの部屋に向かって、一駅分くらい余計に歩いてみているところだけど……地面は平地で、区画も整っていて、高さも幅もあるマンション群はどれもこれも同じデザインと、景色が全然変わらないから散歩には向かないね、この街。


「あっ、居た!?」

「?」


 突然、大きな声が聞こえてきた。

 何かあったのかなと声がした方を向いてみると、今しがた声を発したと思われる女の子と目が合った、だけでなく、小走りで俺の方に向かってくる。

 俺に用……いや、実は別の誰かに用が? と、一応後方確認をしてみたところ、延長線上にそれらしき人影はなかった。


「あのあの、すみません、二週間ほど前に、公民館の前で、悪魔みたいなモンスターを倒したり……大怪我を負っている金髪の女の人を助けていました、よね?」

「ん、あぁ、多分それは俺、だと思うけど……?」


 女の子の服装はラフっぽい動きやすそうな感じで、長さとボリュームのある髪を後ろで一本にまとめている。顔は高校生よりは下のような印象で、見覚えはある、ような気はする。敵意のようなものは感じないけど、何か用なのかな?


「あの時……連れて行った女の人は、助かりましたか?」

「うん。怪我は全部治ってて、今のところ日常生活は送れてるみたいだよ。精神的に本当に問題ないかは様子見の最中って感じではあるけど……知り合いだった?」

「えっと……ちょっと挨拶をしたことがある顔見知り、くらいですね。無事なら、良かったです」

「うん、そうだね」


 純粋に身を案じていただけ、って感じか。

 ちゃんとした知り合いだったら示野さんとかを介して無事は知って――いや、こっちのルートは認識阻害があるみたいだから、宙川さんの無事は知れても、変身した状態の宙川さんとは結び付かないのか。

 ……認識阻害と言えば、この女の子も、結構魔力を持ってるんだよなぁ。色と服装が違ってるから結び付かなかったけど、そういった違いがあることを前提として思い返してみれば――


「……一個確認だけど、あの場で俺と話してた男子とは、知り合い?」

「男子……あ、えっと、たしか、クリヤって呼ばれてた人でしょうか」

「そうそう、その男子」

「えー……と、そちらの人とも、挨拶をしたことはあるとは思いますが……そのぐらいですね。それがどうかしましたか?」

「あぁ、無関係に近いなら良いんだよ。俺が個人的にあの男子を関わらせたくないなって思ってるだけでね。それで提案。……俺はこれからその大怪我をしてた子に会いに行くところだったんだけど、良かったら会ってみる?」

「会うって……確かに、自分の目で無事を確かめたいとは思いますけど……良いんですか?」

「まぁ、本人に確認して、許可が出たらって話になるけどね」

「それはそうなんでしょうけど……良いんでしょうか」


 全く知らない相手だったら無事を知らせるだけで終わらせていたところだけど、俺はこの子のことを知っている。意識して聞いてみれば、声も同じような感じだった。


「同じ地域で活動していた……って、あんまり聞かれてないにしても、大通りで言うことじゃないか。ああ俺、認識阻害はほとんど効かないから、色を変えただけにしか見えないんだよ」

「えっ? え、えっ?!?」


 この子はほぼ間違いなく、中学生ぐらいの年齢に見えた魔法少女三人組の中の、青色の子。それなら、宙川さんに確認ぐらいはしてもいいと思える。


 宙川さんが入居している部屋の合鍵的な権限は俺の端末に既に付与されてはいるものの、一応改めてエントランスのインターホンから通話を繋げて事情を説明、許可を得て、二人で宙川さんの部屋へと移動した。


「こんにちは」

「こんにちはっ、今日も来てくださってありがとうございます。それと、そちらの子も……ひとまず、中へどうぞ」

「は、はい、お邪魔します……」


 なんか、ぎこちない雰囲気ではあるけど……互いに認識阻害が効いてたらそうもなる、のかな?

 ともかく、玄関はしっかり閉まったのを確認してから靴を脱いで、上下ジャージ姿の宙川さんの後に続いて1DKのダイニングへ移動。


「それで……インターホンで聞いた話では私の同類ということでしたか?」

「うん、会ったのが外だったから確認まではしなかったけど、あの辺りで活動していた魔法少女の、ブルーって呼ばれてた子、だよね?」

「は、はい……本当に効いてない、んですね……?」

「ああ、あの……たしか、ピースブルーさんでしたっけ?」

「……ピース?」

「普段はそこを省略して色だけで呼んでるみたいですけど、ちゃんと名乗る時にはそんな名前を名乗っていたかと……」

「へー」


 青色の魔法少女の子、ピースブルーって名乗ってたのか。

 名前を出された本人は、若干居心地悪そうにしているけども。


「ん、そういえば、宙川さんの方の変身中の名前は?」

「あー……この子達からはブラックと呼ばれてましたが、私はそういった名前は決めてなかったで……あっ、証明はしておいた方が良いですよね」


 話しながらおもむろに立ち上がった宙川さんは、光を放ちながらジャージ姿から黒いゴスロリドレス姿に、髪と眼の色も金色に変わった。

 変身が解除されかけていた時のような、軽く透けているような色合いではなく、まともな……まともな? ……魔法少女としては多分まともな、以前見た時と同じドレスではある。


「あ……ほ、ほんとに、ブラック、さん、でしたね。無事で良かったです」

「はい、ありがとうございます」


 ウィッシュの中の、魔法少女に変身できる子は、光で完全に隠れていたり肌そのものが虹色に光ってシルエットしかわからない子も居たから、普通に肌色が視認できる宙川さんの変身はちょっと珍しい気もしてたんだけど……一度完全な裸になっていた点については青色の子もノータッチか。


「その、基本的に、正体は隠すようにしているので……只野さんのような方でもなければ結び付きませんし……」

「なるほど。まぁ、俺だけが特別ってわけでもなくて、探索者なら認識阻害が効きにくい人や完全に効かない人も結構居るみたいだけどね」

「えっ、と……そうなんですか?」

「下級や中級の探索者は層が厚いから何とも言えないけど、上級探索者ならほぼ効かないんじゃないかな?」


 実際に試したわけじゃないし、認識阻害の強さにも個人差はあるはずだから、断定できるわけじゃないけども。


「上級探索者……って、どのくらいの強さなんでしょうか」

「強さに明確な基準があるわけじゃないけど……あー、ブルーさんは俺の近くに居た白衣を着た小柄な人とか、鎧を着た三人は見たでしょ?」

「え、えっと、はい。変身していない時は(たいら)と呼んでいただければ」

「ん、タイラさんね。ああ、俺の方は聞いてるだろうけど只野で……で、その四人と俺は上級探索者だけど、あの白衣の小柄な人はその中でも比較的強い方、って感じだね。もう一個上に超級探索者っていうランクもあるけど、こっちは会ったことがないから実力は知らないかな」

「な、なるほど……つ、強そうな人がいっぱい居るのはわかりました」

「そうだね」


 分布がどの程度かは知らないけど、超級探索者の数も一桁二桁程度ってことはないだろうから、いっぱい居るのは間違いない、はず。


「それじゃあ……あの、空に浮かんでいた映像の、白い巨人に、タダノさんは勝てますか?」

「んん……そもそもの話、あれは俺が目立ちたくなくて遠隔操作してたゴーレムだから、俺があれに対して勝ち負けを考えるのも変な話じゃない?」

「…………へっ?」


 タイラさんがシリアスっぽい雰囲気から、鳩が豆鉄砲を食らいでもしたような呆然とした表情に。

 まぁ、あのゴーレムが一般的には敵か味方かわからない謎の存在だと認識されてるのは俺も一応知ってはいたものの、内情を明かすかはちょっと悩んでたけど……なんか深刻に考えてそうだったからね。


「補足しておくと、あのゴーレムそのものの性能は大したことないんだよホント。中空のアクリル製で、総重量なら何トンかはあるけど、多分、外から補助しないと歩くのもキツいかな」

「え、えっ? い、いやいや、いくらなんでも、魔法を防いだり素早く空を飛んだりしてたじゃないの?!?」

「オレンジ色の壁を出したり魔法の制御を奪ってたのは、ゴーレムじゃなくて俺がやってただけだから、ゴーレムの性能じゃないんだよねぇ……それに、普通の飛行機の長さと割と近いサイズ感ではあったけど、飛行機の方が百何十トンかって重さなのに対して、あのゴーレムは本当に数トンしかないからね。生身で飛ぶのと比べれば必要な力は多いけど、それだけ軽いからこそ外からぶん回すのに必要な力は少なく済むわけで」

「え、ええぇぇぇ……」


 普通の推進力だと空気抵抗で大変なんだろうけど、周囲の風の流れを操作できるならむしろ扱いやすい部類だったんだよね。

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