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腹黒策士の伯爵令息は、怠惰令嬢を逃がさない  作者: 志熊みゅう


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10/10

10. 鳥かご

 自邸に着くとすぐにプリシラを医師に診せた。腹部は打撲。しばらく様子を見るように言われ、痛み止めを渡された。その日は心配で彼女の隣の椅子で寝た。


 次の日、目を覚ましたプリシラに当日何があったか聞いた。僕が教室に忘れた学園祭の準備ノートを生徒会室に届けようとして、リリアンに捕まったそうだ。学園祭のことは頭に入っていたから、何とかなったのに。プリシラは「慣れないことはするもんじゃないわね」と涼しい顔で言ったが、僕は余計に申し訳なくなった。


 僕たちは連日のように取り調べを受けた。プリシラの『日記』については明かさなかったが、騎士たちから聞かれたことには、なるべく誠実に答えた。隠し通路は全て特定され、近日中にふさがれることになった。人見知りのプリシラには、取り調べがかなり堪えたようで、全て「分からない」と答えて、騎士たちを困惑させていた。


 それから、しばらくプリシラは体調が悪いと言って、学園を休んだ。最後の方はサボリのような気もしたが、それでいいと思った。プリシラをこれ以上危険な目に遭わせたくない。安全な"鳥かご"の中で彼女を愛でて、彼女の願いを全て叶えてやりたいと思った。


 捜査でクィン先生は隣国のスパイだと分かった。本人は黙秘を続けているので、実際の目的は分からないが、王太子の学園卒業前にその婚約者を害して、権力闘争に持ち込むつもりだったのではないかと推測されている。


 一方リリアンは「私がヒロインだ」「どうして攻略対象の王太子が私に見向きもしないんだ」「あの悪役令嬢、かまととぶりやがって」と、独房の中で叫んで暴れているとのことだった。動機については、「『課金アイテム』の『キューピッドの涙』をもらう約束になっていた」と証言した。『キューピッドの涙』は隣国の幻の媚薬だそうだ。だが、本当に実在するものなのかどうかは分からない。


 今回の誘拐事件はリリアンとクィン先生の共謀で、その他の人物の関与は認められなかったが、エリントン男爵家はお取り潰しが決まり、学園長は事件の責任を取って職を辞した。


 プリシラと一緒に誘拐されたイーディスも大きな怪我はなく、殿下の計らいで彼女の護衛も増やされたという。


 プリシラの通学再開が決まり、僕は生徒会を辞めた。そして毎日彼女と一緒にタウンハウスに帰るようにした。


「モーリス、生徒会楽しそうだったのに、やめちゃって本当によかったの? 殿下がもったいないって言ってたわよ」


「プリシラをきちんと卒業させることの方が僕にとって重要ですから」


「ひぇええ!」


 最後までプリシラの成績はぎりぎりだったが、その勉強に辛抱強く付き合い、卒業も何とか決まった。卒業式で総代に選ばれた僕は、壇上で学園生活を振り返り、そして未来への抱負を述べた。僕が話している間、プリシラは半分以上寝ていた。


「これでやっと領地でゆっくりできるわ」


 帰りの馬車でプリシラがこぼすように言った。


「そうだね。プリシラ。早く君がゆっくりできるように、さっさと結婚式も挙げてしまおう」


 これ以上、余計な邪魔が入らないように、僕は結婚式の準備を予め進めていた。プリシラは自分のウェディングドレスさえ「選ぶのがめんどくさい」と言い、興味を持たなかった。だから、彼女に一番似合うだろうドレスを自分で選んだ。純白のドレスを身に纏ったプリシラは息をのむ美しさで、そのまま仕舞い込んで、誰にも見せたくないと思う程だった。


 結婚式は領民から祝福された。式で兄たちが敬語で話しかけてきたが、そんなことはどうでもよかった。プリシラが疲れないように、余計な演出はせず簡素に終わらせた。


 プリシラは、自分が無駄だと思うことをとことんしない人だ。結婚後はまず自分から邸の外に出ることはなかった。そんな彼女を、たまに湖水地方の別荘に連れ出し、必要な時だけ"賭け"に勝って、視察に同行させた。


 僕の用意した"鳥かご"の中で、プリシラなりの自由を謳歌しているようだった。子宝にも恵まれた。彼女にとっては"跡継ぎ"も面倒な話であることに違いはないが、それでも貴族にとって重要なことだと理解はしているようだった。そんなある日、チェスの駒を動かすプリシラが突然言った。


「私、あなたにはめられている気がするの」


「今さら気づいたんですか? ふふふ、チェックです」


「詰んだわ――これ私の負けね」


「不満そうですね」


「あなた、私に愛を求めないって言わなかった?」


「僕があなたを愛さないとは言っていませんから。もう逃がしませんので、この"鳥かご"の中で大人しく愛されてください」


 そう言って、彼女を抱き寄せた。


「仕方のない人ね。私も嫌いじゃないわ、モーリスのこと」


「誉め言葉として受け取っておきますね」


「――あ、動いた!」


 プリシラが腹に手を当てる。その手に自分の手を重ねた。


「次は男の子ですかね? 女の子ですかね?」


「生まれてからのお楽しみね」


 僕は知っている。彼女の「嫌いじゃない」は「大好き」という意味だってことを。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

ご評価、リアクション、ブックマーク頂けますと執筆の励みになります。

こちら『悪役令嬢プリシラの怠惰な生存戦略』https://ncode.syosetu.com/n1153li/ のスピンオフ作品なので、ご興味あったらぜひそちらも読んでみてください。

どうぞよろしくお願いします。

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