中学編・序章「自由に生きた獣」
はじめまして。
数ある作品の中から、『朝霧凛は、元獣王。』をお読みいただき、ありがとうございます。
強さだけを信じて生きてきた獣王が、人として生きる中で家族や友情、そして誰かを思う気持ちを知っていく物語です。
読み終えたあとに、少しだけ温かな気持ちになっていただけたら嬉しいです。
最初の炎が飛んできた時、私はまだ余裕を持っていた。
四人組だった。剣士、魔法使い、重戦士、弓使い。
人間にしては珍しく、この森の奥まで辿り着いたらしい。
「いたぞ! S級魔物だ! こいつを倒さなきゃ、あの実のもとには進めない!」
(進めないなら、別の道を行けばいいだろうに。)
そう思ったが、口にするのも面倒だった。
炎を片手で払い、風の刃をいなし、重戦士の突進をわずかにずらして受け流す。
一撃一撃の練度は高い。
だが、古竜や甲殻の巨獣と比べれば、脅威と呼ぶには足りない。
問題は、倒れないことだった。
何度叩き伏せても、四人は立ち上がる。
魔法使いの治癒が、仲間の傷を塞ぎ続けている。
(……面倒だが、本気を出すか。)
爪を振るうたび、鎧がひしゃげ、矢が折れ、魔力が乱れていく。
このまま押し切れる。
そう確信した、その瞬間だった。
魔法使いの手の中に、小さな宝珠が浮かび上がった。
見たことのない光だった。
次の瞬間、見えない鎖が四肢に絡みつく。
体が、動かない。
聖剣が、静かに光を帯びる。
剣士が踏み込む。
――確信の瞬間にこそ、隙は生まれる。
それを、私は知っていたはずだった。
光が、胸を貫いた。
熱が、意識を裂く。
……ああ。
力を求めたわけではない。
王を名乗ったつもりもない。
ただこの森で、気の向くままに生きていただけだ。
ある日、森の奥で見つけた紫の果実。
気まぐれに齧った一口が、すべての始まりだった。
あの酸味と甘みの、奇妙な均衡。
何百年経っても、一度も飽きることがなかった。
(……今年の紫りんご、まだ食べていなかったな)
光に包まれながら、ただ、それだけを思った。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ここから凛の「人間としての人生」が始まります。
これから彼女がどのように変わっていくのか、見守っていただけたら嬉しいです。




