㉛ 奴隷の貴族
「どうにかなりそうでよかったですね、リーダー」
「ああ」
そう答えたリュウムの声音は心なしか明るかった。
「この焼刻印さえ解除できれば、イオはもう奴隷にされることはない。そうしたら自分でどこへでも行けるようになる」
「僕はずっと主様についていきます」
リュウムは自分をじっと見上げてくるイオを見やった。
「イオ。お前は否定していたが、フロンタイトの言っていたことも一理ある。お前には自由に生きる権利があるんだ」
「しかし、戦っているのは僕の意志です」
「そうだろうな。だが、その意志は俺の与えてやれる選択肢の中で選んだだけのものだ。ここにいてもお前はそんな狭い自由しか得られない。悪いが、俺はお前に本当の自由を教えてやることはできない」
「……」
それでもなお顔を曇らせるイオに、リュウムはため息をついた。
「俺だって、いつまでもお前のそばにいてやれるわけじゃない。早めに他の……もっとマシな居場所を見つけた方がいい。それまでは守ってやる」
「主様……」
二人のやり取りを見守っていたアスサは、やれやれ、と肩をすくめてイオに耳打ちした。
「あんま落ち込むなよ? リーダーはイオを孤児院に入れたがってたからサァ……。まあでも、もうちょっと色々見てからどうするか決めてもいいかもね。俺としてはこのままいてくれると助かるけど〜イオ強いもん」
「おい、お前の願望を入れるな」
「いてて」
ミグロに耳を引っ張られてアスサは顔を顰めつつイオから離れた。
___君はもっと自由に生きていいんだ
不意にその言葉がイオの脳裏に蘇った。
(自由……。みんな僕が自由じゃないと言う。けど自由って、今よりも幸せなんだろうか)
あたりはだいぶ暗くなっていた。微かに明かりの漏れ出た小屋を振り返って、イオは黙々と歩き続けた。
◯◯◯
「失敗……か」
「……」
「それとも裏切りか?」
「……」
「どちらなのか聞かせてもらいたいものだな、シキ?」
ジェージニアント侯爵の執務室で彼と向き合いながら、シキはその威圧に飲み込まれないよう足に力を込めた。
「……ジェイストやトキジヤの到着が予想以上に早く……王子を暗殺するに至りませんでした」
「ほう? では失敗だと」
「……」
「フレミアの王子暗殺を邪魔したのも意図せぬ失敗か?」
「……彼は私を殺そうとしたのです」
「フン、本気なわけがなかろう」
侯爵は横柄な態度でせせら笑った。が、やがて乾いたその笑いは固く歪になった。
「まだわからんようだな、自分の立場が」
侯爵はシキの腕を掴むとぐっと握った。その途端、骨を砕かれるような衝撃がシキの全身を貫いた。
「っ!」
「お前の行動も命も全て我々の手中にあるのだ。密売人を殺そうとしたのは口封じのためか? 奴はお前の売り主だものな? はっ無駄なことを!」
喉と胸とを同時に押し潰されたように息すらできず崩れ落ちたシキの肩を、侯爵は角ばった革靴で踏みつけた。
「何をしようと変わらんのだ、お前が奴隷だという事実はな!」
「____ッ! く、」
投げ捨てるように腕を放り出されてようやく激痛から解放されたシキは、右腕を押さえてよろめいた。あがりきった息を整えながら、爪が食い込んで血が滲むほど強く腕を握りしめる。
(絶対に、絶対にこいつらの思い通りになんてさせてたまるか!)
幾重にも布を重ね覆い隠された焼刻印が、じくじくと熱をもって掌を焦がした。
(お前らがヤクを殺すと言うのなら、俺はどんな手を使ってでもヤクを生かしてみせる……!)




