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一翼のハイマヴィス  作者: かる
聖石争奪戦
53/94

⑮無視

 「……ヤク」

 ルーヴィンが投げつけた爆弾は、爆発の直前でシキを突き飛ばしたヤクに直撃したのだった。シキはよろめくような足取りで血溜まりのそばまで近づくと、すとんと膝を落として座り込んだ。

「ヤク……お前なんで……ヤク……」

 腹の辺りを中心に赤く染まったその身体はぴくりとも動かず、瞼は固く閉じられたままだった。

「答えろよ……目、開けろよ……。俺は、そうしてやっただろ……?」

 瞼に手を当てて無理にでもこじ開けようと試みたが、虚ろな瞳を見るのが不意に怖くなってやめてしまった。それでもまだ頰に温もりを感じて安堵したのも束の間、こめかみから流れる生ぬるい血がまとわりついていただけだった。

「ちィッ……ソイツ、が……先か……まあ、いい、さ……今度、こそ……キサマ、を……」

 自身の投げた爆発に煽られ、傍らに倒れていたルーヴィンが息絶え絶えに立ち上がった。ふらつきながらも左耳に手を伸ばす。シキはゆっくりとそちらを振り返った。ルーヴィンの行動の意図に気づいたのか気づいていないのか、眼光を失ったその瞳からは何も読み取れなかったが、両の目は立ち塞がる加害者を刺し殺さんばかりに見据えている。理性が消えただ殺意のみが立ち込めるこの空間が、今まさに両者の行動を支配しようとしていた。

 と、その時、何者かがルーヴィンの手を掴んだ。

「もうやめるんだ、ルーヴィン君」

「__⁉︎ ノ、ノイバー……⁉︎ なぜここに……」

「説明は後だ。それよりもう引き上げよう。君は自分の仕事を十分にこなしてみせた」

「ふ……ふざけるな! 僕は仕事のためにやってるんじゃない! コイツを殺す! 離せ!」

 ルーヴィンがめちゃくちゃに暴れる。しかしノイバーはむしろ握る手に力を込めた。

「これ以上続けては君まで死んでしまう。もう帰ろう」

「ノイバー! キサマまで僕の邪魔をするのか! コイツらを殺すのはジェイストにとっても益となる筈だ! それを邪魔するというのなら、今度こそキサマを裏切り者として告発してやる!」

「裏切ろうとしているのは君だよ、ルーヴィン君」

「……何?」

 ルーヴィンがぴたりと動きを止めた。強張った表情を隠す余裕もないのか、その瞳の奥が不安げに揺らぐ。

「ルーヴィン君、君はまだ我々の仲間に加わったばかりだから知らなかったかもしれないね。だからよく聞いてくれ。君を今帰らせようとしているのは私個人の意志ではない。ジェイストという、君が属する組織の意志だ。君が死ぬことも、私が君を見殺しにすることも、それこそがジェイストへの裏切りとなるんだよ」

「……なんですか、それ」

「リーダーの方針さ。さあ、わかったらここは引き上げよう」

「…………」

 ルーヴィンはシキに目をやった。が、先ほどよりは憎悪は薄まっていた。

(新たな構成員……これまで接触した中で最年長……だが、ボスは別にいる……)

 シキはぼんやりとそんなことを考えながら、遠ざかっていく二人を見つめていた。

(あんな下っ端を殺しても意味がない……が、情報を吐かせるために捕らえるのは簡単にはいかないだろう……今は、あいつらに構っている暇などない)

 腕の中で確実に冷えていくヤクの身体を前にして、シキは必死で止血を試みていた。

(止まらない……間に合わない……!)

「シキ君! ヤク君! 大丈夫⁉︎」

 茂みがガサガサと鳴ってセナが姿を現した。途端に、歓喜と安堵が全身を駆け巡る。

「セナ……! よく来てくれた! 頼む、ヤクを治してくれ!」

「ヤク君? ……!」

 シキの腕の中のものを見てセナはぎょっとしたかと思うと、たちまち悲痛そうに顔を歪めた。

「ああ……やっぱり、さっきの爆発音はこれだったんだね。間に合ってよかった。まだ息があるから、いくらでも治せる……」

「全くだ……お前、どこ行ってたんだ? 俺より先にヤコたちを追いかけて行っただろう?」

「見失っちゃったんだよ……シキ君、ヤク君たちの入れ替わり作戦のこと僕にも教えといてくれたらよかったのに。ヤク君がヤコちゃんを待っていた地点、特に茂みが高くなってて見つかりにくかったんだよ。しかも着替える時は完全に隠れちゃうんだもん。だから選んだんだろうけど、それで見失っちゃって……なんとか見つけたヤコちゃんに作戦のこと聞いて、ヤク君たちの方に加勢してほしいって言われたから君たちを探して、爆発音が聞こえたから辿って……それでこうして……」

「あーわかったわかった」

 セナがとうとうと語り出したので、面倒な気配を察知したシキは雑に話を打ち切った。ハツの理不尽に晒されているおかげか本人の気質か、セナは気分を害した様子はなくヤクに向き直った。

「もう少しだからね、ヤク君」

 セナはヤクの胸に手を当てると、すっと目を閉じた。

(俺の時もこんな風に治してくれてたんだな……)

 シキは感心したようにその様子を見守った。それにしても、自分が治してもらった時には一瞬で元通りになったような感覚がしたのだが、こうしてみると結構時間がかかるものらしい。怪我の具合が酷いせいもあるのだろうが、数分経ってもヤクの様子に変化はなかった。すると突然、セナはぱっと目を開けてへたり込んだ。

「セナ?」

「……どうしよう。治せない」

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