②ほんとは女の子?
シキはかつてないほどの焦燥感に襲われていた。いつもの自信に満ちた顔は消え冷や汗が頰を伝い、頭のてっぺんにピンと立っている髪の毛は今や見る影もなく萎れていた。指先は小刻みに震え、足取りもままならならかった。
彼のただならぬ様子に、傍にいたセナは訝しげに顔を覗き込んだ。
「シキ君どうしたの? お腹痛い?」
セナの声にハツが振り返ってせせら笑う。
「なんだお前、ビビってんのか? そーか国王はまだお前には早かったか、ジェージニアントのお坊ちゃん」
「……」
いつものように突っかかってくるハツに、シキは珍しく無反応だった。ハツはつまらなさそうにスタスタと歩みを早めた。セナが心配そうにシキに尋ねる。
「大丈夫? 確かに緊張するけど、何かあったらはーくんが守ってくれるよ!」
「……そんなことじゃない」
セナはますます訝しげに首を傾げた。
「……どうしたの?」
「俺は……とんでもない思い違いをしていた」
「思い違い?」
シキはきょろきょろとあたりを見回すと、深呼吸してから声を顰めて言った。
「ヤクが、女の子だった」
数日前、シキ、ハツ、セナの元に王宮への参上を命じる通達が届けられた。そこで初めて三人は、三人ともヤクの正体を知っていること、さらにシキはハツの正体を知ることとなり、新たな気持ちで久々の集合を果たすことになったのだった。そして今日、こうして三人は王宮へと足を踏み入れたわけだが。
「……ど、どういうこと? シキ君、さっきお手洗い行くって言ってたけど……その時に何かあったの?」
シキは神妙な面持ちで頷いた。
「案内されたところは、中庭に面した回廊を通る必要があったんだが……ふと中庭に人の気配を感じて目をやると、見慣れた金髪が見えたんだ」
「金髪……でもそれだけでヤク君とは……」
「俺の少し前を歩いていた衛兵からは見えなかったようだったが……あいつも俺に気づいたらしく、茂みの隙間からこっちを見た」
「目が合ったの?」
「ああ。確かにヤクだったよ。でもあいつ……ドレス着てたんだ」
「ド、ドレス……⁉︎ 」
「リボンとフリルだらけの、可愛いやつだ」
「それは……そういう、趣味、とか」
学園では制服を着るし……というセナの苦し紛れのフォローをシキは一蹴した。
「お前、手紙に書かれていたこと忘れたのか? 俺たち三人にあいつを加えた計四人に対して話があるってことだっただろ? ならあいつだって国王の元へ向かう途中だったはずだ。父親とはいえ国王の前だ、正装とまではいかずとも趣味全開の服は着ないだろ」
「それはそう……だね……」
しばしの沈黙。と、シキが再び重々しく口を開いた。
「俺たちが国王に呼ばれたの……なぜだと思う?」
「え? 確か、今後の学園生活について話すことがあるって……」
「俺、処分されるかも」
「へ?」
唐突に物騒な言葉が飛び出してセナは思わず素っ頓狂な声を上げた。が、シキは思い詰めた表情を崩さず続ける。
「ルームメイトだぞ……? 恐らく向こうが指定してきたんだろうとは思うが……それにしても……俺は同性だと思ったからあんなことだってして……」
「あ、あんなこと……?」
「寝落ちたあいつを運んで着替えさせたり……」
「肌着も?」
「そこまではしていない! てかそれならその時に気づいたはずだろ!」
「じゃあセーフだよ、知らなかったんだししょうがないよ」
「相手は王族だぞ⁉︎ 知らなかったで許されるかよ⁉︎」
「何騒いでんだよ? 着いたぞ」
自分だけ話に入れなかったせいか、ハツが不機嫌そうに振り向いた。王宮に慣れているらしいハツは、人払いされた今の王宮内で案内役を任されたのだが、どうやらきちんとその役目を果たしたらしい。気付けば国王の待つ謁見の間に続く扉が目の前に聳え立っていた。セナはシキに意味ありげに頷いてみせると、顔を寄せてそっと囁いた。
「大丈夫だよ、もし怒られちゃってもはーくんが守ってくれるから!」
「それはお前だけだろ!」




