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一翼のハイマヴィス  作者: かる
第4章 芸術祭
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②挨拶は元気よく

 親しげに……というほどではないが、見知った様子で挨拶を交わす二人をヤク達はびっくりして見つめた。この見るからに怪しげな男と気弱そうな学生にどんな接点があるというのだろう。

「こっちはカラカラの友達? 君に友達がいたとはね」

「あ、いや、友達ってわけじゃなくて……今ちょっと手伝ってもらってて……」

「ふーんなるほどねぇ」

 聞いているのかいないのか、男は軽く頷きながら再び作品たちに目を戻した。と、そこで後ろからぱたぱたと足音がした。

「お、やっぱり! カラさんじゃん!」

 足音に振り向いたカラカラを見て、駆け寄ってきた少年はぱっと顔を明るくした。

「え? あ、アキュさん!」

「ここの学生だったんだ〜」

 またも現れたカラカラの知り合いに、置いてけぼりの気配を察知したシキが口を挟んだ。

「カラカラ先輩、こちらの方々はあなたの知り合いですか? 見たところ学生でも教師でもないようですが、なぜここに……」

 シキはそこで言葉を切って、少年と男とを訝しげに見やった。

「えっと、それは多分……」

「招待されたんだ」

 そう言って少年が一歩進み出た。

「紹介が遅れたね。俺はアキュレイト。普段はフリーの歌手をやってるけど、今日はこの芸術祭での演奏を頼まれてこうして来ているのさ」

「アキュレイトって……あの有名歌手の⁉︎」

 セナが驚きの声を上げる。

「知ってるのか? セナ」

「もちろんだよ! どんな曲も歌いこなせる天才少年って評判なんだ! でも、各地を巡って演奏するものだからそう簡単に歌を聴けるものじゃないんだよ」

「そんな有名人とこいつが知り合いとはな」

 ハツが意外そうに呟くと、アキュレイトは意味深に笑った。

「人の縁って不思議なものさ。ところでカラさん、そっちの方は?」

「え? あ、こちらは、メレエさんで……」

「正確にはメレシアス・ラビン・ケフィンヤードだけどね。ここに来たのはそこのアキュさんと同じ。彫刻家としてこの芸術祭に呼ばれたのさ」

 要領を得ないカラカラの説明を引き継いでメレシアスがそう説明すると、またもセナが反応した。

「彫刻……? もしかして氷像作りの……?」

「そう、国を跨いでいる割にはよく知ってるね。肩書は彫刻家だけど、メインは氷像と雪像さ。カラカラの実家の方は雪質が良くてね、彼とは制作時に出会ったんだよ」

「へぇ〜」

 ヤクが感心したように声を上げる。著名な芸術家の作品ならば幼い頃から触れたきたが、実際に芸術家本人に会うのは初めてのことだった。

「君たちはカラさんの友達?」

「僕たちは……」

 ようやく挨拶の機会を得て、ヤクたちもまた自己紹介と事情の説明を済ませた。

「なるほど。それで準備が終わってこの作品を見てたってわけか」

 アキュレイトがまじまじと目の前の彫刻を見つめる。

「彫刻の専門家から見てどうなんだ?メレエさん」

「全くもってひどいね。素人ってだけじゃなく、みんな紋切り型だ。なんの思想もない」

「厳しいな。カラさんのはどれなんだ?」

「え、と、これ、ですけど……」

「彼の場合は素人なんてレベルじゃないね。おや? でもこれは……」

 メレシアスはさっと身を屈めて、カラカラの彫刻の隣に置かれていた作品に目をやった。

「……ふぅん。なかなかいいセンスをしてるじゃないか。へたくそだけど」

「へぇ……」

「それに匿名とはね。なかなか謙虚な作者だ」

「あ、あれ? そういえば名札がない……」

 カラカラは慌てて台の下や周りを見渡してみたが、それらしきものは何もなかった。とそこで、あのー、とセナが遠慮がちに声をかけた。

「時間は大丈夫ですか? 芸術祭の出演者として招かれたのなら、一般入場が始まる前に会場へ移動した方が良いんじゃ……」

「あ、そうだった! そろそろ行かないと」

 アキュレイトがさっと身を起こした。

「カラさん、大ホールってどっち?」

「そうだった、第一会場ってどこだい?」

 二人の招待客に同時に尋ねられて、カラカラは目を泳がせながら右と左とを両の手でそれぞれ指差した。

「えっと、あっち、です……」

「右だね! じゃ、演奏の時は来てよね!」

「左か、ではまた」

 各々が去っていったのを見届けてから、シキがぼそりと呟いた。

「大ホールって左ですよね? で、第一会場は右……」

「あーっ! そ、そうだった! まちがえたっ」

 カラカラはさぁっと青ざめて、二人の去った道を交互に見やった。

「て、訂正しないと! じゃ、えっと、さよなら! 色々ありがとうございましたっ」

 ばたばたと慌ただしく走っていくカラカラが見えなくなったところで、ゴーン、と鐘の音が響いた。

「一般入場の開始だな」

「やったぁ! とうとう芸術祭の幕開けだね!早く展示を見に行こう!」

「わ、おい、引っ張るな!」

 ヤクがシキの手をとって走り出す。いつもより騒がしくなってきた廊下を、四人は軽快に走り抜けていった。

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