プロローグ
本作は、高校生の青春物語です
一部に重たい描写がありますのでご注意ください
初投稿です
更新不定期です。完結目指して頑張りたいです!
楽しんでもらえたら嬉しいです
病室の窓は、いつも少しだけ開いている。春の風が入り込み、白いカーテンがそっと持ち上がる。ひらり、と布が揺れるたび、やわらかな日の光が部屋の中にこぼれ落ちた。
外では桜が満開だった。ほどけた花びらが空を舞い、何枚かが室内へ入ってくる。くるくると回りながら落ちてきたそれは、ベッドの上に腰かける二人のすぐそばへ、音もなく降っていった。
ベッドの上には、小さな背中が並んでいる。足は床に届かず、ぶらぶらと宙に揺れている。一人の腕からは細い管が伸びていて、動くたびに、小さく存在を主張する。それでも二人は気にした様子もなく、肩を寄せ合って座っていた。
「空を飛びたい?」
一泊おいて、聞き返された。
そんな言葉が出てくるとは思わなかったと言うふうに。
「空の、ずっと上まで」
小さな指先が、窓の外をそっと指す。高いところを示すその動きは、まだ少しぎこちない。
「上から見るとね、ぜんぶちっちゃくなるんだよ」
道も、家も、人も。
聞いているほうは、窓の向こうの空を見上げて、目を丸くする。
「ほんと?」
「ほんと」
声は自然と小さくなる。
誰かに聞かれたらいけない、大切な話をする時の声だ。
「こわくない?」
「……ちょっとだけ」
言葉はすぐに付け足された。
「でも、たのしいと思う」
宝物を見つけたときのようなキラキラした顔だった。
カーテンが揺れ、風が通り抜ける。花びらがもう一枚、二人の間に落ちた。それを見て、どちらからともなく、声を殺して笑う。
こしょこしょと、息がくすぐったいくらいの距離で囁かれる。
「おおきくなったら、行くんだ」
その言葉は、夢というより、決まりごとのようだった。
「じゃあ……」
少し考えてから、同じくらい小さな声が続く。
「いっしょにいこうよ」
一瞬の沈黙のあと、うん、と短く返事があった。
いつかの話で、いつになるかも分からない。それでも、今はそれでよかった。ベッドの上で、肩をくっつけて、未来の話をしているこの時間が、なにより大事だった。
窓の外では、2人を祝福するように桜が揺れている。
空は高く、遠く、やさしい色をしていた。




