表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇狼、地を貫く  作者: 神箭花飛麟
西域へ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/74

Ⅹ 崩御

時代考証などはすべて集英社「アジア人物史 第5巻 モンゴル帝国のユーラシア統一」に拠ります。

1222年、春。

アウラガ。

星歌の陣痛が、また始まった。

「うっ...!」

星歌が苦しそうに呻いた。

遼海と遼西が、外で待っていた。

「母上...」

遼海が心配そうに言った。

十歳になった長男は、もう立派な少年だった。

遼西が、兄の服を握っている。

三歳の次男は、不安そうだった。

「大丈夫だよ、遼西」

遼海が遼西の頭を撫でた。

「もうすぐ、弟か妹ができるから」

数刻後。

産声が聞こえた。

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「生まれたぞ!」

産婆が出てきた。

「男の子です」

「やった!」

遼海が笑顔になった。

「遼西、弟だって」

「おとうと?」

遼西が不思議そうに聞いた。

「うん、弟」

遼海が頷いた。

二人は、ゲルに入った。

星歌が、疲れた顔で横たわっていた。

だが、笑顔だった。

その腕に、小さな赤ん坊が抱かれている。

「遼海、遼西、見て」

星歌が言った。

「三男よ」

遼海は、赤ん坊を見た。

「小さいね」

「うん」

星歌が微笑んだ。

「名前は、遼高」

「遼高...」

遼海が復唱した。

「いい名前だ」

遼西が、遼高の手を握った。

「おとうと」

遼西が笑った。

星歌は、三人の息子を見つめた。

(舜...)

(また、息子が生まれたよ)


同じ頃。

チンギスの天幕。

チンギスは、六十を超えていた。

白髪が増え、顔にも皺が刻まれていた。

だが。

目には、まだ力があった。

「諸君」

チンギスが地図を広げた。

息子たちが集まっていた。

ジョチ、チャガタイ、オゴデイ、トルイ。

四人とも、もう立派な将軍だった。

「俺も、年を取った」

チンギスが言った。

「残された時間は、そう長くない」

「父上...」

オゴデイが心配そうに言った。

「だから、最後の征服をする」

チンギスが続けた。

「西夏だ」

「...!」

息子たちが驚いた。

「西夏は、もう属国ではないのですか?」

トルイが聞いた。

「ああ」

チンギスが頷いた。

「だが、最近、反抗的だ」

「貢物を送らなくなった」

「それに」

チンギスが続けた。

「俺が最初に征服した国だ」

「完全に、滅ぼしておきたい」

息子たちは、黙って聞いていた。

「準備をしろ」

チンギスが命じた。

「来年、西夏を攻める」

「はっ!」


遼舜が、戻ってきた。

「父上!」

遼海が駆け寄ってきた。

「遼海!」

遼舜が遼海を抱きしめた。

「大きくなったな」

「うん」

遼海が笑った。

「父上、見て」

遼海が遼舜の手を引いた。

ゲルの中。

星歌が、二人の赤ん坊を抱いていた。

遼西と遼高だ。

「舜...」

「星歌...!」

遼舜が駆け寄った。

「また...」

「三男よ」

星歌が微笑んだ。

「遼高」

「遼高...」

遼舜が赤ん坊を見た。

小さい。

だが、確かに生きている。

「俺たちの...三人目の子供」

遼舜の目から、涙が溢れた。

遼海が言った。

「父上、俺がちゃんと守るから」

「遼西も、遼高も」

「ああ」

遼舜が頷いた。

「お前が、兄だからな」

「うん」

遼海が真剣な顔で頷いた。

遼西が、遼高の手を握った。

「おとうと」

五人は、抱き合った。

家族の時間だった。


その夜。

遼舜は、記録を書いていた。

「1222年春、三男・遼高誕生」

遼舜は、筆を置いた。

(三人も、子供ができた)

(この草原で)

遼舜は、遼海を見た。

もう十歳。

文字も読めるし、書ける。

弓も扱える。

(遼海も、大きくなった)

(いつか、この子にも記録を継がせるべきか)


1226年、夏。

チンギスは、西夏への最後の遠征を開始した。

十万の大軍だった。

だが。

チンギスは、病に倒れた。

「殿!」

ボオルチュが駆け寄った。

「大丈夫だ...」

チンギスが苦しそうに言った。

「少し、疲れただけだ」

だが。

明らかに、体調が悪かった。

「殿、遠征を中止しましょう」

ムカリが言った。

「いや」

チンギスが首を振った。

「西夏を、滅ぼすまでは」

「ですが...」

「行く」

チンギスが立ち上がった。

だが、ふらついた。

「殿!」

息子たちが支えた。

「父上、無理はしないでください」

オゴデイが言った。

「...分かっている」

チンギスが答えた。

「だが、これが最後だ」

「俺の、最後の戦だ」


遼舜は、チンギスについていた。

遼海も、一緒だった。

十三歳になった長男は、初めて遠征に参加していた。

「父上」

遼海が言った。

「チンギス様、大丈夫かな」

「...分からない」

遼舜が正直に答えた。

「だが、無理をしておられる」

「...」

遼海は、不安そうだった。


西夏。

皇帝、李睍は、報告を受けていた。

「モンゴル軍が、また来た?」

「はい」

側近が震えながら答えた。

「チンギス・ハン自らが」

「...」

李睍は、震えた。

西夏は、すでに衰退していた。

兵力は、わずか三万。

モンゴルの十万には、勝てない。

「降伏するしか...」

李睍が呟いた。


数週間後。

モンゴル軍は、西夏の首都を包囲した。

だが。

チンギスは、天幕で横たわっていた。

病が、悪化していた。

「殿...」

ボオルチュが心配そうに見ている。

「ボオルチュ」

チンギスが呟いた。

「はい」

「俺は...もう長くない」

「殿、そんなことを...」

「分かっている」

チンギスが微笑んだ。

「だが、後悔はしていない」

「俺は、やりたいことをやった」

「草原を統一し、世界を征服した」

「...」

ボオルチュが涙を流した。

「息子たちを、呼んでくれ」

「はい」


息子たちが集まった。

ジョチ、チャガタイ、オゴデイ、トルイ。

四人が、父の周りに座った。

「お前たち」

チンギスが言った。

「俺が、死んだ後だ」

「父上!」

オゴデイが叫んだ。

「聞け」

チンギスが続けた。

「俺が死んだ後、オゴデイが跡を継げ」

「...!」

オゴデイが驚いた。

「ですが、長男はジョチ兄上...」

「ジョチとチャガタイは、仲が悪い」

チンギスが言った。

「お前が、一番調和が取れている」

「だから、お前が継げ」

「...承知しました」

オゴデイが頭を下げた。

ジョチとチャガタイも、頷いた。

トルイが聞いた。

「父上、俺は?」

「お前は、オゴデイを支えろ」

チンギスが答えた。

「お前は、賢い」

「オゴデイの良き補佐となれ」

「...はい」

トルイが涙を流した。

「そして」

チンギスが続けた。

「西夏を、滅ぼせ」

「俺の仇を、取れ」

「はい」

四人が一斉に答えた。


数日後。

西夏が降伏した。

李睍が、白旗を掲げて出てきた。

オゴデイが、李睍の前に立った。

「降伏を受け入れる」

オゴデイが言った。

「だが、父上の命令だ」

「西夏を、滅ぼす」

「...!」

李睍が震えた。

「お、お待ちを...」

だが。

オゴデイは、冷たく命じた。

「西夏の王族を、全て処刑しろ」

「街を、破壊しろ」

「西夏という国を、この世から消せ」

兵たちが、動き出した。

李睍は、処刑された。

西夏の王族も、全て殺された。

街は、破壊された。

西夏は、完全に滅亡した。


1227年、夏。

チンギスは、天幕で息を引き取った。

息子たちが、側にいた。

「父上...」

オゴデイが泣いていた。

「よく...戦った...」

チンギスが最後の言葉を残した。

「お前たちが...継いでくれ...」

チンギスは、息絶えた。

享年、六十六。

草原の覇者は、そうして死んだ。


遼舜は、記録を取っていた。

だが、涙を流していた。

「1227年夏、チンギス・ハン崩御」

「西夏、滅亡」

遼舜は、筆を置いた。

(チンギス様が...)

(亡くなられた)

遼海も、泣いていた。

「父上...チンギス様は...」

「偉大な方だった」

遼舜が答えた。

「世界を、征服した」

「今日、その生涯を終えられた」

遼海は、涙を拭った。

「父上、俺も記したい。チンギス様のことを」

「...ああ」

遼舜が頷いた。

「お前に、教えよう」

「記録者として」


モンゴルは、喪に服した。

だが、チンギスの遺言通り、オゴデイが跡を継ぐことになった。

新しい時代が、始まろうとしていた。

草原の風が、静かに吹いていた。

偉大な王の死を、悼むように。

レビュー、評価、感想をしてくだされば嬉しいです!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ