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第71話 交わり始める約束

蒼月亭を拠点に商売を始めた行商人ローク。

彼の願いは、人間とエルフの間に新たな交易の道を作ることだった。


その橋渡し役として、ミレーヌはエルフの少女アリアに相談する。

それは単なる取引の話ではなく、信頼の証を広げる第一歩でもあった。


そして同時に、エルフたち自身もまた、

蒼月亭の修理技術に、新たな可能性を見出し始めていた。

翌朝の蒼月亭は、柔らかな光に包まれていた。


朝食の片付けを終えたミレーヌは、広場の端で水桶を運んでいるアリアを見つけると、軽く手を振った。


「アリア、ちょっといいかい?」


「うん?」


アリアは桶を置き、ぱたぱたと駆け寄ってくる。

銀色の髪が朝日に揺れた。


「どうしたの?」


ミレーヌは少し声を落とした。


「ロークのことなんだけどね」


「あの行商人?」


「ああ」


ミレーヌは頷く。


「ここで商売することは決まった。でもね……もう一つ、望みがあるんだ」


アリアは静かに聞いている。


「エルフと取引したいって言ってる」


その言葉に、アリアの表情が少しだけ変わった。


驚きと、慎重さ。


「……そう」


「無理にとは言わないよ」


ミレーヌはすぐに続けた。


「ただ、長に話だけでも通してもらえないかと思ってね」


アリアは少し考え、やがて頷いた。


「わかったわ」


その声には、迷いがなかった。


「長に話してみる」


ミレーヌは微笑んだ。


「助かるよ」


アリアは小さく笑う。


「でもね」


「うん?」


「きっと長も、蒼月亭のことはもう知ってる」


その言葉には、確かな信頼が込められていた。


その後、アリアはカイのもとを訪れた。


カイは木箱の中の修理品を整理しているところだった。


「カイさん」


「あ、アリアさん」


カイは顔を上げる。


アリアは少しだけ躊躇うように言った。


「相談があるの」


「はい」


「私たちが使えそうな武器って、あるかな?」


カイは少し驚いた。


「武器、ですか」


「うん」


アリアは頷く。


「弓はある。でも……」


彼女は少しだけ視線を落とした。


「この前、みんなが助けてくれたでしょ」


魔物の襲撃。


あの時、自分たちは弓で援護することしかできなかった。


「弓だけじゃ足りないなって、思ったの」


カイは静かに聞いていた。


エルフの弓は強力だ。

だが、接近戦には向かない。


「それなら……」


カイは木箱の中から一本の短剣を取り出した。


「こういうものがいいかもしれません」


アリアはそれを見つめる。


細身で、軽く、扱いやすそうな短剣。


「短剣……」


「エルフの方は身軽ですから。重い武器より、補助として使えるものがいいと思います」


アリアはそっと受け取った。


重さを確かめる。


「……軽い」


驚いたように呟く。


「カイさんが直したの?」


「はい」


アリアは刃を光にかざす。


美しい輝きだった。


「これなら……」


彼女の瞳が、少しだけ強くなる。


「使えるかもしれない」


カイは優しく言った。


「もしよければ、長と相談してみてください」


「長と?」


「はい」


カイは頷く。


「エルフの皆さんに合う形に調整できますから」


アリアはカイを見る。


驚きと、喜び。


「調整まで……してくれるの?」


「もちろんです」


カイは微笑んだ。


「修理屋ですから」


アリアの胸の奥で、何かが温かく広がる。


この場所は、ただの宿ではない。


ここは、自分たちを強くしてくれる場所。


「……ありがとう」


アリアは小さく言った。


短剣を大切に抱える。


「長と話してみる」


カイは頷いた。


「はい」


アリアは振り返り、森の方へ歩き出す。


その背中には、新しい決意が宿っていた。


蒼月亭は、人間の場所でありながら、

エルフにとっても、帰って来られる場所になり始めていた。

第71話では、蒼月亭とエルフの関係がさらに一歩進みました。


ロークの願いによって始まる交易の可能性。

そして、エルフたち自身が武器という新たな力を求め始めます。


弓を主とするエルフにとって、短剣は未知の領域。

それは戦い方だけでなく、価値観の変化の始まりでもあります。


蒼月亭は今、

人間とエルフを繋ぐ、新たな結節点となろうとしています。


次回――

エルフの長が、この提案にどう応えるのかが描かれます。

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