第二章 第七十九話 森村との取引
流れを作るには、一方的では続きません。
物も、人も、互いに必要として初めて道になるのでした。
「木材、ですか」
村長はカイ達を見ながら静かに呟いた。
森村――
そう呼ばれているこの村は、木の切り出しで生計を立てているらしい。
村のあちこちには丸太が積まれ、木材を削る音も聞こえている。
「橋側の宿を広げたいんです」
カイが説明する。
「馬小屋と、荷物置き場と……」
少し考え。
「あと、倉庫も」
その言葉に、村長は少し目を細めた。
「橋の先の宿か」
「知ってるんですか?」
レンが聞く。
「最近、商人がよく話しておる」
村長は頷いた。
「橋が出来てから、人の流れが変わったとな」
その横では、職人達が積まれた木材を見ていた。
「かなりあるな……」
「質も悪くねぇ」
完全に職人目線だった。
村長はカイ達の荷車を見る。
特に防御板付きの構造が気になったらしい。
「変わった荷車だな」
「紅陽で作りました」
カイが答える。
「ほぉ……」
村長は少し感心したようだった。
その時。
「問題は量だな」
木材切り出し係の男が口を開く。
「かなり必要になる」
馬小屋。
倉庫。
荷車置き場。
全部合わせると、相当な木材量になる。
村長は少し考え込み――
そして言った。
「売る事自体は構わん」
その瞬間、職人達の顔が少し明るくなる。
だが。
「ただし、運べるのか?」
その視線が荷車へ向く。
森道は狭い。
普通の大型荷車だと効率が悪い。
その問いに、レンが笑った。
「試してみるさ」
カイも頷く。
「元々そのために来ました」
すると村長は少し驚いた顔をした。
「試験運用か」
「はい」
「なるほどな……」
少し納得したようだった。
その時。
村人の一人が近付いてくる。
「村長」
「何だ」
「最近、森側で魔物増えてる」
その場の空気が少し変わる。
レンがすぐ反応した。
「多いのか?」
「前よりは」
「特に夜」
村人は少し不安そうだった。
すると、後ろで話を聞いていた職人達が顔を見合わせる。
「……護衛必要だな」
「木材運搬中に来られると面倒だぞ」
「切り出し中も危ねぇ」
現実問題だった。
その横で、カイは少し考え込み――
「ポーション、持ってきた方がいいですね」
ぽつりと言った。
レンがそちらを見る。
「蒼月亭のか?」
「はい」
最近、蒼月亭では簡単な回復薬も扱い始めている。
まだ本格量産ではない。
だが日常使用には十分役立っていた。
村長も少し驚く。
「薬まであるのか」
「今後、人の流れ増えると思うので」
カイは真面目に答えた。
「怪我も増えるかもしれません」
その言葉に、村長はしばらく黙っていた。
橋。
宿。
荷車。
そして薬。
少し前まで、この辺りには無かった流れだ。
やがて。
「……面白いな」
村長が小さく笑った。
「橋一つで、ここまで変わるか」
その言葉に、レンも笑う。
「まだ変わると思うぞ」
それは冗談ではなかった。
荷車。
物流。
木材。
宿。
全部が繋がり始めている。
そしてその中心には、確かに紅陽があった。
「よし」
村長が杖を軽く突く。
「取引しよう」
その瞬間。
職人達が一気に動き出した。
「まず積載量確認だ!」
「荷台どこまで積める!?」
「森道回れるか見ねぇとな!」
完全に仕事モードだった。
カイも荷車へ視線を向ける。
紅陽式荷車。
その役割は、少しずつ広がり始めていた。
今回は“森村との取引成立”回でした。
木材輸送と同時に、森側との新しい流れも生まれ始めています。




