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第二章 第十七話 紅陽総出戦

街を守るのは、強い者だけではありません。

支える者、運ぶ者、繋ぐ者。

その全てが揃って、初めて“街”になります。

それが現れたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


――ズシン。


再び地面が揺れる。


今度は誰も聞き間違えなかった。


工事中だった住民達の動きが止まる。


「……まただ」


レオンが振り返る。


次の瞬間。


西門側の見張り台から声が飛んだ。


「大型魔物接近!!」


空気が一変する。


「距離は?」


ダリウスが即座に叫ぶ。


「森側より接近中! 岩殻猪です!!」


ざわめきが広がる。


巨大な突進型魔物。


石壁すら砕く大型種。


しかも。


「真っ直ぐこっち来てる!」


フィオが顔をしかめた。


視線の先。


まだ遠い。


だが木々をなぎ倒しながら、巨大な影が迫ってくる。


「最悪だな」


ロークが舌打ちする。


「よりによって工事中かよ」


中央通りには、まだ固定途中の石畳。


積み上げられた石材。


木材。


未完成の排水溝。


今ここへ突っ込まれれば、全部吹き飛ぶ。


「せっかく作ってるのに壊されてたまるか!」


ルナの声が変わった。


低い。


静かな圧。


いつもの軽さが消える。


ダリウスが即座に動く。


「住民は第二線へ下がれ!」


「荷車を広場横へ移動!」


「石材は壁側へ寄せろ!」


声が飛ぶ。


だが混乱は起きない。


紅陽は、以前の廃村ではない。


警備隊が動き、住民達が即座に反応する。


「運べ運べ!」


「子供達は蒼月亭へ!」


「鍛冶場の水桶持ってこい!」


街全体が、一つの生き物のように動き始める。


その中心。


ローク武器屋。


「武器貸し出す!」


ロークが店の扉を蹴り開けた。


「槍持てる奴は前へ!」


「壊したら後で払えよ!」


「今は生き残る方が先だ!」


武器屋が、一瞬で前線基地へ変わる。


冒険者達が槍を取る。


警備隊が盾を運ぶ。


カイは工具箱を抱えながら走っていた。


「こっち補強します!」


「杭追加しろ!」


ロークが怒鳴る。


未完成の石畳前へ、即席バリケード が組まれていく。


その後ろでは、ミレーヌが大声を張っていた。


「怪我人は蒼月亭へ!」


「水は切らすんじゃないよ!」


「動ける奴は全員手伝いな!」


旅人達まで動き始めている。


その様子を見て、エドガーが呆然と呟いた。


「……なんだこの街」


普通なら崩れる。


大型魔物が来た時点で混乱する。


だが紅陽は違った。


全員が、“何をすべきか”を理解している。


その時。


森を突き破るように、巨大な影が現れた。


岩殻猪。


岩のような装甲。


巨大な牙。


そして、地面を砕く突進力。


「来るぞ!」


レオンが剣を抜く。


リディアは静かに前へ出た。


青白い光が、剣へ流れる。


「正面止める」


短い言葉。


「右は任せて」


ルナが笑った。


だが、その目は完全に獣だった。


次の瞬間。


岩殻猪が突進する。


地面が揺れる。


石材が跳ねる。


「遅い」


ルナが消えた。


――シュン。


一瞬で側面へ回り込み、前脚へ蹴りを叩き込む。


轟音。


巨体がわずかに傾く。


「それで壊せると思った?」


上からの声。


次の瞬間。


リディアが真正面から踏み込んだ。


青白い一閃。


牙の付け根へ、正確な斬撃。


岩のような装甲が軋む。


「……っ!」


岩殻猪が怒号を上げる。


だが止まらない。


「左へ誘導!」


ダリウスが叫ぶ。


即座に警備隊が動く。


石材置き場から遠ざけるように、盾を叩きながら誘導する。


「フィオ!」


「見えてる!」


矢が飛ぶ。


目。


関節。


柔らかい場所だけを正確に射抜く。


セラの魔法が地面を凍らせる。


突進速度が鈍る。


その間にも、住民達は止まらない。


「石材退避完了!」


「負傷者二名!」


「水持ってこい!」


蒼月亭では、レンファが治療を始めていた。


ミレーヌは次々と指示を飛ばす。


誰か一人の戦いじゃない。


街全体で守っている。


その光景を見ながら、エドガーは小さく呟いた。


「……これが、紅陽」


ただ強いだけではない。


機能している。


繋がっている。


だから崩れない。


岩殻猪が再び突進しようとした、その瞬間。


リディアの剣が閃く。


ルナが横から跳ぶ。


青白い光と、黒い影。


二つの攻撃が同時に叩き込まれた。


轟音。


巨体が、大きく揺れる。


そして――


紅陽の石畳、その手前で止まった。

今回は“街全体で守る戦い”でした。


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