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第二章 第二話 増え続ける街

紅陽は、少しずつ“街”になってきています。

けれど、人が増えるということは、問題も増えるということで――。

昼前の蒼月亭は、すでに満席だった。


「はいよ、煮込み二つ! パン追加はちょっと待っておくれ!」


ミレーヌの声が飛び、皿の音が重なる。


商人達の笑い声。旅人の話し声。奥では冒険者達が地図を広げている。


以前なら考えられない光景だった。


「……本当に増えましたねぇ」


カイは運ばれてきた空の皿を抱えながら苦笑した。


「増えたで済めばいいんだけどねぇ」


ミレーヌが鍋をかき混ぜる。


「最近は宿が足りないよ」


「他にも宿屋は増えましたよね?」


「増えたさ。でも人の増え方の方が早いんだよ」


実際、紅陽には新しい宿が何軒も建っている。


小さな家族経営の宿。


冒険者向けの安宿。


商人相手の少し大きめの宿。


だが、それでも足りなかった。


特に交易商人が増えたのが大きい。


アルヴェリアとの交易。


ヴェルディア商業同盟との接続。


その影響で、人と物が想像以上の速さで流れ込んでいた。


「蒼月亭だけで抱える時代じゃなくなったんだねぇ」


ミレーヌが少しだけ遠くを見る。


そこへ、入口の扉が開いた。


「おー、相変わらず混んでんな」


ロークだった。


後ろには木材を担いだ男達もいる。


「お疲れ様です」


カイが声をかける。


「今日は建築ですか?」


「ああ。西側の空き地にな、新しい店が建つ」


「また?」


「今度は道具屋だとよ」


ロークは肩を回した。


「最近は建てても建てても足りねぇ」


「嬉しい悲鳴ですねぇ」


「まぁな」


そう言いながらも、ロークの顔は悪くない。


窓の外では、警備隊が通りを巡回していた。


その中心を歩いているのはダリウスだ。


「止まれ」


低い声。


荷車同士が狭い道でぶつかりそうになっていた。


「先に左を通せ。そっちは荷が重い」


短い指示。


それだけで混乱が収まる。


以前なら怒鳴り合いになっていただろう。


「最近、隊長ずっと忙しそうにゃ」


窓際で食事していたルナが言った。


「人が増えたからね」


カイが答える。


「警備の範囲も広がってますし」


「にゃー……」


ルナはスープを飲みながら外を見る。


「でも、嫌な感じはしないにゃ」


「そうですね」


カイも頷いた。


騒がしい。


忙しい。


けれど、活気がある。


誰もが前を向いて動いている。


それは少し前の紅陽にはなかった空気だった。


「お待たせしましたー!」


ミレーヌが新しい皿を運ぶ。


その途中、入り口近くの客達が少しざわついた。


「ん?」


カイが視線を向ける。


見慣れない男達だった。


装備は旅人風だが、腰には短剣。荷物も軽い。


商人というより、何かを探している目だった。


ルナの耳がぴくりと動く。


「……知らない匂いにゃ」


「問題ありそうですか?」


「そこまではわかんないにゃ。でも、旅慣れてる」


男達は蒼月亭の中を見回しながら席につく。


その様子を、カリナが静かに見ていた。


「……増えたのは、人だけではありませんね」


帳簿から顔を上げる。


「情報も、視線も、外の思惑も増えている」


ミレーヌがため息を吐く。


「平和になったと思ったらこれだよ」


「平和だから集まるんです」


カリナは即答した。


「価値のある場所には、人が来ます」


「その中には、面倒も混ざるってことか」


ロークが椅子に腰掛ける。


「そういうことです」


カイは窓の外を見る。


荷車。


人波。


建築途中の家。


行き交う商人。


少し前まで、ここは何もない場所だった。


けれど今は違う。


紅陽はもう、小さな拠点ではない。


人が流れ、物が動き、外の世界と繋がり始めている。


だからこそ。


「ちゃんと整えないといけませんね」


カイがぽつりと言う。


「道も、店も、人の流れも」


ロークが笑う。


「修理屋のくせに、街のこと考えてんな」


「住んでますからねぇ」


「違ぇねぇ」


その時、ミレーヌが厨房の奥から顔を出した。


「カイ!」


「はい?」


「椅子壊れた!」


「またですか!?」


「商人が座った瞬間にゃ」


「ルナちゃん!?」


「知らないにゃ」


絶対知ってる顔だった。


蒼月亭に笑い声が広がる。


騒がしくて、忙しくて、少し狭い。


けれど、その空気はどこか心地良かった。


紅陽は今日も変わり続けている。


まだ完成なんてしていない。


だからこそ、この街は前へ進んでいくのだろう。

第二章は、まず“街になった紅陽”をじっくり描いていきます。


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