第187話「仮面の下」
守りたいものができた時、隠し続けることはできない。
蒼月亭、夕刻。
賑わいは少しずつ落ち着き始めていた。
「今日はここまでかな」
ミレーヌが肩を回す。
「助かるよ、分散できて」
マリアンヌが笑う。
「でしょ?」
「こっちもいい感じよ」
ベルンは黙々と片付けている。
ガルドは工具を拭いている。
紅陽は、もう以前の廃村ではなかった。
その時。
扉が開く。
「……失礼」
静かな声。
一人の男が入ってくる。
旅装束。
商人にも見える。
冒険者にも見える。
だが。
店へ入った瞬間。
ルミアの手が止まった。
ほんの一瞬。
誰も気付かないほどの動き。
だが。
カリナだけは気付いていた。
「……」
小さく視線を交わす。
それだけだった。
男は周囲を見渡す。
蒼月亭。
客。
従業員。
そして。
ルミアを見た。
ほんの僅かに目が細くなる。
だが何も言わない。
そのまま席へ座る。
「食事を一つ」
「はい」
ルミアが普通に応じる。
だが。
どこか空気がおかしかった。
レンが小声で言う。
「……知り合いか?」
「さぁ?」
ルナが笑う。
「でも、なんか変だね」
リディアも視線だけ向ける。
「……ああ」
違和感。
だが敵意はない。
男は静かに食事を取る。
そして代金を置いた。
「ごちそうさまでした」
立ち上がる。
帰り際。
ルミアの近くを通る。
その瞬間。
誰にも聞こえない声で言った。
「……お元気そうで」
ルミアの目が僅かに揺れる。
男はそのまま出ていった。
扉が閉まる。
静寂。
「……知り合い?」
ルナが聞く。
ルミアは少し考えた後。
「昔の知人です」
それだけ答えた。
「へぇ」
ルナは深く追及しない。
だが。
リディアは男が去った方向を見ていた。
「……ただの知人には見えなかった」
「そうですね」
カリナが珍しく否定しない。
その返事に。
今度はレンが気付く。
「おい」
「なんか隠してないか?」
ルミアは少し困ったように笑った。
「誰にでも一つや二つ、秘密はありますよ」
その場は笑いで流れた。
だが。
リディアだけは気付いていた。
あの男。
ルミアを見た時。
明らかに敬意があった。
同等でもない。
上司でもない。
ましてや友人でもない。
まるで――
仕える相手を見るような目だった。
蒼月亭には再び賑わいが戻る。
笑い声。
食器の音。
酒の匂い。
その中で。
ルミアは窓の外を見ていた。
まるで。
遠い何かを思い出すように。
次に来るのは――選択だ。




