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第112話 鍛冶屋への帰路

戦いの傷は、少しずつ癒えていく。


紅陽には新しい住人が増え、

村は静かに形を整え始めていた。


だがその一方で、

まだ終わっていない約束があった。


王都の鍛冶屋――

カイが育った場所。


そして、師と呼べる唯一の男の工房。


その扉を、もう一度開ける時が来た。

蒼月亭の朝は、いつもより少し静かだった。


カイは酒場の窓際に立ち、広場を見ている。


顔色はかなり良くなっていた。

まだ激しく動くことはできないが、歩くことにはもう問題はない。


セラがその様子を見て、ほっと息をつく。


「だいぶ戻ってきたね」


「おかげさまで」


カイは穏やかに微笑んだ。


「もう回復魔法もほとんど必要なさそう」


「ありがとうございます」


その時、酒場の扉が開いた。


ロークだった。


いつもの軽い表情ではなく、少しだけ真面目な顔をしている。


カイの前まで歩いてきて、短く言った。


「カイ」


「はい」


ロークは少し間を置いた。


そして静かに告げる。


「鍛冶屋のオヤジは亡くなった」


酒場の空気が止まる。


カイは目を閉じた。


驚きはなかった。


どこかで、そうなるかもしれないと思っていたからだ。


「……そうですか」


それだけ言う。


ロークは黙っていた。


ミレーヌも何も言わない。


しばらくして、カイが顔を上げた。


「ロークさん」


「なんだ」


「私を……オヤジさんの鍛冶屋に連れて行ってもらえませんか」


ロークは小さく笑った。


「そう言うと思ってた」


カイが驚いた顔をする。


ロークは肩をすくめる。


「鍛冶屋は一時的に押さえてある」


「えっ?」


「オヤジの形見や道具、未完成の品が残ってるからな」


カイは言葉を失う。


ミレーヌが腕を組んで笑う。


「準備がいいね」


ロークはニヤリとする。


「商売に抜かりはないよ」


だがその目は、どこか優しかった。


カイはゆっくりと頭を下げる。


「ありがとうございます」


そこへレンが入ってくる。


「何の話だ」


ロークが振り向く。


「王都に行く」


「鍛冶屋だ」


レンはすぐ理解した。


そして頷く。


「護衛だな」


ロークが言う。


「クローディア家は潰れたが、残党がいるかもしれん」


ミレーヌも真顔になる。


「そうだね」


ロークは続ける。


「カイを守らないといけない」


レンは短く答えた。


「もちろん」


カイは少し申し訳なさそうに言う。


「すみません」


レンは肩をすくめた。


「気にするな」


「護衛は仕事だ」


その様子を見て、ミレーヌが頷く。


「決まりだね」


ロークが腕を組む。


「早速、明日の朝出発する」


「王都までは二日」


「馬は用意してある」


カイは深く息を吸う。


王都。


鍛冶屋。


オヤジ。


炉の熱。

鉄の匂い。

叱られた日々。


すべてが胸に蘇る。


「……はい」


静かに頷いた。


「ありがとうございます」


蒼月亭の仲間たちは、その背中を見守っていた。


カイにとってこれは、旅ではない。


師匠との別れに向かう道だ。


そして同時に――


新しい鍛冶の道が始まる場所でもあった。

親方の死の確定………

ここから王都へ向かい、形見の道具を取りに行きます。


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