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第110話 新しい隣人

戦いが終わり、紅陽には静かな日常が戻りつつあった。

だが、その日常は少しずつ形を変えていく。


人が集まり、笑い、助け合う場所。

それはもはや“廃村”ではない。


そしてこの日、紅陽にまた一つ、新しい暮らしが生まれようとしていた。

昼下がりの蒼月亭。


ミレーヌは酒場の掃除を終え、椅子に腰を下ろした。

戦いの後片付けも、ようやく落ち着いてきたところだった。


そこへ、入り口の扉が静かに開く。


「ミレーヌさん」


顔を出したのはアリアだった。


その隣には、エルフの少女セリアもいる。


ミレーヌは手を止め、二人を見る。


「どうしたんだい?」


アリアは少しだけ迷うような顔をしてから、口を開いた。


「私たち、ここに住んでいいかな?」


ミレーヌは一瞬、目を丸くする。


「……里はいいのかい?

長には言ったのかい?」


するとセリアが小さく頷いた。


「うん。長に聞いたらね――」


少し誇らしそうに言う。


「紅陽なら構わないよ、って」


その言葉に、ミレーヌの口元がゆっくり緩んだ。


「そうかい」


そして腕を組みながら、にやりと笑う。


「それなら大歓迎さ」


その会話を聞いていたセラが、ぱっと顔を輝かせた。


「一緒に住めるの!?」


アリアが笑う。


「もちろん」


「お泊まりもできるの?」


セラの声は完全に子供のように弾んでいる。


「できるよ」


アリアは肩をすくめて言う。


「いっぱいお話ししようよ」


「やった!」


セラはその場でぴょんと跳ねた。


その様子に、酒場の奥からレオンたちも顔を出す。


「何の話だ?」


「アリアたちがここに住むんだって!」


セラが嬉しそうに説明する。


レオンは一瞬驚いたが、すぐに笑った。


「それはいい」


レンも頷く。


「戦力的にも助かる」


「戦力って言わないでよ~」


アリアが苦笑する。


するとセラが手を叩いた。


「じゃあさ!」


みんなの視線が集まる。


「私たちのお隣にしようよ!」


セラは広場の向こうを指さす。


「広場の前だし、蒼月亭もすぐだよ!

食事にもすぐ来れるし!」


ミレーヌが豪快に笑う。


「そりゃいい」


そして言い切る。


「毎日みんなで食事だな」


フィオが肩をすくめる。


「宿屋の売上も安定だな」


「お客扱いはしないよ」


ミレーヌが言う。


「住人だからね」


その言葉に、アリアとセリアは顔を見合わせた。


そして小さく笑う。


「じゃあ」


レオンが立ち上がる。


「早速住めるように直すか」


広場の向かいには、小さな廃屋があった。


壁は崩れかけ、屋根も少し傾いている。


だが、骨組みはまだ生きている。


「ここならいいね」


アリアが言う。


「蒼月亭も見える」


「夜でも安心だ」


レンが周囲を見渡す。


「よし」


レオンが腕を回す。


「作業開始だ」


その言葉を合図に、皆が動き出した。


板を運ぶ者。

屋根を直す者。

窓枠を作る者。


エルフも人間も関係ない。


セラとセリアは一緒に釘を運びながら笑っている。


ミレーヌは広場からその光景を眺めていた。


「賑やかになってきたね」


その声に、カイが隣に立つ。


まだ顔色は完全ではないが、立てるようにはなっていた。


「……村ですね」


カイが呟く。


ミレーヌはゆっくり頷いた。


「そうだね」


かつて焼け落ちた場所。


誰も住まなかった廃村。


だが今は違う。


笑い声があり、

仲間がいて、

新しい家が建っていく。


紅陽は、確実に変わり始めていた。

この回は「紅陽が村になる瞬間」です。


・エルフの移住

・住居建設

・共同生活の始まり


蒼月亭は単なる宿屋から、

“人が集まり暮らす場所”へ変わっていきます。


ここから先は、


交易

技術

防衛


すべてが発展していく土台が出来上がります。


紅陽は、まだまだ大きくなっていきます。

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