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第101話 魔族領へ続く道

守りきったはずの蒼月亭は、静かな夜を迎えていた。

だがその奥の部屋では、まだ戦いは終わっていない。


カイは眠ったまま。

呼吸はある。命は繋がっている。だが目は覚めない。


セラの回復魔法で一命は取り留めた。

それでも完全に治すには“エリクサー”が必要だと古文書は語る。


材料はほぼ揃った。

残るは――魔族領の奥に生える、希少な薬草。


守るために戦った仲間を救うため、

今度は“取りに行く”戦いが始まる

夕刻。

蒼月亭の酒場は静まり返っていた。


レオン、アリア、リディアそしてロークが戻ってきたのは、ちょうど日が落ちる頃だった。


「戻ったぞ」


その声に、ミレーヌが顔を上げる。


「どうだった?」


ロークは分厚い古文書を机に置いた。

革表紙は擦り切れ、ところどころに補修跡がある。


「王都の闇市で手に入れた。古い錬金術の書だ。

エリクサーの調合法も載ってる」


セラが身を乗り出す。


「材料は?」


ロークは指でページを叩いた。


「ほとんど揃ってる。

エルフの禁区で採れた霊草。山で取れた清浄水。

あとは――」


少しだけ言葉を切る。


「魔族領の奥にしか生えない、黒紫の薬草だ」


酒場の空気がわずかに張りつめた。


レオンが腕を組む。


「魔族領、か……」


リディアは即座に口を開いた。


「行くしかないな」


その声に迷いはなかった。


レンが立ち上がる。


「一緒に行くよ」


「戦いに行くんじゃない」


リディアは静かに言う。


「薬草を取ったら、すぐ引き返す。

深追いはしない」


レンは小さく笑った。


「索敵なら任せて。

魔族だって、見つける前に見つければいい」


ミレーヌは二人を見つめる。


「危なくなったらすぐ戻りな。

カイは――待ってるよ」


その言葉に、リディアの視線がわずかに揺れた。


奥の部屋。

眠るカイの顔は、まだ青白い。


(今度こそ……守る)


胸の奥で、あの夜の言葉が蘇る。


“また守れないのか?”


違う。


今度は守る。

命も、未来も。



翌朝。


空は薄曇り。

風は静かだが、どこか重い。


リディアは剣を腰に差す。

カイが直した細身の剣に、リディアは絶大の信頼を寄せている。


一定量の魔力を流すだけで、刃は鋭さを増す。

誰も直せなかった剣を、カイがはじめて直した。


「無茶はするなよ」


レオンが言う。


「するつもりはない」


「絶対だぞ」


「お前もな」


リディアの口元がわずかに緩む。


レンは軽装だ。

短剣と、カイが直した中間の長さの剣。


「これ、やっぱり使いやすい」


「振り回すなよ。魔族に当たる前に木を切るな」


リディアの一言に、レンが苦笑する。


「ひどいなぁ」


そのやり取りに、場の空気が少しだけ和らいだ。


アリアが近づく。


「境界までは案内する。

それ以上は……」


「わかってる」


リディア達は、エルフの領域を抜け、魔族領へ。


境界線は、目には見えない。

だが空気が変わる。


森の匂いが重くなる。

風が冷たい。


レンが小声で言う。


「気配、増えた」


「数は?」


「まだ遠い。でも……いる」


リディアは剣の柄に手を添えた。


「戦うな。避ける」


「了解」


二人は森を抜け、岩場の奥へと進む。


古文書に記された場所。


“黒紫の葉、夜に淡く光る”


やがて、岩陰にそれはあった。


薄暗い中、かすかに紫の光を帯びる草。


「これだ」


レンが膝をつく。


「周囲に気配なし。今のうち」


リディアは素早く刃で根元を断ち、袋に収める。


その瞬間。


遠くで低いうなり声。


レンが振り向く。


「来る」


三体。

大きい。だが距離はある。


「走るぞ」


「戦わないの?」


「目的はこれだ」


短く、的確。


二人は森へ駆け戻る。


背後で木々が揺れる音。

だが追撃は深追いしてこない。


境界を越えた瞬間、気配は消えた。


アリアが待っている。


「無事?」


リディアは袋を見せた。


「揃った」


アリアは安堵の息を吐く。


「急いで戻ろう」



夕刻。


蒼月亭の扉が開く。


ミレーヌが顔を上げた。


「……おかえり」


レンが袋を掲げる。


「取ってきた」


ロークが立ち上がる。


「これで材料は全部だ」


セラの目が輝く。


「エリクサー、作れる」


奥の部屋で、カイは静かに眠っている。


リディアはその姿を見つめ、心の中で呟く。


(待っていろ。

今度は、間に合わせる)


ついにエリクサーの材料が揃いました。


禁区、王都、そして魔族領。

それぞれが静かに繋がり始めています。


リディアとレンの連携。

目的のために戦わず、退く選択。


そして――

次は“錬金”の段階へ。


物語は、技術と運命の交差点へ進みます。

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