【知られざる大陸】
グリフォスと契約を交わしたシエルは何者かに操られたアルトとセナが召喚してしまった"ベルゼナ"と激闘を繰り広げる。
シエルの鷹龍の眼の覚醒や、グリフォスの圧倒的な強さに難を逃れ勝利を掴んだ。
がしかし、シエル達一行の前に現れたペケッタ公国兵士団達。
その団長"パスファス"が受けた公爵の命により、一行はペケッタ公国へと移ることに……。
ペケッタへ向かう道中━━━━━━━━━━━━。
パスファスの後に続くシエル達。
そして皆を囲むように兵達が隊列を組んでいた。
そんな光景に少し疑問をもったユウトがボソッと呟く。
ユウト:「ん〜……なんか落ち着かないな、俺達連行されてるみたい」
苦い顔をしたユウトの言葉にデインが反応する。
デイン:「すまない、俺がこうしてくれと頼んだんだ。フードを被っているとはいえ、それなり目立ってしまう。
シエルがいつ誰にどこから狙われているかわからない……だからこうしてシエルを隠すように隊列を組んで貰ったんだ」
ユウト:「なるほど……確かにフードを被っているのはシエルさんだけですもんね、でもそれって皆でフードを被って歩けばダミーみたいになりません?
シエルさん一人だとかえって目立ってませんか?」
アルフォス:「やっぱそう思うよな?それは俺も言ったさ、だが……シエル(こいつ)はそれで誰かが身代わりになるのが許せないんだと、まぁさっきみたいなとんでもない力を持った奴に狙われたら分からないでもないけどな」
アイリーン:「シエルさんらしい考えですね」
シオン:「優しいんだよ、シエルは」
シオンの言葉に鼻を擦って照れる素振りをするシエル。
シエル:「そうそう!俺はね優しいぃの!な!レイン!」
レイン:「へいへい」
シエル:「冷たいヤツ……べー」
デイン:「シエル、今は元気そうだがさっき倒れていたよな?何があった」
シエルは頭に両手を回し少し上を向いて「ん〜あの時やられた傷がまだ完治してなかったみたい……アハハ」と軽く言ったが、デインはいい顔をしなかった。
天使の涙と妖精の粉の治癒力は最高峰といってもいいほどの効果があることを知っていたデインは、先程の一度だけの戦闘でシエルが気絶してしまうほど厳しい闘いだったことを感じていたからだ。
聖獣や魔獣達の攻撃を避けはしていたが、人族の身体には即死級の威力。
立っているだけでも奇跡に近いことを、デインは分かっていながらシエルが心配でならなかった。
それだけでなく、デインは自らがなんの力にもなれず、あの迫力に負けていた事を痛感していた……。
程なくしてペケッタへ到着した一行。
大きな門を潜り、公爵の待つ城へと案内された。
城までの途中、賑わいを見せる市場を見てシエルは優しく微笑んでいた。
恐怖とは無縁に感じる程の安心感……ここには支配も争い無く、自由が広がっている。
全ての生きる者たちがこうあるべきなのに……、やるせない気持ちがどうしても消えなかった。
ーこの人達は知らないんだ……いや、知らなくていいのかも……いつ来るか分からない恐怖なんてー
空を見上げ、フードを深く被った……。
シエルの悲しげな表情を横で見ていたシオン。
優しくシエルの手を握り、一言「大丈夫だよ」と声をかけた。
シエル:「ありがとうシオン」
シオン:ー私も……シエルを守れるくらい強く……強くならなきゃ……ー
━━━━━━━━━━━━━━━ペケッタ城正門。
「開門!!!」
門の上から一人の兵士が大声で叫ぶ。
すると、ゆっくり重たげに迫力ある門が開きその先には城内へと続く大きな扉がシエル達の目に映った。
ーさぁこちらへ、バルト閣下がお待ちですーとパスファスに丁寧に案内された。
門の先の庭は綺麗に整えられ、色とりどりの花や噴水から公爵の気品が現れている。
無駄のないその空間に少しの癒しを感じるシエル達。
扉の前に着くまでの視界はシエル達にとって心地いいものだった。
イナン:「す、すごーい!パルテステラ城には劣るけどここの庭園とっても綺麗!」
店主:「こらイナン、そういう事はもっと小さい声でいいなさい」
イナン:「はい……」
優しく叱る店主に、イナンは少しいじけた表情を浮かべる。
扉の前に着くと、護衛していた兵達から二人が前に立ち、取っ手を両手で掴みゆっくりと扉を開く。
扉の先には、赤く汚れの一切ない絨毯、手抜きを一切と感じさせない反射する程磨かれた石床。
天井には煌びやかなシャンデリヤが多数に吊るされ、外からの光を城内中に浴びせていた。
その光景を見たマキシスは、ボソッと嫌味を呟く。
マキシス:「流石貴族様だな……誰の金でこんな生活をおくってるんだろうな」
マキシスの言葉にデインが反応する。
デイン:「やめろ兄様!!それは私達も同じだろう!」
マキシス:「いいや違ぇ、父上は民から何も奪ってねぇだろ。俺達もそう生きてきたはずだ、違うか?……」
マキシスの言葉に何も言い返せないデイン。
マキシスが苛立っている理由はデイン自身もよく分かっていた。
なぜなら、バルト公爵は父上であるベルト皇帝が法としている"民税"の廃止令を無視し、民から税を受け取り、裕福に暮らしていたからだ。
ベルト皇帝は民達が貧しく生きるのであれば、自らも貧しく、自らが裕福であるなら民達もまた裕福である事を宣言し、その誓いを守っている。
発言、表現、生活、性、種族、愛の自由を民達に与え、兵への志願は強制していない。
その為、ナルビスタは全大陸で唯一、犯罪が無く、誰もが自由に暮らせる国として知られていたのだった。
しかし、隠れながらにそれを破り、自身だけが裕福に生活をしているバルト公爵にマキシスは苛立っていたのだった……。
デイン:「父上に与えられた身分を乱用している公爵には、遅かれ早かれ父上が対処してくれるだろう。だから今は……今はどうか耐えてくれ兄様」
デインの説得に、怒りを落ち着かせマキシスは
ーわーったよーと優しく返事した。
はぁ……と安堵の溜息を吐くデインに、シエルは優しく肩を叩き、ーそっちも色々と大変そうだね……アハハーと慰めた。
デイン:「兄様は父上ににて正義感が強いんだ、俺がそうでは無いという訳じゃないが、やはり今は抑えるべきだ……、許せないのは俺もだからな」
デインの表情に、政治の複雑さを感じたシエル。
四大陸で随一の力を持つナルビスタでさえ、全てを管理することが出来ないのだと、大規模になるほど困難である事を痛感していた。
マキシス:「そう思うと父上が"あの王"に憧れる理由も分からなくもねぇな……」
シエル:「あの王って?」
デイン:「この世界を唯一ただ一人、争いを無くし……悪を根絶した者……"【龍王】"の事だ」
シエル:「龍王……」
レイン:「"何百年"も昔にいたってあの伝説の王か?俺はあんまり信じてねぇな」
デイン:「正確ではないが200年前と言われている。だが、史実かはわからない」
シエル:ーヨルムは確か百年程前って言ってたような……謎が多いなー
そうこうしていると、正面の大階段から降りてくる男性の影。
腰に手を組みゆっくりと降りてくるその人物はデイン達が噂するバルト公爵の姿だった。
黒い貴族服を身に纏い、綺麗に整えられた長い白髪が強い印象を与える。
バルト公爵:「遠方から遥々(はるばる)、良くぞお越しくださいました。
それに……マキシス王子、デイン第二王子、ミリスお嬢様までお見えとは……私バルト、とても光栄でございます」
デイン:「事は詳しく聞いているか?バルト」
バルト:「ええ、もちろんです。そちらの御三方が……」
兵士に担がれ、気を失ったままぐったりとしたアルトとセナ、そしてユウト達の後ろに隠れるように立っていたミャーニに冷めた視線をおくるバルト公爵。
そんな視線にミャーニは怯えるようにユウトの腕にしがみつく。
ユウト:「だ、大丈夫か?ミャーニさん」
ミャーニ:「……」
怯えるミャーニに優しく言葉をかけるシエル。
シエル:「大丈夫だよ、もし何かされたらすぐ叫んでくれ。必ず助けるから」
デイン:「この者たちは犠牲にあった者たちだ、くれぐれも無礼はないように頼む」
バルト:「ええ…分かっております。しかし、形式上聴取はさせて頂きますのでご了承願いますよ」
デイン:「ああ」
マキシス:「なにが形式上だ……てめぇがしたいだけだろ」
小声で呟くマキシスにデインはここは堪えるようにと無言の訴えをおくる。
そんなデインに溜息をつくマキシスをミリスが優しく微笑んだ。
ミリス:「兄様、ここはこらえましょ」
マキシス:「わかってら」
デイン:「バルト、この者達は未開拓の地の者達の可能性がある。言葉が通じないかもしれないが無理に聞き出そうとしないでくれ、後ろの亜人の少女は言葉は通じるようだが今は少し怯えている。くれぐれも扱いには気をつけてくれ」
バルト:「そうですか、承知しましたよ」
デイン:「頼んだぞ」
デインの言葉に納得した様子を見せる公爵。
パンッと手を叩き和かに声を発する。
バルト:「では、聴取をしている間皆様とてもお疲れのことと思います。
ゆっくり広間で寛いでくださいませ」
シエル:「うん!助かるよ!」
バルト:ー彼は……彼から感じるこの嫌な気配はなんだ……ずっと背に刃を当てられているようなこの嫌な気分は……ー
シエルの目を直視出来ないバルト。
さりげなく止まらぬ冷や汗を袖で拭った。
━━━━━━━━━━━━━━・・・・・・ペケッタ城広間ー
赤い絨毯が一面引かれ、天井には銀のシャンデリア。
豪華な材料で作られたであろう家具が並べられた光景に、落ち着くには少し息苦しい広間にシエル、ユウト達一行は重い身体を椅子へ沈めていた。
シエル:「ふ〜〜!やっと暖かい場所だ〜」
デイン:「なんだシエル、ずっと我慢していたのか?」
シエル:「炎で囲まれたりで忘れてたけど結構この土地は"寒いんだよね"……アハハ」
寒さなんて気にもしていなかったユウトは深々と椅子へ腰を沈める。
ユウト:「ふぁああ〜!座り心地はいいなぁ〜」
アイリーン:「キラキラしすぎて目が痛いわ」
ミオシャ:「ミャーニさん達……大丈夫なんですよね?拷問とかされませんよね?」
シエル:「そんな事しようもんなら俺達が許さないさ」
ノルン:「あのバルト公爵って人、そんなに悪い人なんですか?」
ノルンの問に対し、眉間に皺を寄せるマキシス。
マキシス:「父上は何度も奴に罰を与えている。何度もな」
ノルン:「え……」
ミリス:「公爵は父上の従兄弟なの、亡き叔父様の一人息子でその権力を使って昔から悪事が多かったみたいなのよ」
マキシス:「デインは奴を非道ではないと言っていたが、そんなことはねぇ……奴は何度も他所の令嬢や自国の若い娘に手を出してる。そんな奴が非道じゃないとは俺は思わねぇ」
座ったまま前かがみに手を前で握り怒りをあらわにするマキシス。
そんな態度のマキシスに溜息をつくデイン。
優しい口調でノルンに説明を加える。
デイン:「兄様が言っていることは間違ってはいない。それは俺も分かっている。
だが、父上は彼に贖罪を与えた。
それ以降は何も事を起こしていないだろう、だからあまり強く言いたくないんだ。
父上は彼を信用してその機会を与えた、父上の気持ちを否定したくないんだよ俺は」
マキシス:「父上は優しすぎる……」
ノルン:「なんかごめんね……話広げちゃって」
ミリス:「ノルンが謝ることないわ!気にしないで?これは私達ナルビスタ家の問題だから」
ユウト:「人間……そんなに簡単に癖は無くならないもんですよ」
マキシス:ーん?ー
ユウト:「い、いやぁ……その、悪い癖って直そうと思って直せるものじゃないって自分は思ってて。
自分とミオシャがいた国じゃ、何回も捕まる人もいましたし、酷い時には前よりも大きな罪を犯す人もいたくらいです……。
罪を犯す人程そう簡単には辞められないもんなんだと思います」
シエル:「どこの国の罪人もそうだよ、俺達はそんな奴らを嫌ってほど葬ってきたからね。
大概そういう奴らは自分のした事を悪いと思わないんだ、ユウト覚えておいてね?自分が正しい……自分は他人に迷惑をかけていないと思っている奴程この世で怖い者はいないよ」
ユウト:「たしかに……」
シオン:「もっと明るい話しようよ……」
むすっと頬を膨らますシオンにーうんうんーと頷くシルフェとミオシャ。
ーアハハ!そうだね!ごめんよーとシエルが笑って空気を変えようとする。
そんな時、突然急いだ雰囲気で誰かが広間の扉をトントントンと叩く。
デイン:「誰だ」
デインが呼びかけると扉の外から活気のある声が聞こえてきた。
兵士長:「は!ペケッタ兵団兵士長マルザと申します!バルト公がお呼びです。デイン様一行は至急聴取部屋へお越しくださいますようにとの伝令です!」
デイン:「わかった。急いで向かう、少し待てと伝えてくれ」
兵士長:「は!承知しました!では……」
デイン:「何事だろうか……」
シエル:「少し心配だ……急ごう」
すぐに椅子から立ち上がり広間を後にするシエル達。
シエル:「あ!ユウト達はもう少しゆっくりしてて!気になるようなら後からおいでよ!」
ユウト:「え、いいんですか!?」
シエル:「もちろん!しっかり身体を休ませるんだよ?分かったかい?」
ユウト:「はい!ありがとうございます!」
ミオシャ:「素直すぎるでしょ……もう」
アイリーン:「私も疲れちゃった…今はシエルさんの言葉に甘えよう!」
シルフェ:ーうんうんー
シエル:「あはは!じゃあまた後で!」
ドッタン……
ミオシャ:「お兄ちゃん、足ガクガクだったのバレてたみたいだね」
ユウト:「面目無い……」
アイリーン:「あんな闘い目の前で見せられたら、流石に私も緊張で疲れちゃった……えへ」
ユウト:「次からはこうは行かないもんな、足引っ張らないようにしないとな……頑張ろうな」
三人:ーうん!ー
━━━━━━━━━━━━━━・・・・
シエル:ーん?ー
扉から出るとすぐ横に先程の兵士長が完璧な姿勢で起立して待っていた。
シエル:「おっと、身構えちゃった……アハハ」
兵士長:ーっ……なんだ今の一瞬の殺気は……ー
シエルの一瞬の殺気に平常を装うも、兵士長の鎧の中で身体はビクビクと震えていた。
兵士長:「あ……案内します」
デイン:「ああ、頼む」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・・
兵士長に導かれ聴取部屋へとやってきた一行。
部屋の前に着いた瞬間、シエルが違和感を口にする。
シエル:「少し聞いてもいいかい?」
兵士長:「は!いかがされましたか?」
シエル:「この部屋の中にたった二人の気配しか感じないんだ、どうしてかな」
この時兵士長は恐怖した。
それはまるで身動きがとれず、拘束された自分の喉元に鋭い剣先が当てられ、今にも殺されてしまうのではないか……そう恐怖するようなとてつもなく大きな圧……そして視線。
口が開かない。
今まで感じたことの無い恐怖。
この時兵士長は過去一度も経験したことのないその殺気に、脳を何倍も活性化させていた。
ーなにを……どうすれば……俺はなんて言えばいい、あ、ありのままを伝えるか……いや分からない、どうすればいい、俺は死ぬのか?いや、考えすぎだ……この人はここに何をしに来た……?どうでもいい、どうでもいいんだそんなことは……今、今俺が答えるべきことは……ー
固まった兵士長の肩をそっと優しく叩くシエル。
シエル:「そんなに固くならないでおくれよ、なにも貴方を殺そうってんじゃないんだ……彼の指示だね?」
兵士長:「は……はい……」
シエル:「ありがとう」
シエルが肩から手を離した瞬間、兵士長は拘束を解かれたかのようにその場で膝から崩れ落ちた。
ミリス:「はぁ……まったく、シエルったら」
ノルン:「え……?なに、何が起きたの?」
シオン:「いつもの事……」
アルフォス:「ちょっとした脅しだ気にすんなノルン」
ノルン:「ど、どうしてそんな事」
マキシス:「すぐにわかるぜ」
デイン:ー・・・・・・ー
シエルが後ろに振り返り、アルフォスに視線で指示を出す。
気配を消したアルフォスを確認すると、シエルは扉をノックした。
すると少しして中から公爵の声が聞こえて来る。
バルト:「お入りください……」
ゆっくりと扉を開くと、そこには困った表情の公爵と下を向き膝の上で拳を強く握ったまま無言のミャーニが座っていた。
バルト:「いやいや……お寛ぎ頂いていた所申し訳ありません。
困ったことに、この娘が中々口を開かんのです……」
静まった部屋。
丁寧に机の上へ並べられた装備。
そして少しの違和感。
何故かミャーニの服がほんの少し乱れている事をシエルは見逃さなかった。
シエル:「誤解していたらすまない……バルトさん、貴方はこの子に何もしていない……ね?」
バルト:「おや?誤解を生むようなことはなにもしていませんよ。"服が乱れている"のは何か隠し持っていないか、私の身を案じての為調べただけのことです」
シエル:「?……俺が言いたかったのはどうしてこの子が"震えているのか"だよ……」
バルト:ー!?ー
机の上に置かれたナイフを手に取ろうとするバルト。
しかし、そんな行動も虚しくアルフォスが背後から首元へダガーを静かに当てた。
バルト:「んぎッ……」
アルフォス:「動いたら死ぬぜ……?」
バルトを鷹龍の目で睨むシエル。
シエル:「少し寒そうなんだよ、ここの大陸は気温が低いからね。
デインが言ったはずなんだ、無礼のないようにって。
聴取するだけならもう少し気を使ってあげてもいいと思わないかい?……違うか」
バルト:「くっ・・・」
デイン:「バルト……貴様この子に何をした!!!」
声を荒らげるデインに、マキシスとミリスがそっと見守る。
信じていただけに悔しさもあるだろう……。
怒りが表に出てしまうほどデインはバルトに失望していた。
デイン:「装備や身体を調べるだけなら侍女でも問題無いはずだ!!貴様自ら確認する必要があるか!!答えろ!!」
バルト:「ち、違うのです!!ここ最近ある刺青が危険だとの知らせを受けそれがないか確認しただけなのです!!!」
マキシス:「魔族契約の事か……」
バルト:「え、ええそうです!貴方方がお連れした者とはいえ、その可能性がないとは一丸に言えないはず……!」
デイン:「私は言ったはずだ……この者達は未開拓の地の者の可能性があると……!!どけ!アルフォス!!」
物凄い勢いでバルトの襟を掴むデイン。
そんなバルトは襟を強く両手で掴まれ、悔しそうに歯を食いしばり無言の表情を浮かべた。
バルトの行為に苛立ちを隠せずにいたデインはバルトに是非を問う。
デイン:「何故だ……何故父上から許しを乞うていたはずの貴様がこの様な真似をする」
バルト:ー・・・・・ー
デイン:「答えろ!!!」
バルトは少し黙ったあと、諦めが付いたのかようやく口を開いた。
バルト:「ベルト殿は純粋すぎるがゆえ私のような欲が無いのだ……我慢はしたのです。
耐えに耐えたのです。
しかし……、もう時期"皇帝は敗れナルビスタは滅びる"。
そうなれば……私の地位も……」
歯を力いっぱい食いしばり、怒りを耐えようとしていたデイン。
しかし、公爵の一言でタガが外れた。
デイン:ーッッッ!!!!ー
服が破けそうな勢いで公爵を掴み寄せるデイン。
あまりの恐怖に公爵はーひぃぃぃっ……!ーと引きつった顔をした。
マキシス:「デイン!!!」
デイン:「貴様……っ!!貴様ァあああああ!!!!」
パスファス:「おやめ下さい王子!!!」
バルト:「じ……事実だ……」
ミリス:「どういうこと!?貴方自分で何を言っているかわかってるの!?」
バルトは絶望に満ちた表情のまま、にやっと少しの笑みを浮かべる。
バルト:「ひっ……ひひ……デイモアの軍がもう時期シャーダルへと攻め入ってくる。今まで大人しかった"魔王"が動き出したってことはそういうことだ……だから、せめて星になる前に好きにさせてくれたっていいだろ!!!」
拳を握り渾身の一撃をバルトの顔面へ当てる。
勢いよく吹き飛ばされたバルトの姿はその地位とは思えないほど無様だった。
デイン:「貴様を……貴様を信用した父上を……よくも侮辱してくれたなバルト!!!……パスファス!!!」
突然の怒号に驚くパスファス。
これ以上言うことは無いと呆れたデインはパスファスと兵達にバルトを牢へ入れるよう指示を出した。
デイン:「貴様に星になる権利などやってたまるか……簡単には死なせんぞバルト、牢で貴様の罪を存分に償わせてやる……っ!!」
バルト:「げ、現実から目を逸らすか王子よ……すぐにわかる……奴の恐ろしさを……」
ギロッと血走った目でミャーニを見るバルト。
ミャーニ:ーひっ……ー
その視線にミャーニはこの上ない恐怖を感じた。
しかし、次の瞬間。
ミャーニの視界にシエルが映り込む。
シエル:「大丈夫……。
もう君に危害は起こさないと誓うよ。安心してくれ」
シエルを睨むバルト。
シエル:「もし、お前が牢から一歩でも出たら……たとえ逃げたとしてもお前を冥府へ送ってやる。
次に俺の前に現れた時はその命、あると思うな」
バルト:「ヒッ……ひひ……覚えておくよ」
マキシス:「連れてけ」
兵士:「は……はっ!」
バルト:「後悔するだろう……"呪われた血族"共が……」
シエル:ー?ー
バルトの腕を掴み、抵抗しないよう複数人で囲うようにバルトを部屋から連れ出した。
パスファス:「……申し訳ありません。
ここ最近公爵の様子がおかしかったのは分かっていたのです。
しかし、私の立場故……どうする事も出来ませんでした……。
私の非力さをどうかお許しください」
デイン:「パスファス、貴方は何も悪くない。どうかその頭をあげてはくれないか、それにもう奴を公爵と呼ぶ必要は無い。
新たな公爵は事が落ち着き次第選挙を行う、それまではあまり事を荒立てないでくれないか」
パスファス:「……はい。承知しました」
バルトが居なくなったにも関わらず、まだほんの少し震えていたミャーニにノルンがそっと近寄る。
ミャーニ:ー・・・・・・ー
ノルン:「ミャーニさん、大丈夫?」
ミャーニ:「ぅ……んぐ……あり、ありがとにゃ…みんにゃが来てくれにゃかったら……どうにゃってたことか」
怯えるミャーニにイナンは大袋から取り出した毛布を肩にかけてあげた。
イナン:「きっと私が想像してるより遥かに酷いことをされたんですね……もう大丈夫。
皆さんが必ずミャーニさんを守ってくれます」
ミャーニ:「とっても優しい人達、本当にありがとうにゃ……」
シエル:「ミャーニ、他の二人の居場所を知らないかい?」
ミャーニはシエルを見ると少し顔を赤らめ、首を横に振った。
シエル:「そうか、ありがとう」
パスファス:「その二人とは、言語が通じない二人のことでしょうか?」
デイン:「知ってるのか!?」
パスファス:「おそらくですが……」
シエル:「すぐに連れて行ってくれないかい?ミャーニ、君も一緒に来てくれ」
ミャーニ:「はにゃ!!?わ、わかったにゃ!」
ミャーニ:ーうぅ……目が合ったにゃ……ー
パスファスはやるせない気持ちをなんとか抑え、素直にシエル達へ予想の場所へと案内した。
そこは聴取部屋からそう遠くなく、隣の塔の最上階の監禁部屋だった……。
デイン:「奴はなにを企んでたんだ……」
パスファス:「恐らくですが、あの御方の考えですので異国の者を研究しようとしていたのではないでしょうか?」
ミャーニ:「最低だにゃ……」
アルフォス:「なんだ?論文でも書いて世に名を売ろうと思ったのか?」
マキシス:「あの馬鹿の事だ、名誉の為ならしそうなこったな」
シエル:「鍵がかかってる……この扉壊してもいいかい?」
シエルの言葉に驚きを隠せなかったパスファス。
それもそのはず……、監禁部屋の扉は鋼鉄で作られ、防御魔法がかけられている為そう安易に開けられるはずがないからである。
しかし……、
シエル:「さってと!ふぅ……」
シエルはハディスとの戦闘で使った武術の構えをとる。
呼吸を整え……一寸のずれもない完璧な構え。
そんな光景に仲間達が息を飲む……。
デイン:ーなんだ……この透き通るような空気はー
マキシス:ー何度見ても完璧な構えだ……なんで、んな真似ができんだこいつぁ?ー
ノルン:ーこの構え……"おじいちゃん"のー
アルフォス:ー俺には真似できねぇなこりゃー
一瞬……瞬きすらも追いつかない程一瞬……。
シエルの拳は音を置き去りにした。
ッッッッッッッ……!!!!!!!!
スッ……………パアッッッッッッッ…………!!!!!!!!
ありえない程扉がへこみ、ゆっくりと重い扉が奥へと倒れる。
パスファス:「な……なんて威力だ……」
たっていた埃が少しずつ落ち着き、部屋の中が薄々と見え始める。
視界が良くなり、部屋へ入ると……。
ミャーニ:「アルト!!セナ!!」
目と口を布で縛られ、手と足も枷で拘束されていた二人がそこに居た。
すぐに二人の拘束をパスファスが解き、ぐっと怒りを堪えていた。
パスファス:ーなんと酷い……罪のない者がこんな目に合うのは間違っている……!!ー
パスファスには愛国心があった。
それはナルビスタへの忠誠でもあり、ベルト皇帝の正義を信じていたからである。
そして、バルト元公爵に仕えていたのも信頼を寄せるベルトの血族であった為……。
しかし、自らが信じ、己の身を呈してまで忠義していたバルト元公爵がこんなにも堕ちた存在であった事に、パスファスは自身に嫌悪を抱いてしまっていたのだった……。
視界が眩しく映り、意識がはっきり戻った二人は目の前の光景に驚きを隠せなかった……。
アルト:「МУИЙ……КОЦКОЩАДК?ФОРСОП,МНТЧОЖФК?(ミャーニここは……それにこの人達は……)」
セナ:「МУИЙ……!ВМСИФРЁ(ミャーニ、無事でよかった)」
ミャーニは二人を安心させようと事の説明を元の言語で二人にわかる範囲で伝えた。
今の状況になんとか納得した二人はシエルを見て頭を下げる。
二人は自分達が招いた事に驚きが隠せない一方、ミャーニが言うに魔物の書に封印されていたベルゼナが解かれ外に放たれた事が一番の衝撃だったのか、心底苦しげな表情を見せていた……。
ミャーニ:「二人が皆を、この国の人達を危険な目に合わせてしまって申し訳ないって言ってるにゃ」
シエル:「二人は何も悪くないさ!自分達の意思でこの国を、俺を襲おうとした訳じゃないだろ?謝る必要はないって二人に伝えてくれるかい?」
優しい表情でミャーニにそう伝えると、ミャーニは少し微笑んで二人にシエルの言葉を伝えた。
二人に詳しく聞くため、一行は再度聴取部屋へと戻った。
部屋へたどり着くとそこには事情を知らないユウト達がとぼけた顔で立っていた。
ユウト:「あ!皆さん!!一体どこに行ったのかと……」
シエル:「アハハ……ごめん、忘れてた」
アイリーン:「なにがあったんですか?公爵の姿も見えないですけど」
シオン:「実はね……」
事の説明をするシオン。
話を聞いたユウト達は絶句していた。
ユウト:「え、あの人そんな悪い人だったんですか!?」
シエル:「ん〜悪いというか、私欲が悪かったというか〜?」
アイリーン:「お二人共拘束されていたなんて……酷い」
ミオシャ:「なんか怖い……貴族ってそんな人ばっかりなのかな?」
マキシス:「ハッハッ!嬢ちゃん、そんなことはねぇぜ?確かに悪い奴らは何度も殺ってきたが、いい奴ももちろんいる」
ミオシャ:「何度も……あは、あはは……」
パスファス:「皆さん、この方達にも早く休んで頂きたいと思いますので、そろそろ本題へ」
デイン:「そうだな、三人ともすまない……もう少し私たちに付き合ってくれ」
デインの言葉をミャーニが通訳し、納得した表情で二人は首を縦に振った。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━・・・・・。
先程とは違う広い聴取部屋へ入り、聴取が始まった。
パスファス達ペケッタ兵には外で待機してもらい、シエル達に囲まれ、肩に力が入る二人。
シエルが二人に肩の力を抜くよう優しく言葉をかけそれをミャーニが通訳する。
二人はシエル達が怖い存在で無いことを理解したのか、そっと肩の力を下ろした。
最初に二人に質問したのは、どこから来たのかだった。
その問いに対し率直に答えるアルト。
アルトの口から発せられた地に聞き覚えは無く、困惑するシエル達。
博識が自慢であったナルビスタ三兄弟ですら、そこには心当たりが無かった……。
ー聖獣の地ファルフォン・ティシアー
そのような名のつく場所は、シエル達が知る四大陸、アルラーク・シャーダル・オリタル・バルバザスには存在していなかった。
それもそのはず……ミャーニから発せられた言葉で更にシエル達は驚愕することになる。
ミャーニ:「ここは龍神が守護しているとされる大陸、"ドラグニア"……私達三人が元いた場所は白狼の神が守護神である大陸"ウルフェン"だにゃ」
誰一人として、言葉が出なかった。
当たり前である。
ここにいた皆の常識が覆ったのだから。
この大陸に住まう者たちは古くから各大陸の名しか知らず、四大陸で世界が形成されていると信じ込んでいた。
がしかし、それには理由があった。
数多くの開拓者達は果てしなく広がる海を恐れ、この世界には終わりがないのではないか……そう考えそれ以上の開拓を断念していたからだ。
ある学者がこう言ったという。
ー我々が住むこの大地に、終わりは無く……今も尚神はその地を創造しているー
またある学者は……
ーこの星の大陸は常に少しずつ動き、変化している!!、海の果てにはまだ見ぬ大陸があるかもしれないー……と
しかし、ミャーニはその答えに近いものを知っていた人物の一人だった。
この国、いやこの大陸の学者達からすればミャーニ達三人は重要人物。
しかし、それを公表してしまえば何をされるかわからない。
デインやシエルは、一旦自分達だけに留めておくことを言葉を交わさずともそう決心していたのだった。
そんな時、ユウトが突然意図しない言葉を発する。
ユウト:「す、すごい……四大陸だけでも広いと思ってたのに更に広がってるなんて!!"オープンワールド系"でもこんな広さ見たことないかも!!」
デイン:「ユウト、今なんと言ったんだ?よく分からなかったが」
ユウト:「え……」
ユウトを見てミオシャが小さく呟く。
ミオシャ:「はぁ〜、もうお兄ちゃんほんと馬鹿」
ユウト:「え、え〜と……えへ、えへへ……」
よく分からない空気になっていたその時、アルトとセナがユウトに対して口を開く。
アルト:「君……今ゲーム用語を言ったよね……?!」
セナ:「あなた、もしかして!!」
聞き覚えのある言葉が聞こえたユウトの表情が固まる。
ーありえないー……その言葉はミオシャにも聞こえていた。
ミオシャ:「お……お兄ちゃん……」
ユウト:「・・・・・・はい?」
ユウト・ミオシャ
:「"日本語"ぉぉおおおおお!?!?!?!!」
シエル達:ー???ー
ユウト:「君たちはまさか……」
ミオシャ:「て……ててて」
セナ:「フフッ」
アルト:「そう……君達と同じ、"転生者"だよ」
〜【四人の転生者】へ続く……。〜
作品を読んで頂きありがとうございます!!
かなりの時間が経ってしまいました(泣)
ひとまず、1人目の転生者のお話は次でおしまいですが、
次にシエル達を待ち受ける転生者、転移者?はもっと手強いかも?
続きが気になって頂けたら嬉しいです!
引き続きよろしくお願い致します!




