第741話 強制力
「……」
俺の周りに倒れ伏す多数の異形たち。
この中に邪神の亡骸が存在するなら、待つ必要なんてないのでは?
今すぐ皆に合流してもいいんじゃないのか?
そうだ、まずはクエスト欄の確認を。
<クエスト>
1、 人助け 済
2、 人助け 済
3、 魔物討伐 済
4、 少数民族救済 済
5、 貴族令嬢救出 済
6、 兇神討伐 済
7、 神山守護 済
8、 貴族令嬢救命 済
9、 領主令嬢救命 済
10、邪神討伐 済
討伐してるぞ!
<ギフト>
異世界間移動 基礎魔法 鑑定改 多言語理解 アイテム収納
時間遡行(2刻)1
遡行も手に入ってる!
だったら、もう。
ここにいる必要なんてない。
「えっ? どうして?」
「有馬、おまえ?」
邪狼狗に次いで異形の群れも急ぎ片付け急行した今回。
前回同様、俺と幸奈を視認した古野白さんと武上、里村が驚きの表情を浮かべている。ただし、今回は場所と時間が違う。
「どうやって上ったんだ?」
2回目より数分は遅れている。
つまり、今は前回武上に症状が出始めた時間。
「っつうか、上れるんなら先に言えよ」
なのに、症状が出ていない。
咳は始まらないし、武上、里村の顔色に異状も見えない。
これは……毒を回避できたのか?
「ったく、縄なんて必要ねえじゃねえか」
「急ぐ必要も心配する必要もなかったわね。で、どうやったのかしら?」
「ボクも知りたいな」
「魔法でも使ったのか、それとも超能力か?」
2人の無事な姿を前に、思わず頬が緩みだす。
それどころか。
皆の口から出る言葉、右耳の後ろを掻く里村の仕草、両手を組んで指を鳴らす武上の癖、そのすべてが宝物のように思えてしまう。
「有馬くん?」
「「どうなの?」」
「どうなんだ?」
駄目だ。
さすがに感傷的になりすぎだ。
「おい、おい、まじで魔法でも使ったんじゃねえだろうなぁ?」
毒を回避できたとしても、まだ全てが終わったわけじゃない。
今は感情に振り回されず冷静に進めるべきだろ。
「たまたま上りやすい場所があったから。もちろん普通なら無理だけど、功己なら上れるから」
「緩やかな崖があったってか?」
「有馬くん、そういうことなの?」
「ええ、幸奈の言葉通りです」
「そう……とりあえず、色々と様子を見に戻りましょ」
「その前に確認させてください。古野白さん、崖上を離れてから何も口にしてないですよね? 武上、里村も?」
「もちろん何も口にしてないわ」
「有馬に言われたからなぁ」
「えっ? ボク、水を飲んじゃったよ」
そうだった。
里村には話せてなかったんだ。
「まずかったのかな?」
「……まずいと決まったわけじゃない」
「何、どういうこと?」
水を飲んでも毒さえ入ってなければ問題ないんだ。
まあ、あの症状が毒によるものだったとは言い切れないが。
「何か隠してるの?」
「……」
「有馬くん?」
ああ、色々と隠してる。
ただ、あの症状を回避できたのなら……。
「ごほっ」
何!?
「ごほっ、ごほっ」
駄目だった。
今回も武上を失ってしまった。
それも前回と同じ症状で。
「……」
できるだけのことはした。
警戒注視も怠っていない。
見落としもなかったはず。
なのに、なぜ?
「里村くんはどう? 大丈夫?」
この症状、毒じゃないのか?
それとも朝食以前に体内に入っていたと?
だとすると、2人の就寝前。昨夜のことになってしまう。
さすがに、それは……。
「功己、功己ってば!」
「……里村は大丈夫だ」
これも前回と同じ。
「なら、いいけど……まさか、功己も体調が?」
「いや、そうじゃない」
どうやっても前回を繰り返してしまう状況にちょっと混乱してるだけ。
避けがたい死、その強制力、収束力のようなものを感じているだけだ。
「そうだよね、功己は咳してないし顔色もいいし」
「ああ、体調はまったく問題ない」
ただ、少しばかり動揺して弱気になっていた。
それは認めなきゃならないだろう。
けど、この場では弱気も心配も不要で無用。
仮に強制力が働いていたとしても、回避不可能な絶対的運命なんて存在しないのだから。俺には分かる。あのセレス様を救った俺には実感できる。
「うん、うん」
それに、こんなところで立ち止まってるわけにはいかないだろ。
俺にはやらなきゃいけないことがあるんだから。
「よかったぁ」
どんな状況でも俺を心配してくれる幸奈。
彼女を守って、武上を救って、5人全員で先の時間へ進む。
そのために、今ここで1つ確認しなきゃならない。
時間は……そろそろ頃合いだな。
一応、その前に。
「幸奈も体は平気か?」
「うん、大丈夫」
よし。
「なら、少し里村を頼む。俺は何か飲んでくるから」
「えっ、口に入れていいの?」
そうだった。
何も口にするなと話してたんだ。
「もう食べても飲んでもいい」
「……うん、分かった。功己は水分補給してきて」
「ああ」
幸奈に頷きを返しながら、ロビー奥に歩を進める。
もちろん、美藤さんのもとへ。
「すみません、水かお茶をいただけますか?」
平静を装い声をかける。
「承知いたしました。すぐお持ちしますので少々お待ちください」
慇懃な対応は前回見た通り。
おかしな様子は微塵も感じられない。
そんな彼女がロビーを去って行く。
さあ、ここからだ。
「……」
気配感知の強度を最大に高め、それでいて何気ない素振りで待ち続ける。
「……」
敵は気配を消してくるはず。
殺気も感じさせないだろう。
それでも、ここまで警戒しているんだ。
何か感じるに違いない。
だから、待つ。
待つ。
その時を待つ。
っ!
来たか?





