01. くまさんは激怒した
テディーベアによるタイムリープ物語、始まります!
「…は?」
ある日、僕が目を覚ますとそこは、ゴミ置場の中だった。
※※※
僕はくまさん。ぬいぐるみだ。かつてはみぃちゃんの一番のお気に入り…だった。
いつでも、どこでも、何をするにも一緒だったんだ。
僕に味噌汁をぶっかけた時は、みぃちゃんが泣きじゃくる横で、みぃちゃんのお母さんが僕を洗ってくれたっけ。
みぃちゃんたち家族が旅行に行く時は、僕も一緒に連れて行ってくれた。一度だけ、僕が空港の椅子に置いて行かれかけたなぁ。
みぃちゃんが幼稚園のお泊まりに行くときには、僕はこっそり鞄の中に入れられて、夜眠るときにみぃちゃんを励ましたんだ。「大丈夫、僕がいるよ。ゆっくり眠ってね」って。みいちゃんはすぐに眠ってた。
けれど、みぃちゃんはもう僕のことを忘れてしまったんだろうな。だって、段々と僕を見ることも、抱き締めることもしなくなり、今では僕は押し入れの中。日々寝て起きて…長い長い空虚な時間を過ごしている。
周りには、僕と同じような目に逢っているみぃちゃんの元お気に入りのおもちゃたちがたくさんある。
「君らも寂しいよな」と僕の横にいるビックリ箱の子に話しかける。返事はない。
どうやら、心を持ったおもちゃは僕のほかに居ないようだった。皆、嬉しそうにすることも、悲しそうにすることも無かった。
僕はそうしてまた眠りについた。
※※※
「皆、なんで返事をしてくれないの?」
ずっと昔、皆が出掛けてしまった家の中で、僕はそう呟いたことがある。
「君は、愛されているんだろうね」
どこからか、声がした。
「誰?」
「ここだよ、ここ」
声の主は、窓辺に置いてあった鳥の置物だった。光に照らされている。
「わあ、鳥さん」
いつも見開いている目が、光が当たって眩しそうに、細めていた。
「いかにも、私は鳥である」
鳥さんが言う。ゆっくりとした、穏やかな口調だった。
「愛されている、ってどういうこと?」
僕が訊ねると、鳥さんは首を傾げた。
「さあな。人の心というものは、私たちにも、そして、人間たちにも分からないものよ」
「なら何でさっきはああ言ったの?」
「愛された物たちには、いつしか付喪神が宿ると言う。…私もお前さんのような者に会ったのは久々だがな。」
「鳥さんは違うの?」
鳥さんはまた目を細めた。
「さあな」
鳥さんは空に目を移した。少しだけ寂しそうな目だった。
「ふうん」
鳥さんには何か不思議な雰囲気があった。けれど、僕にはそれがどういうことか分からなかった。
「この大きな翼が…もしも本物だったなら…空を飛べただろうかと時々…思うんだ。君は…どうだい?」
と鳥さんは言った。
それは僕らが心はあっても自由に動くことが出来ない憂いなのか、はたまた違う哀しみなのか…。
※
「きゃあ」
ある日、みぃちゃんの悲鳴が聞こえた。
「鳥さん、割れちゃったぁ」
みぃちゃんが泣いていた。視線を移すと、窓辺に破片が散らばっていた。鳥さんの姿は、もうない。
「…鳥さん?」
僕が小さな声で声をかけると、
「ああ…君か」
とあの穏やかな声がした。床に、鳥さんの顔だった部分が落ちている。
「大丈夫?」
「なあに、大したことはない」
声はいつも通りの様子だった。
「じゃ、直るんだね?」
と僕は嬉しくなる。
鳥さんは、唯一僕が話せる相手なのだ。もっともっと、話していたい。
「いいや…お別れだなあ」
鳥さんが言った。
「え?」
「物なんてそんなものさ。セトモノなんて…壊れやすいしな。それに…」
「それに?」
「所詮、物に宿る魂なんて脆いのさ。所有者に忘れられてしまえば…段々と魂が薄くなるんだよ」
鳥さんは目を閉じた。
「残酷なことを言っているが…君は…今は愛されているけれどね…いつか、忘れられてしまう日も来るだろう。」
「そんな」
僕が、みぃちゃんに忘れられる?それは、とても悲しい。
「これは私の個人的な頼みだが…どうか、どうか、出来る限り…チカコとみぃちゃんを…見守ってやってくれないか。助けてやってくれないか。」
鳥さんはそう言うとふうっと息を吐いた。
「じゃあ、鳥さんも一緒に、みぃちゃんたちを見守ろうよ。助けてあげようよ。」
僕は必死だった。みぃちゃんと同じくらい、鳥さんも大切だった。
「ふふふ」
「え?」
「付喪神も、なんと愛おしいことか…なあくまさん、頼んだよ」
ポン、と大きな、しわくちゃの手に頭を撫でられたような気がしたけれど、誰もいなかった。
それから鳥さんは二度と話さなかった。
その後しばらくして、みぃちゃんのお母さんが、「なんてことするのよ…私の宝物だったのに…」とかなんとか、みぃちゃんを叱りつけながら、鳥さんを片付けてしまった。
「文子も、そんなに叱るんじゃないよ、泣くんじゃないよ」と鳥さんなら言っている気がした。けれど、鳥さんの声はしなかった。
※※※
そして冒頭に至る。
あのとき鳥さんは、僕に未来を予言した。
忘れられて…そして捨てられてしまった訳だ。
あんなに僕はみぃちゃんのことが大好きだったのに!僕の心は怒りと憎しみに支配された。
ちくしょう、ちくしょう!
そう心のなかで叫んでいると、手足にみるみる力が湧いてきた。
綿がしぼみ、へたっていた手足が動き出す。
「え…」
気付けば僕は、立ち上がっていた。
僕はどうやら、動けるようになったようだ。
第一話、読んでいただきありがとうございます!
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いつか鳥さんのショートストーリーも書きたいな…と思ってます!
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