第29話 王国奪還の糸口
「エスカ? なんでお前がこんなところにいるんだ?」
「それはこちらのセリフでございます。どうしてあなた様がこの地にいらっしゃるのですか?」
目の前に膝まづいたのは俺の元部下のエスカ・ロードリア―だった。
茶色の短髪に黒色の瞳。
中性的な顔立ちで、その瞳からは強い意志を感じる。
優秀な男だ。
「俺は亡命中だ。テラソルスがルナセリアに落とされたのは知ってるか?」
「いえ、初耳ですね。自分はテラソルスに動きありという情報を聞き、偵察に来たので。まさか、テラソルス王国が落とされるだなんて」
「どうやら、国の上層部に売国奴がいたらしい。それで今はテラソルスの第一王女と公爵様を連れて逃亡中ってわけだ」
「なるほど。逃亡先はお決まりなのですか?」
エスカは俺の言った言葉を疑いもせずにすぐに信じてくれる。
昔から俺のいう事を疑わない奴ったけど、三年経った今でもそれは変わらないようで少しだけ嬉しくなった。
「決まってない。とりあえずは俺が昔使ってた隠れ家に行こうかと思っているが残っているか?」
「……ああ。あの場所ですね。ハイスカイ王国が滅亡して以来誰も近づいていないと思うので残ってはいると思います。でも、中がどうなっているかはわかりかねますけどね」
「残ってるだけで十分だ。お前はこれからどうするんだ?」
「テラソルス王国の偵察に。かの国が落とされたのなら次は我々の国が狙われるかもしれませんから」
エスカの今の所属はハイレス王国。
ハイスカイ王国を奪還したのちに建国された国で建国してから三年ではあるものの、国力的にはかなりの物だ。
ハイスカイ王国の人員をほとんどそのまま吸収している。
「わかった。お前の事だから心配ないとは思うが死ぬなよ」
「死ぬ気はありません。偵察が終わったら一度レイス様の隠れ家に顔を出しますね」
「助かる。それじゃあ、健闘を祈ってる」
「ありがとうございます。では自分はこれで失礼します」
どうやら、三人の気配を感じたのは斥候としてのエスカと部下の二人がこの森に入っていたからだろう。
安易に声をかけなかったのは所属が不明だったからか。
「レイス、今のは誰なのだ?」
「俺の昔の知り合いだ。今はハイレス王国に所属してるらしいな。まあ、信頼できるやつだ。警戒しなくてもいい」
「ハイレス王国だと……」
「知ってるのか? アルカ」
アルカは小難しい顔をして腕を組んで何かを考え始める。
何を考えているのか表情から読み取ることはできなかったけど、たぶん難しい事を考えてる。
それだけはわかった。
「ああ、ハイスカイ王国を奪還した後に新たにできた国だ。当時、ハイスカイ王国の王族はみな殺されていたから国の名前を変えたのがハイレス王国だったはずだ」
「その通りだ。だから、もしかしたらテラソルス王国奪還に協力してくれるかもな」
「その手がありましたか。確かに可能性はゼロではありません。元々テラソルス王国とハイレス王国は同盟を結んでいましたからね」
やっと、顔を上げて生気を取り戻した様子のイリアはそう言ってアルカに駆け寄っていった。
王国を取り戻せる可能性が見えてきて舞い上がっているようだ。
前みたいにずっと暗い雰囲気を出されるよりはマシだけど、過度に期待しすぎるのもどうかと思う。
「とりあえずは、隠れ家に急ぐぞ。ハイレス王国に協力を頼むにしてもエスカを挟んだ方がいいだろうからな」
「そ、そうだな。すまん。私もイリアも舞い上がっていたみたいだ」
「しょうがないんじゃないか? だって、自分の愛する国が取り戻せる可能性が出てきたんだからな! もっと喜んでもいいと僕は思うぞ!」
ルルアが明るくアルカにそう語りかける。
この明るさが本当にルルアの良いところだと思う。
落ち込んでいる時やしんどい時にルルアが居てくれたらきっと救われるだろう。
「そ、そうか?」
「そうなのだ! だから、早くレイスの隠れ家に行って今後の方針を固めるのだ!」
「ですね。ルルアの言う通りです。急ぎましょうか!」
やっと、普段の調子を取り戻したイリアが軽い足取りで森の中を進んでいく。
想定外の遭遇をしたが、これは光明だ。
全体的に俺たちの間に流れる空気感が明るくなったのを感じながら俺は森を歩いて行くのだった。




