第23話 戦線離脱
「イリア、アルカ大丈夫か?」
「レイス!? どうしてあなたがここに。馬車で僻地に送ったはず」
「戻ってきたんだよ。言いたいことは山ほどあるけど、後回しだ。今はこの状況を何とかしないといけないからな」
二人と合流できたのは良いけど、このままじゃあ四人ともなぶり殺しにされてしまう。
そんな結末はぜひともごめん被りたい。
「でも、一体どうするって言うんだ。私たちは囲まれて絶体絶命だ。戦力は四人に対して数千は出てくる。勝ち目なんかないだろ」
アルカは興奮しているのかそう巻くしたてる。
確かに流石の俺もこの現状で勝てると言えるほど傲慢な人間ではない。
だけど、別にこの状況下で勝つ必要なんてないのだ。
「戦って勝つ必要なんかないだろ。生き残れば勝ちなんだからさ」
ここでの目的は勝利ではない。
俺の達成すべき目標は二人を生きてここから逃がすこと。
そのために戦いはするけど敵を殲滅する必要な全くないのだ。
「なっ!?」
「ルルア! 頼む」
「任せろ!」
事前にルルアに話していた作戦を実行に移す。
ルルアは敵と距離を取って短い詠唱を始める。
イリアに仕込まれた初級の魔法だが、俺には使えないし水に適性があるのなら初級であってもかなりの威力になるはずだ。
「一体何をする気なんですか。レイス」
「なに、少し時間を稼ぐだけだ。それよりもお前らはここから逃げる準備をしろ。俺が魔法を使うのと同時に俺たちがきた方向に向かって走れ」
ルルアが詠唱を終えて魔法を行使する。
魔法はただの水を敵に向かって放つだけ。
狙い通り俺たちを囲んでいた兵士たちは残さずずぶ濡れになる。
そこに向かって俺の電撃の魔法を撃ちこむと感電が起きる。
これによって敵を一時的に無力化することに成功した。
「ルルア撤収だ! 全力で逃げるぞ」
「もちろんだ!」
「ちょ、お前ら」
「良いから二人ともついてこい。このままここに居たら殺されるだけだ。わざわざ犬死する必要もないだろうが」
うだうだする二人を叱咤して逃げに徹する。
後ろから何回か魔法が飛んできたが、それを全て愛剣で切り裂く。
先ほど使った魔力が一瞬にして回復した。
「とりあえず、王都から出るぞ」
俺たちは全力疾走で王都を後にした。
追手は何とか振り切ることができたけど、これからどうするかを全員で話し合う必要が出てきた。
まあ、誰も死ぬことは無かったからそれだけは良かったと言えるかもしれないな。
◇
「なんでここに来たんだ! レイス!」
無事に安全圏まで脱した後、俺たちは森の泉付近で休息をとっていた。
既に王国の兵士たちの捜索範囲外に出ているため、すぐに見つかるというようなことは無いはずだ。
そうして、休憩をしているとイリアに突然胸倉を掴まれた。
「なんでなんて聞かなくてもわかるだろ。お前らを助けに来たんだよ」
「私はそんなことを頼んだ覚えはありません!」
「俺も頼まれた覚えはないな」
「屁理屈を……」
イリアはかなり頭に血が上っているようで拳を握りしめて振り上げる。
拳はプルプルと震えており、かなりの力が込められていることが見て取れた。
「殴りたきゃ殴れよ。別に止めはしない」
殴って気が済むのなら何発でも殴られてやろう。
だが、その前に俺は確認しないといけないことがあった。
これだけは聞いておかないといけない。
「だが、その前に一つ聞かせてくれ。どうしてお前はそんなにも怒っているんだ? 俺は悪い事をしたつもりはないんだけどな」
俺たちがしたことはイリアとアルカを助けただけだ。感謝をされることはあってもこんな風に怒られるような事はしていない。
だから、なんで彼女がこんなにも怒っているのか疑問で仕方がないのである。
「私は、あなたにこれ以上傷ついてほしくなかった。だから、戦場になり得そうな王都から離れた場所に送ったのに。どうして戻ってきてしまったのですか」
「俺はこれ以上知り合いを失いたくない。それに、状況がアリエルの時と似すぎているんだよ。俺はもう後悔を重ねるような事はしたくない」
「い、イリア? どうしてそんなに怒ってるんだ。良いじゃないか。結果的に私たちは命を救われたんだから」
俺とイリアが向かい合って話しているとアルカが割って入ってきた。
どうやら、こんな風に感情を爆発させているイリアを見るのは初めてらしく少し怯えているようだった。
「ですが……私たちは王国を失いました。これから先、どうすればいいのでしょうか」
イリアは俺の胸倉から手を離してその場に膝から崩れ落ちてしまう。
彼女の言う通り、俺達が離脱する頃にはルナセリアの兵士が王都まで侵攻してきており、あの様子だとすでに王都は落ちたとみて間違いないだろう。
「んなことは後から考えろ。今はとりあえず、安全なところに逃げることを第一に考えねぇとな」
今の俺たちに王国を気にしている余裕はない。
王国がルナセリアに渡った以上、あいつらは血眼になってアルカを殺そうとするはずだ。
まずは安全圏まで退避してからこれからの行動を考えるべきだろう。
「とはいっても、安全な場所ってどこなのだ? 僕は全く心あたりがないぞ」
「私もありません。そもそも、王国が落ちた以上この国に安全な場所などないでしょう」
「私もイリアと同じで安全な場所に心当たりはない。レイスはあるのか?」
「まあ、多少安全な場所に心当たりはあるな。ここからだと三日くらいの距離だが」
ここから西に向かって三日ほど歩くと、旧ハイスカイ王国との国境に差し掛かる。その付近に俺が昔使っていた隠れ家が残っているはずだ。
無事に残っていればいいんだけどな。
「そんな場所が本当にあるのか! 凄いなレイス」
「……じゃあ、とりあえずはそこに向かう事にしましょうか。現状他に行く場所もありませんし」
「レッツゴーなのだ!」
こうして俺たちは移動を開始した。
アルカとイリアからは常に重苦しい雰囲気を醸し出していて、なかなかに話しかけられる空気ではなかった。
「なあ、レイス」
「どうした、ルルア」
「なんか空気重くないか?」
「俺も思ってたところだ。ま、祖国を失ったばかりなんだ。ああもなるさ」
俺も三年前はこんな感じだったのかもしれない。
この状態の俺をイリアは三年間も面倒を見てくれていたんだな。
ありがたいな。本当に。
「でも、流石に重苦しすぎじゃないか? なんだか僕まで重い気持ちになってくるぞ」
「だよなぁ」
後ろを歩く二人は一言も発しない。
空気は完全にお葬式だった。
「なあ、イリア」
「なんだレイス」
「そろそろ休憩にしないか? 結構な時間歩いたし、無理は良くないだろ」
「私たちは全然無理なんかしてません」
どうやら、今のイリアは休憩をしたくはないらしい。
体はとっくの昔に限界のはずなのに、心が休むことを許していないのだろう。
まったく、難儀な性格だ。
「俺が疲れたんだよ。ルルアはどうだ?」
「僕ももう歩けないぞ。くたくただ」
俺の意図が伝わったのかルルアは大げさに疲れや素振りを見せる。
イリアはルルアに弱いらしく、むぅと可愛い声を発してから休憩をすることに頷いてくれた。




