25.不注意
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部屋で出かける準備をしていると、コンコンとノックの音が聞こえた。
「ミキ、行くぞー」
「あ、うん、すぐ行く!」
今日は水曜日。市立の体育館で練習の日だ。
扉を開けると、拓真くんが迎えてくれる。
「お待たせ!」
「おうっ」
急いで鍵を締めると、拓真くんの隣に立って歩き始める。七月に入ってかなり日は長くなっていて、七時前だというのに外はまだまだ明るかった。
こうやって歩くの、最初はすごく緊張したけど、最近はようやく慣れてきたかな。
体育館に着くと、いつも一番に晴臣くんが来ていて、準備をしてくれている。私も荷物を置くと晴臣くんに駆け寄った。
「あ、ミキさん!」
「ネットつけるんでしょ? 手伝うね」
「助かるっす!」
晴臣くんと一緒にネットを出し、両側に分かれてネットを取り付ける。
付け終えると晴臣くんがボールを用意しに行っている間、私は二階に上がって真ん中に仕切られる緑のネットを下ろす。今日の体育館は、バドミントンと半分ずつだ。
「ミキ、手伝うよ」
準備を終えた拓真くんが上がってきて、一緒にネットを下ろすのを手伝ってくれる。下では結衣ちゃんが待機していて、下ろしたネットを引っ張って仕切ってくれた。
こういうことは慣れてきたし、球拾いはそんなに好きじゃないけど、ボール出しは結構好き。
それに結衣ちゃんに教えてもらって、バレーのルールやポジションの役割もやっと覚えてきた。流れ弾は怖いけど、それさえ気を付ければバレーの練習に付き合うのはすごく楽しい。拓真くんもいるしね。
この日もいつものように練習が開始された。それから大体一時間経つと、全体休憩が入る。
「十分きゅうけーい!」
一緒に練習してるおじさま〜ずのキャプテンの指示が飛んできた。
休憩の後は、いつもオカシ対おじさま〜ずの試合が一セットだけ行われて、次の試合はオカシとおじさま〜ず混合のチームで試合がされたりする。
一旦コートを出て給水を済ませた晴臣くんが、三島さんに向かって声を掛けている。
「すんません、三島さん。試合始まる前にちょっとAクイックの練習させてもらっていっすか? 今日は大和さん休みだから、俺がスパイカーだし」
「ああ、もちろん。ごめん結衣ちゃん、ちょっと球出ししてもらえる?」
「いいですよー!」
三人はコートに戻って練習を始めた。
あれだけ動いた後で、晴臣くんは元気だなぁ。
私はみんなと話しながら休憩をしていると、バドミントンのシャトルがバレー側に飛び込んでくるのが見えた。
真ん中を仕切っている緑のネットの幅が広くて、たまーに合間を潜って入ってきちゃうんだよね。
バドミントンの人は遠慮しちゃって、どうしようかとこっちを見てる。
私はそのシャトルを取ってあげようと立ち上がって、バドミントン側へと小走りに近付こうとした。
「ミキッ!」
「危な──」
そんな拓真くんとヒロヤくんの声の直後。
ドガガガンッ!!
ものすっごい音がして、私は吹っ飛ばされた。
肩をしたたかに床に打ち付けて、すぐに立ち上がれずに頭をゴロンと転がした。
うわぁ……目の前が真っ暗……
な、なにが起こったの?
「きゃーーーー、ミキさん!!」
「すんません!! 大丈夫っすか!?」
「ミキッ!」
「ミキさん!」
「ミキちゃん!」
い、痛い……。
あ、バカだ、私……晴臣くんがスパイクの練習してたのに、ついコートを横切っちゃったんだ。
頭にボールが当たって、思いっきり吹っ飛ばされちゃった。すごいんだなぁ、バレーのスパイクって。
「ミキさん……」
そっと目を開けると、つらそうな晴臣くんの顔が飛び込んでくる。
「ご、ごめんね、私の不注意だった」
起き上がろうとするのを、結衣ちゃんが助けてくれる。
わわ、しかも鼻血出てるじゃない、私!
「ミキ、これ使って」
差し出されたのは、拓真くんのタオル。
「え、いいよ、汚れちゃう……」
「いいから!」
結局タオルをグイッと押し付けられて、仕方なくそれを使わせてもらった。
「頭にまとも入ってたな……」
「すんません、ミキさんっ!!」
「いや、だから私が悪かったんだから……気にしないでね、晴臣くん。床には頭ぶつけてないし、鼻血が止まれば大丈夫だよ。ホントごめんね」
そう言っても、まだ晴臣くんは肩を落としてたけど。
私はこれ以上みんなに心配かけちゃいけないと、自力で立ち上がる。見ると、一ノ瀬くんがバドミントンのシャトルを拾って返してくれていた。
体育館の端っこに行って座ると、鼻の根元をギュッと押さえて鼻血が止まるのを待つ。晴臣くんがすごく気にしてくれていたけど、休憩時間も終わったから、練習に戻ってもらった。
私のせいで、みんなに気を遣わせて申し訳ないことしちゃった……。
仕事じゃこんなミスはしないのに……浮かれて、調子に乗ってたのかな、私。
罪悪感に駆られながら、一セットマッチの練習試合を見守る。
さっきのことが影響したのか、晴臣くんの動きにキレはなかった。
オカシな国チームが負ける頃には鼻血は止まっていて、私はお手洗いに向かった。




