24.心配
自分の部屋の前まで来て、アパートの鍵を取り出そうとしていると、唐突に隣の部屋の扉が開いた。
「ミキ!」
「た、拓真くん?」
その形相にビックリしてしまう。
だって、なんていうか……必死。それだけを絵に描いたような顔だったから。
「どうしたの?」
「どうしたのって……途中からパッタリ連絡来ねーし、電話しても電源切られてっし」
「あっ」
私は急いでスマホの電源を入れた。
拓真くんからの着信とメッセージが、いくつも入ってる。
『とにかくホテル出ろ』
『大丈夫か?』
『迎えいった方がいいなら言って』
『ミキがいいなら問題はないけど』
『マジで泊まり?』
『帰ったら連絡くれ』
そのメッセージを見ただけでわかる。
なんか、すごく……心配させちゃったみたい。
「ご、ごめんね! 連絡できなくて……」
「大丈夫だったのか? 三島さんに電話しても、サイレントにしてたのか出ねぇし……なんもされてねぇ? あ、いや、別に合意の上なら、俺が口出せる問題じゃねんだけど」
ちょ、合意の上って!
「な、なににもなかったよ!? 今回はそんなに飲まないようにしたし、普通にお話してただけだから!」
「本当に?」
「本当!」
「なんか嫌なこともされてねぇ?」
「されてない!」
そう伝えると、拓真くんは大袈裟にハーッと息を吐き出して、しゃがみ込んでしまった。
「拓真くん? あの……」
「心配した!!!!」
しゃがみ込んだまま、キッと顔だけを上げて怒られる。
ビックリしたけど。申し訳なくも思ったけど。
その一言が、なにより嬉しかった。
「マジで、ミキになんかあったらどうしようかと思った。グランドホテルに乗り込もうかとも思ったけど、ミキが三島さんとそういう関係になりたいなら、俺は邪魔だろうし。でももし、ミキが困ってたらと思うと、いても立ってもいられなくて、本気で悩んだ!」
うわ……ずっと、私が帰ってくるまでこんな思いをさせちゃってたんだ……。
ごめんね、拓真くん……。
拓真くんは言い終えると、スッと立ち上がった。私の視線はいつものように高くなる。
「心配掛けて、本当にごめんなさい! でも三島さんには婚約者もいるし、そういうことにはならないから大丈夫だよ。私の看護師仲間が三島さんの婚約者で……披露宴の打ち合わせをしてただけだから!」
理由を告げると、今度はホッと息を吐いていた。
「なんだ、俺の取り越し苦労か……でも、よかった」
「そんなに……心配してくれたの?」
「あったり前だろ!! もしミキになにかあったら、俺は──」
ドキンと胸が高鳴る。
嬉しさが、ピークを超えてしまいそう。
もしかして、拓真くんは私のことを……
「母さんとリナに、めちゃくちゃ怒られるからな!!」
……え。
そ、そっちーー!?
拓真くんはプンプンと頬を膨らませるように怒ってる。
うん、これは嘘ついてる顔じゃないね……うう。それにしても。
「拓真くんは、三島さんが結婚するってこと、知らなかったの?」
その質問に、拓真くんはコクンと頷いている。
「ああ、彼女がいるっぽいことはうっすら聞いてたけど。でも男女の関係なんて、彼女がいようがいるまいが、関係なくなっちまうこともあるだろ?」
……なに、その発言。
実は拓真くん……色々経験者?
「た、拓真くんにもそんなことがあったの……?」
「え? まさか。俺、彼女がでできたことすらねーし。今のはただの一般論っつーか、男の本能っつーか……」
なんかモゴモゴいってたけど、彼女ができたことすらないって言葉に安堵してしまう私がいる。
「と、とにかく、もう心配させんなってこと!」
ちょっと照れ臭そうに口を尖らせる拓真くん。
なんかこう言ってもらえることが嬉しいな。
「ふふ、はーい」
「こら。俺は真剣に言ってんだぞ!」
「はい、ごめんなさい! でも本当にありがとう拓真くん。心配してくれて、すごく嬉しかった!」
最後にニッコリ微笑んで見せると、ようやく拓真くんも笑顔を見せてくれた。
「まぁ、年下の俺じゃあ頼りないかもしれねーけど、なんかあったら頼ってくれよ」
「ううん、すっごく頼りにしてるよ」
「あんまり頼りにされても困るから、ちゃんと自重してくれな」
うぐっ。
拓真くんって、引き寄せた後で突き放すんだよねー。
まぁ、らしいと言えばらしいんだけど。
「っま、ミキが無事でよかったわ!」
そう言ったかと思うと、拓真くんの大きな手で私の頭はガシガシと撫でられる。やっぱりちょっと子ども扱いされてる?
拓真くんの背は高くて、私は低いから、ちょうど手が置きやすいんだろうな。
でも、その手があったかくて優しくて嬉しくて。
「ありがと、拓真くん……」
ますます、拓真くんへの気持ちが膨らんでしまった。




