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成り行きまかせの人形使い  作者: リオングレオ
13/19

13 巨大でも動物です



遺跡を出発してから10日目が過ぎた。この日も朝食後すぐに出発した。リーラの森を出てから、朝はなるべく早く出発し、夜は暗くなる前に身を隠すことを徹底している。今歩いているのはリーラの森ではない。植生は殆ど同じだがサイズが大きくなり、出くわす動物と魔物も大型化して来たからだ。


 リーラの森には数百年前まで人が住んでいたからなのか、比較的小さく弱い動物や魔物が多いのだが、奥の森はそうではない。

 実際、昨日はオーガ3匹と遭遇した。青みを帯びた肌と、地面に座ってはいても10メールはあるだろう巨大な魔物だ。それまではせいぜいゴブリンやオークと遭遇するだけだったので、その大きさには本当に驚いた。そいつらが獲物の骨を砕き、生のままの肉にかぶりついてるところに出くわした時は腰を抜かしそうになった。幸い、一心不乱に食事をしていてこちらには気付いていなかった。

 オーガはビーネ達でも倒せるらしいが、無駄に戦う必要もないだろうと、周辺警護している蜂達の誘導でそうっとその場を後にした。

 本当はあの血まみれの食事風景を長く見ていたくなかったんだけどね。


 そしてこの森に入ってから花ちゃん達の様子も少し変わった。種をつけはじめたのだ。

 花ちゃん達は土に生えている植物そのままの姿をしていて、根っ子の一部が触手になって攻撃したり、足になって歩き回ったりしている。そして、絶えず花を一輪咲かせているのだ。葉の間にいくつも蕾はあるが、咲かせるのはいつも一輪だけ。どうやら夜の間に交代していて、翌朝にはいつも新しい花になっていたようなのだが、教えもらうまではゼンゼン気付かなかった。

 そういえば、この旅に付いて来た最大の理由は、種をより遠くへ運ぶことだったな。

 花ちゃん達の顔である花の横に、筒状の棒のような物ができて、中には種が数百から千近く入っている。それを筒から撃ち出すのだ。花によって種の形状が違うのに、撃ち出すという蒔き方は一緒だといのが不思議だが。

 一度実演してもらった。ポンポンという間の抜けた音と一緒に撃ち出されたのだが、スゴイ威力で木にメリ混んだ種を見て顔が引き攣った。これぞ正真正銘タネマシンガンだ。

 つまり、他の生物の身体に撃ち込みより遠くへ運ばせようというのだ。撃たれた生物が即死してもそれはそれでOKで、土でも死骸でも、わずかな養分で発芽するんだそうだ。さすがは魔物。種蒔きもえげつない。

 

 僕は今、マシンガンで武装強化した一軍と進行中ということだ。心強くはあるんだが、走り回る花ちゃん達を見てると暴発するんじゃないかと心配になってくる。誤射なんかされたら、僕は即死だ。


 そして、問題児になりつつあるのが肩に乗ってるビーネだ。すっかりここを移動時の定位置に決めたらしい、器用に人間のように座って楽しそうに周囲を見ている。

 だんだんわかって来たんだが、彼女は好奇心旺盛で興味を引くものがあると後先考えずに突っ込んでいくという、厄介な性格をしているようなのだ。昨日のオーガにも興味津々で近寄って行くのを、慌てて掴んで引き止めたのだ。

 彼女は気が弱くて他の女王候補と闘えないわけではないのだ。ようは注意力散漫、しょっちゅう他に気を取られて女王候補であることに集中できないのだ。

 女王候補は闘いに敗れれば死が待っている。昆虫とはいえ、こんなに懐いてくてたんだから情だって沸いて来る。生きて欲しい。だが、女王になったらなったで問題もありそうで、頭の痛いところだ。

 まぁ、この問題はラピスが、もしくは魔物蜂レギオビーネ全体で決めることなんで、僕が悩んでもどうしようもないんだけどね。


 そんな彼女の目下のブームは落下傘だ。森で最初の野宿の際にリスの魔物に放った花火から出たやつだ。今もキチンと畳んだ落下傘を抱えている。お前には羽根があるんだから必要ないだろうと突っ込みたい気分だ。

 いや、彼女だけのブームではないな。僕と同道している魔物みんなの宝物になってしまった。

 破れやすくて脆かったそれを、蜂達は蜜蝋でコーティング強化してしまった。薄く塗ったとはいえ、魔物の蜜蝋だ。花ちゃん達のタネマシンガンをくらっても破れなかった時には乾いた笑いしか出なかった。どこぞの軍事国家がヨダレを垂らして欲しがる技術だろうな。

 みんなその落下傘で、時間があれば遊んでいるのだ。意外なことに奪い合って争うということはなく、ビーネ達が止まった落下傘を花ちゃんが触手を使って空中に投げたり、花ちゃんがぶら下がって蜂達が空中へ運んだりと、仲良く遊んでいるのだ。

 後で知ったのだが、いつの間にか、花ちゃんが種をつける際にビーネ達の力を借りていて、ビーネ僕は代わりに花の蜜を貰えるという共生関係が生まれていたのだ。


 なんにせよ、同行者達の仲が良好なのはいいことだ。僕達は順調に森の奥へ進んでいる。

 リーラの話しでは、魔女は山の麓に住んでいると言っていた。周囲の木が大き過ぎて、かろうじて空が見えるくらいで遠くまで見通せないのがつらいところだ。


 「セバス、そろそろ昼飯にしようぜ」


 「ポピ!」


 セバスは言葉こそ話せないが、音で返事をしてくれるようになった。思念で感情や意思は伝わるので問題ないのだが、なんの返事もないと独り言を言ってるようで虚しくなるのだ。だからセバスの気遣いはとても嬉しい。

 意外と広い音域で音が出せると気付いたので、メロディーを奏でたら面白いんじゃないかと、地球の曲を教えてみた。セバスは僕の期待に応えて、見事に(うた)ってくれた。けれど、それを聴いた僕はものすごく後悔したのだ。

 セバスのオカリナのような音色で奏でられたメロディーは、それはそれは郷愁を誘ってきた。ホームシックになって思わずヒザを抱えたくなったよ。たとえそれが笑〇のテーマ曲だったとしてもだ。笛初心者のお約束、チャルメラが夕暮れの森に響いた時には涙が出て来た。以来《うた》は()めてもらっている。


 音色を思いだしてしんみりしていたら、セバスが焚火の準備を終わらせてくれた。この焚火に火をつけるのは僕の仕事だ。

 この世界に転移してからずっと着火マンで火を起こしていてのだが、燃料が心許なくなってきた。そこで、お蔵入りしていた蚊取り線香を火種にして、それを腕輪のアイテムボックスにしまっておくことを思いついたのだ。

 ビーネ達というか、魔物達は蚊取り線香の煙りをものすごく嫌った。火を興すほんの少しの間ですら離れた所に避難するくらいだ。

 火の着いたものを砂を詰めた蜜蝋の箱に入れて、アイテムボックスで保管したらかなり保つだろうと、使用に踏みきったのだ。燃え尽きたとしても蚊取り線香50巻き缶を持ってきているから、僕の一生分はあるんじゃないかな。使い切る前に帰れることを祈るが。


 「お~美味そう~!」


 焚火でセバスが炙っているのは、少し大きめだが松茸によく似た茸だ。名前は知らないから取り合えずそう呼んでいる。

 この森に入ってから時折見かけるんだが、ものすごく美味い。地球の松茸の味は良く知らないから比較できないんだが、コッチの方が美味いんじゃないだろうか。

 炙ると香ばしい匂いがしてくる。噛むとシャクシャクと程よい歯ごたえで、塩胡椒して焼いた肉のような美味い汁がジワッと出てくるのだ。そう、調味料もないのにいい塩梅の《味》がするのだ。すっかりハマって見つけたら必ず採取している。

 マツタケを5本と果物を食った後、ちょっと食い過ぎたかな~なんて呑気に思いながら、落下傘で遊んでいる花ちゃんやビーネ達を眺めなていた時にそれはやって来た。


 最初に気付いたのは振動だった。不信に思って立ち上がり、周囲を見回す。立ち上がっても感じるようになった振動は、ゆっくり一定のリズムを刻みながら徐々に近づいて来ているようだ。やがて、パキパキという地面を踏み締める音もしてきた。音は一つじゃない。数匹はいる。まさか、昨日のオーガじゃないよな?そう思いながら身構えた時、目の前の木々の間から山が現れた。


 「マ、マンモス…?デカ…!」


 地球にはコモンドールというモップみたいな牧羊犬がいるが、アレを4~5階建てのマンションかアパートくらいの大きさにして、象の鼻をつけたような生き物が目の前にいた。灰色の毛の間から真っ白な象牙が左右2本づつ計4本もはえている。見上げるほどデカイのと長い毛のせいで目がどこにあるのかわからないが、人の胴体よりも太く長い鼻をゆっくり振っている。鼻は硬そうな皮だけで毛はない。

 って、考えてる場合じゃないな。

 

 「ま、魔物かっ!?みんな、逃げるぞ!」


 群れる生物なのか、先頭のマンモス(名前がわからないから勝手に命名)の後ろに数頭続いているのが見える。あんなのが向かって来たらひとたまりもないぞ。

 けれど、花ちゃん達に警戒する様子がない。僕の声に一度動きを止めたが、再び落下傘で遊びだした。

 そういえば、偵察に出ている蜂達も危険を知らせて来なかった。

 その時、セバスから思念が飛んできた。

 どうやらこのマンモス、草食で非常におとなしい生き物で、踏まれないように注意する以外は警戒しなくても大丈夫らしい。驚いたことに、魔物ではなく普通の動物なんだそうだ。


 「この大きさで魔物じゃないのかよ…」


 地球にも象や鯨のように大型の動物がいたんだから、おかしくはないが、目の前に来られると威圧感が半端ない。どうやら10頭ほどの群れらしく、仔なのか小さいのが1頭いた。

 マンモスは僕達を気にすることもなく、周囲に散らばって高い所の木の葉を食い始めた。

 呆然とその様子を見ていたら仔マンモスが近寄って来た。仔とはいっても地球の象より大きいのでちょっと怖い。大人が全身長い灰色の毛で覆われてるのに対して、白い巻き毛がふわふわしていて大きなトイプードルのようだ。毛の隙間から見えた目はクリンとつぶらで意外と可愛い。


 「だ、だめだ…。可愛いからって触ったらダメだ」


 野生生物に安易に近付いて命の危機に晒されること数回。僕だっていい加減学習するのだ。

 だが、僕が葛藤している隙に、いつの間にか花ちゃん達が仔マンモスの背中に乗っていた。そこから落下傘を使ってダイビングしている。ビーネはとっくマンモスに近寄り、大人マンモスの周りを高速で飛び回っている。

 仔マンモスは嫌がる様子も見せず、むしろ鼻を使って花ちゃん達を投げたりして一緒に遊び始めた。まだ幼いようで、食事よりも遊びたいらしい。

 

 「さ、触っても大丈夫なのか?」


 平和そうなその様子を見て、どうやら大丈夫そうだと僕も手を伸ばしてみた。


 「すげっ!柔らかいっ!」


 仔マンモスの毛は想像以上にモフモフだった。野生動物なのにあまり汚れていないし嫌な臭いもしない。思いきって顔でモフってみた。お日様の臭いがしてものすごく気持ち良かった。立ったままなのに眠気が来るほどの感触だった。

 

   ☆      ☆      ☆      ☆


 「結構揺れるんだな~」


 存分にモフモフした後、仔マンモスとしばらく一緒に遊んでいたら、食事を終えた大人達がやってきて再び移動を始めた。

 その頃にはすっかり仔マンモスと仲良くなって、僕まで背中に乗らせて貰っていたのだ。ちょうど行く方向が同じだったし、そのまま移動している。

 背中のモフモフは想像以上に気持ち良くてウッカリ眠りそうになったが、歩き始めるとかなり揺れて、眠気も吹き飛んだ。


 親マンモスの方が揺れないんだろうけど、5階建の建物ほど高さだ。そんなところに登る勇気はない。

 ビーネと花ちゃん達は平気なようで、先頭のマンモスの上で気持ち良さそうに揺れているのが見える。


 仔マンモスの背に揺られながら、改めて森を見回してみる。リーラの森よりも木が大きい。背丈はマンモス達よりもずっと高い。幹なんてもはや壁だ。

 木の上には色んな種類の鳥が見える。リスのような生き物が上空の枝を走って行く。この前の魔物か?とも思ったが、すぐに視界から消えたので良くわからなかった。地には角の生えたウサギが何かの葉を食べている。その奥には僕の顔ほどある巨大な蝶が数匹飛んでいた。鹿のような動物が歩いて行く姿も見かけた。みんな森を行進するマンモスに逃げることもせず、ただ通過を見送るだけだった。

 体が大きいから歩幅も大きいマンモス達は、ゆっくり歩いているようでも僕が歩くよりもずっと早い速度で進んでくれた。しばらく歩いていただろうか。そろそろ今日のキャンプ地を探すかと考えていた時、突然視界が開けた。

 

 そこには大きな湖があった。この世界で初めて見る大きな空と地球より赤く見える太陽。そして、対岸の森を抱くように山がそびえていた。尾根がいくつも連なり、頂上付近に雪を被っている山もあった。その中央に頂きを雲で霞ませた赤茶けた山が見えた。

 あれがリーラの言っていた、魔女の住む山なんだろう。

 

 

 




 

 

 

 

 




 


 


 


 


                   

 

 


 


 



 

 

 


 




 


 

 

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