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剣も鎧も装備できない遊び人ですが、指輪なら何個でもつけられるので最強でした ~拾った建国の名剣は物干し竿にしています~  作者: 黙


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第48話 読めない字

しゃべった。

鷹が。

……今、しゃべったよな。


「……どうも」

間の抜けた返事が、口から出た。


鷹は、何も返さなかった。

羽をたたんで、建物の入口の脇に下りる。金色の目だけが、まだこっちを見ていた。


「入っていい、ってことよね」

リゼが、小声で言った。

「封印、とおっしゃいました」

マレの声が、少し震えていた。


怖がってるんじゃない。目が、もう建物の中を見ている。

鷹の横を通る時、首の後ろがちりちりした。

鷹は、動かなかった。




中は、ひんやりしていた。

窓はないのに、薄明るい。天井の石の継ぎ目から、細い光が落ちている。

広間の壁は、一面が絵だった。


光の輪を背負った人の形が、いくつも並んでいる。たぶん、神様だ。

その向かいに、黒く塗りつぶされた、もっとでかい影。

あいだには、折れた剣や、倒れた人や、燃える町が彫ってあった。


「神々と、邪神の戦いです」

マレが、壁に沿って歩き出した。


絵は、右へ進むほど神様の数が減っていく。

黒い影も、少しずつ欠けていく。

いちばん端の絵で、マレが足を止めた。


残った神様たちが、空へ昇っていく。

黒い影は、地面の下へ沈んでいく。


「最後は……神様たちは空へ。邪神は、地の底へ」

「相討ち、か」

「……分かりません。絵だけでは」


リゼは何も言わずに、空へ昇る神様たちを見上げていた。

俺は、広間をぐるっと見回した。

壺もない。箱もない。床に金貨の一枚も落ちてない。


「……絵だけかよ」

「あんたねえ」

リゼが、横目でにらんできた。

「神代の遺跡よ? ほかに言うこと、ないの」

「水晶の洞窟のほうが、よっぽど宝の山だったぞ」

「……それは、ちょっと分かるけど」


「奥に、まだ部屋があります!」

マレの声が、奥から響いた。


広間の奥の、四角い入口をくぐった。

途端に、空気が重くなった。冷たいんじゃない。濡れた毛布を、背中にかけられたみたいだ。

部屋の隅に、黒い塊が立っていた。


鉄だ。たぶん。

角のぴしっと立った四角い柱で、俺の背より頭二つは高い。継ぎ目も、錆も、傷ひとつない。

その表面に、細かい何かがびっしり刻まれていた。


「……知らない」

マレが、塊の三歩手前で立ち止まった。両手は、ちゃんと後ろに組んでいる。

「神代の字に似てます。でも、ところどころ形が違うんです。こっちの線は魔法陣の組み方にも見えるのに、つながり方が、全然……」

どんどん早口になっていく。

「こんなの、図録にも、先生の書庫にもありませんでした」


「鑑定、します」

マレは、塊をじっと見つめた。


……長い。

いつもなら、ひと呼吸で名前が出てくるのに。

マレの額に、汗が浮いてきた。


ふらり、とマレの体が揺れた。

リゼが、とっさに肩を支える。


「マレ?」

「……だいじょうぶ、です。魔力を、ごっそり持っていかれただけで」

マレは、肩で息をしていた。

「なんとか、読めました。……〈邪なる目を封じる神の匣〉」


「よこしまな、目……」

リゼが、小さく繰り返した。

「匣? これがか」

どう見ても、ただの鉄の柱だ。蓋も鍵穴もない。

「じゃあ、中に何か入ってんのか」

「ノア」


リゼの声が、低くなった。

「触ったら、生きて帰れないのよ」

「触らねえよ」


……ちょっと、どんなお宝が入ってるのか気になっただけだ。


マレは、もう帳面を開いていた。

炭の棒で、塊の字をひとつずつ写していく。いちばん上の段の、端から。


俺は入口の柱にもたれて、それを眺めた。

ひとつ写すたびに、マレは顔を上げて塊を見て、また帳面に戻る。

いちばん上の段だけで、字は百や二百じゃきかない。それが、てっぺんから床まで。四つの面、全部。

……何日かかるんだ、これ。


あくびが出た。

ここで寝たら、リゼに蹴られる。


しばらくして、リゼがマレの肩に手を置いた。


「マレ。それ、全部写す気?」

「は、はい。せめて一面だけでも……」

「あんた、ふらふらじゃない。一面で、何日かかるの」

マレの手が、止まった。

「……でも」

「ガントさんも、船で待ってるのよ」


「でも、こんな字、二度と見られないかもしれないんです。先生だって、きっと――」

「でもじゃないの」

リゼが、ため息をついた。

「それに、あの鷹もだめって言ってたでしょ」

「さ、触ってません」

「分かってる。……でも、この部屋、なんか嫌なのよ」


マレは、帳面を胸に抱えこんだまま動かなかった。

リゼが、こっちを振り返った。


「ノア。連れてきて」

「へいへい」


柱から背中を離して、塊のほうへ歩いた。

三歩。四歩。

マレの襟首に、手を伸ばした時だった。


塊の字が、光った。


いちばん下の段の、端の一字。そこから隣へ、隣へと、火が走るみたいに光が広がっていく。

白でも青でもない。濁った、赤黒い光だった。


「え……」

マレの手から、炭の棒が落ちた。


光は、もう俺の目の高さまで上ってきている。

なんだ、これ。

触ってねえぞ。誰も、触ってねえ。


「出ろ!」

外から、腹の底まで響く声がした。

「今すぐ、そこから出ろ!」


考えるより先に、マレを小脇に抱えていた。


「ひゃっ」

「走れ、リゼ!」


広間を突っ切る。

背中から差す赤黒い光で、壁の神様たちが、こっちをにらんでいるみたいに見えた。

隣を走るリゼの目が、ちらりと俺の胸元に落ちた。


「ノア、それ……」


見下ろした。

シャツの下で、何かが光っていた。


首飾りの〈邪神の心〉が、あの塊と同じ色で、脈を打つように光っていた。

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