#17 壊れた記憶回路
古代兵装の頭部。
その内部には。
無数の魔力回路が張り巡らされていた。
レオンはモノクルを通して。
一本ずつ回路を確認していく。
「……これは違う」
一本。
「これもまだ使える」
また一本。
「こっちは完全に壊れてる」
レオンは慎重に指を動かす。
ダインは横で黙って見ていた。
「そんなに細かいものなのか?」
「ああ」
「腕の回路より細い」
「記憶を保存するための回路だからな」
レオンは説明する。
「普通の魔力回路とは少し違う」
「魔力を流すだけじゃない」
「流れた魔力の形を残してる」
ダインは首を傾げた。
「……よく分からない」
「簡単に言えば」
レオンは一本の回路を指差す。
「こいつの中に、昔見たものや聞いたものが残ってる」
「だから記憶か」
「ああ」
レオンは頷いた。
「でも、壊れた回路が多すぎる」
古代兵装の頭部には。
黒く変色した回路が何本もあった。
その一部は。
完全に途切れている。
「これじゃ、記憶が繋がらない」
『……記憶』
古代兵装が呟いた。
レオンは振り返る。
「思い出したいか?」
『……はい』
「分かった」
レオンは工具を握った。
「なら、直す」
最初に。
壊れた回路を取り外す。
――カチッ。
一本。
さらに一本。
無理に引っ張らず。
周囲の回路を傷つけないように。
少しずつ取り除いていく。
「ここは残す」
「ここも」
「この部分は……」
レオンは目を細める。
「まだ記憶が残ってる」
「分かるのか?」
「音が違う」
「音?」
レオンは回路を軽く叩いた。
――コン。
「壊れた回路は音が死んでる」
――コン。
「でも、これは違う」
少しだけ。
澄んだ音が返ってきた。
「まだ生きてる」
ダインは感心したように呟く。
「やっぱり、お前の修理って変だな」
「鍛冶師なんてみんなこんなものだ」
「絶対違うと思う」
レオンは苦笑した。
次に。
古代銀を炉へ入れる。
――ボッ。
青白い炎が揺れる。
レオンは溶けた古代銀を取り出し。
細い線へ加工していく。
――カン。
――カン。
――カン。
右腕を修理した時より。
さらに細い。
髪の毛ほどの銀線。
「これを使う」
「そんな細いので大丈夫なのか?」
「ああ」
レオンは答える。
「記憶回路は、魔力を大量に流す場所じゃない」
「だから細い方がいい」
銀線を一本。
壊れた回路へ合わせる。
そして。
銀針を差し込んだ。
――カチッ。
青白い光が走る。
『記憶回路――一部接続』
『復旧率――三パーセント』
「三パーセントか」
ダインが言う。
「少ないな」
「でも十分だ」
レオンは古代兵装を見る。
「ゼロじゃなくなった」
その瞬間。
古代兵装の目が。
――ポッ。
青白く光った。
『……映像』
「何が見えた?」
『……工房』
レオンは手を止めた。
『……多数の鍛冶師』
『……兵装』
『……修理』
古代兵装の声が。
少しずつ明瞭になっていく。
『……笑い声』
ダインが驚く。
「笑い声?」
『……はい』
「戦争のための兵器じゃなかったのか?」
レオンが尋ねる。
古代兵装は少し黙った。
そして。
『……兵装は……武器だけではない』
レオンの目が細くなる。
「どういう意味だ?」
『……守るため』
『……働くため』
『……人を助けるため』
その言葉に。
レオンは工房を見回した。
大量の修理設備。
製造設備。
そして。
眠ったままの古代兵装。
「……なるほど」
ダインが尋ねる。
「何か分かったのか?」
「少しだけな」
レオンは答えた。
「こいつらは最初から、戦うためだけに作られたわけじゃない」
古代兵装には。
それぞれ役割があったのかもしれない。
採掘。
運搬。
建築。
修理。
そして。
戦闘。
「だから、これだけ種類がある」
レオンは呟く。
その時。
古代兵装の記憶が。
再び揺れた。
『……警報』
『……赤色警告』
『……全区画封鎖』
レオンの表情が変わる。
「そこだ」
「何か思い出したのか?」
『……誰かが……叫んでいる』
『……逃げろ』
『……兵装を止めろ』
『……地下へ……』
声が途切れる。
「地下?」
レオンが聞き返す。
『……地下……第一工房』
そこで。
記憶が途切れた。
古代兵装の目から。
光が消える。
「……ここまでか」
レオンは息を吐く。
ダインが聞く。
「第一工房って、さっきの話にも出てきた場所だよな?」
「ああ」
レオンは頷いた。
「この工房より、さらに奥にあるらしい」
アインが解析を始める。
『周辺施設を検索』
『該当地点――未確認』
『ただし……』
「ただし?」
『地下深部に、古代魔力反応を確認』
レオンが顔を上げる。
「場所は?」
アインが答える。
『この工房の下方』
『距離――約三百メートル』
ダインが目を丸くする。
「下にあるのか?」
「ああ」
レオンは立ち上がった。
「第一工房が、そこにある可能性が高い」
そして。
修理台の古代兵装を見る。
「でも、その前に」
レオンは頭部の回路へ目を向けた。
「お前の記憶をもう少し直す」
『……修復者』
「何だ?」
『……ありがとう』
レオンは少し驚いた。
そして。
小さく笑った。
「礼はまだ早い」
「全部思い出してからにしろ」
古代兵装の目が。
再び青白く光る。
『……了解』
レオンは金槌を握った。
――カン。
――カン。
古代の修復工房に。
また音が響き始める。
一つ。
また一つ。
壊れた記憶回路が繋がっていく。
そして。
その記憶の奥に眠る。
「第一工房」。
そこには。
古代兵装たちが眠ることになった。
本当の理由が隠されている。




