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【第2部開始】やっぱヒロインは駄女神よりも猫耳のほうが、需要があるんじゃないか?

最初の記憶は、父が立派な鎧を着て頼もしい兵たちに檄を飛ばす場面だ。


私は優しい母の腕に抱かれそれを見ていた。


母のフワフワの肉球と、優しい毛皮の匂いがとても好きだったように思う。


物心ついたときには、おもちゃの剣を手にとり、訓練の真似事をしていた。


父は優しい顔で太刀筋を褒めてくれたが、母はどうやらお気に召さなかったようで、どこか不機嫌であった。


よくある貧乏騎士爵の夫婦のようだが、父は人間で、母は獣人であった。


かつての暗黒時代と比べ、帝国での獣人の地位は回復したといわれるが、


獣人と結婚をする貴族はまだまだ少なかったと聞いている。


そんな二人の娘である私はいわゆるベアスキン(露出種)と呼ばれるハーフだ。


まあ簡単に言うと毛皮をもっていない人間っぽい種ってことだ。


獣人の証としては、夜目が効く瞳と、三角猫耳と、キュートな尻尾ぐらいがあれば十分だろう。


ちなみに毛皮があるより獣っぽい獣人をファーラッド(被毛種)という。


名前決めたやつ脳みそ入ってるのかってくらい単純な名前だ。


そんな帝国の状況ではあるが、父は母に一目惚れをして求婚したそうだ。


山賊にさらわれていた母を助けたのが出会いだったそうだ。


「普通、一目惚れするの母様のほうじゃない?変なの」


幼い私は、父にそう言った。


「そう、その人は変なの身分が違うからって私が断っても、ずっと付きまとってくるのよ。


最後には可哀そうになって結婚してしまったわ」


母はあきれた様子で父のことを語っていた。


だけど私は知っている母の語る父こそが真の騎士の姿だってことを。


---


帝国の中でも比較的王国に近い地域で生まれた私。


身近に争いというものを感じながら育った。


貴族の生まれではあったものの、家は貧乏で、友達は平民だけ。


なんなら女の身であったが、そこらの悪ガキどもをコテンパンにしていた。


そして力づくで言うことを聞かせ、騎士団の真似事をしていたくらいだ。


もちろん私が父と同じく団長の役であったということは間違いなく伝えておきたい。


私が本格的に剣の修業を始めたころ、母は体を壊し、帰らぬ人となった。


その頃から領地で不審な事件が起きはじめた。


父は民を守るため、対応に駆けずり回っていた。


そのストレスからだろう、父は酒に逃げるようになっていた。


さらに、賭け事で身を持ち崩し、


そして、没落。


自殺。


まあ、よくある話だろう。


うちの領地を狙った別の貴族が動いていたという風の噂も聞いたが、


そのころには、もう何もかも失った後だった。


私は、奴隷商人に売られるギリギリのところで、


街のごろつきども(かつての私の騎士団とも言うかもしれない)に助けられた。


そうして命からがら帝国から王国へと逃げ出したんだ。


---


私が、ここ冒険者都市カナンベルクに居付くようになっていた。


それは、半ば必然だったのかもしれない。


身分不詳で、できることと言ったら、剣を振り回すくらい。


この街はそんなやつらが流れ着く場所だった。


この街の冒険者は仕事には困らない。


それは、冒険者全員がまともな仕事にありつけるという話ではない。


Dランクまでのひよっこ冒険者は、周辺の街道で低級なゴブリンなどを間引く仕事をする。


Cランク以上のまともな冒険者はダンジョンに入り、街のため、己のため、資源回収に精を出す。


私はCランクのまともじゃない冒険者になっていた。


ダンジョンでは少人数パーティーをつくり、ダンジョンアタックを行うのが基本だ。


複雑な構造をとるダンジョンでは、ソロでは回避しきれない罠や危険が目白押しだから当然だろう。


私とパーティーを組んでくれる変わり者は、この街にはもういない。


私はCランクになり、受けられるまともな仕事がなくなっていた。


それでも私は、まだ冒険者で上を目指すことを諦められてはいなかった。


父に褒められた剣を手放すこともそうだが、私は誰かを護れる真の騎士になりたかった。


王家に仕える騎士にはもうなれないことは分かっている。


せめて、父みたいな馬鹿にはなりたかった。


---


最近、この街に妙な噂が流れていた。


「ひよっこどもの死傷率が下がってるらしい」


「は?」


酒場の隅。


安酒を飲んでいた私は、思わず聞き返した。


そんな馬鹿な話があるか。


この街では新人が死ぬ。


それが普通だ。


ゴブリン。


罠。


油断。


連携不足。


あるいは単純に運が悪い。


死ぬ理由なんていくらでもある。


なのに。


「なんか最近、魔物討伐のときの死傷率が下がってるんだとよ」


「しかもDランクのひよっこ連中で、なんならCランクのやつらも騒ぎ始めていたぞ」


「観測の女神がどうとかって」


「観測の女神?また変な地方神かなにかか?」


胡散臭い。


私はジョッキを傾ける。


「宗教勧誘?」


「いや、なんか攻略法らしいぞ」


「攻略ぅ?」


「……そんなもんあるなら、最初から皆死んでないだろ」


私が吐き捨てると、向かいの冒険者が肩を竦めた。


「でも実際、生き残ってるんだよ」


「偶然じゃないのか?」


「俺もそう思ってたんだがなぁ……」


男はジョッキを置く。


そして、少しだけ声を潜めた。


「“聖書”見た奴が強くなってる」


「は?」


ますます意味が分からない。


---


翌日。


私はギルドの片隅で、その“聖書”とやらを見つけた。


銀色の装丁で妙に目立つ。


【観測の女神ルミア公式攻略聖書】


「だっさ……」


思わず口から漏れた。


近くにいた若手冒険者が慌てる。


「しっ!?聞かれたら怒られるぞ!」


「誰に」


「信者に……?」


「いるんだ信者」


いるらしい。


しかも増えてるらしい。


意味が分からない。


私は半信半疑で聖書へ触れた。


次の瞬間。


空中へ映像が浮かび上がる。


「うわっ!?」


思わず尻尾が膨らんだ。


映像。


森。


ゴブリン。


そして、ひょろい男。


なんだこいつ。


剣もろくに持てていない。


その男が叫ぶ。


『右足だ!!』


次の瞬間。


ゴブリンの踏み込み。


新人冒険者が回避。


反撃。


命中。


ゴブリンが崩れる。


「……は?」


映像が続く。


『槍持ちはフェイント混ぜるぞ!!』


『棍棒持ちは踏み込みが深い!!』


『囲まれるな!!』


新人たちが、生き残っている。


しかも、戦えている。


ゴブリンを攻略している。


「なんだそれ……?」


気づけば。


私は映像へ見入っていた。


動き。


重心。


視線。


間合い。


全て理屈になっている。


経験や勘じゃなく、理解して戦っている。


その感覚は、どこか父の教えに似ている気がした。


『敵を見ろ。剣を見るな』


父に何度も言われた言葉。


映像の男はそれを、ゴブリン相手にやっている。


しかも、新人向け。


「……馬鹿か?」


こんなもの普通は秘匿する。


攻略法なんてものがあるんなら、それは冒険者の命綱だ。


なのに、こいつは、全部ばら撒いている。


映像の最後、男の声が響く。


『皆さんのご視聴が、女神ルミア様の力になります!』


『お気に入り登録とご入信、よろしくお願いします!』


「うさんくさ……」


でも、少しだけ。


本当に少しだけ。


胸の奥が熱くなっていた。


もし。


もし本当に。


こうやって強くなれるなら、私でも、もっと先へ行けるんじゃないか。


私、ステューリア・グランも真の騎士に、なれるんじゃないか。

面白かったら評価・ブクマお願いします。


ルミア『ヒロインは私です』

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