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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第二部:伯爵と魔獣の森
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四人組の野盗


「時間切れだ。だまって見逃すって選択肢はなくなったぞ?」


「ふざけるなっ!!!」


一人が激昂して剣を抜いて走り寄ってくる。

一番最初に模範問答を喚いた男だ。

さっき俺が『逃げるか死ぬかだ』なんて脅しちゃったもんな。

殺されるくらいなら破邪相手でもやってやるぜ、ってところだろう。


軽率な台詞を投げかけて済まない・・・

『適切な状況判断』は俺の今後の課題として深く心に刻ませて貰う。


男は腰を落とし、剣を胸の高さで真っ直ぐ構えて走り込んできた。

打ち合うよりも、初手で刺し殺そうって気概だな。

もちろんガオケルムを抜く必要など爪の先ほども無い。


男が突き刺してきた剣の切っ先が胸元に届く寸前、俺はスッと身体を横にずらしてそれを躱した。

全体重を掛けて俺を刺し殺すつもりで飛び込んできた男は、事態が分からずにそのまま歩を進めるが、俺は脇から手を伸ばしてその男の握っている剣を掴み、軽く捻って奪い取る。

その勢いで男は前のめりに頭から地面に突っ込むとゴロゴロと転がった。


・・・やっと自分でも分かったよ。


単に人を殺したくないってだけじゃ無くて、いまの俺にとって大抵の人族は、それがエルフであろうが人間であろうが、おそらくはアンスロープであっても、子供をいたぶるようなものなんだ。


強烈な魔法使いやエルスカインの配下はともかく、自分に歯向かってきたからと言って、勇者がただの野盗を斬り殺したら、それは過剰対応だろう。

俺は勇者になって心の中でそれを感じていたから、できるだけ人とは戦いたくないって気持ちになってたんだな・・・


さてと。


すっ転んだ男は頭を打って気絶してしまったらしい。

気配からして死んではいないだろう。

俺は奪い取った剣を無造作に地面に投げ捨てた。


「あと三人だな。さっきの俺の言葉は訂正するよ。抵抗しないなら殺さずに縛り上げて、明日の朝にでもどこかの詰め所に突き出すことにする。それでどうだ?」


「黙れ! お前を信用できる訳ないだろうがっ!」


そう叫びながら、二人目の男が向かってきた。

コイツは、さっきの奴よりは少し腕が立ちそうだ。


剣を無造作に携えたような姿で向かってくるが、これは特殊な下段の構えだ。

その姿勢から身体を捻りつつ剣を振り抜くと、切っ先は驚くほどのスピードで跳ね上がる。代わりに二太刀目を出すのは一拍遅れるから、あくまでも相手を油断させておいて・・・と言う一撃必殺の技だな。

コイツ、以前は暗殺者でもやってたのか?


俺がまだ刀を抜いていないから、間合いに入る余地があると思ったんだろうね。

悪いが、お前にそんな余裕は無いよ。


近づくと同時に体を落として剣を下から上に振り抜こうとした男の利き手を、俺は無造作に押さえ込んだ。

まさか俺がそんなスピードで動けると思っていなかった男は、あっけにとられた表情のまま、次の瞬間には俺の蹴りをくらって仰向けにもんどりうつ。

俺の右手には、彼が抜くことができなかった剣が残っていた。


「あと二人。まだやるか?」


「いや、降参だ。参った。あんたには逆らわないよ」


ずっと黙っていた年かさの男だ。

四人の中では一番年長っぽいし、顔つきも歴戦の雰囲気を漂わせてる。

コイツが一応四人のリーダー格なんだろうか?

その男が自分の剣を鞘ごと外して地面に置くと、もう一人の男もおずおずとそれに従って自分の剣を地面に降ろした。

リーダー格の方は両手を開いて、手の中になにも隠し持っていないことをこちらに見せると、頭の上にその手を載せて膝をついた。


なるほど。

それで俺が安心して近づいたら、首の後ろに隠してある短剣を抜いてブッスリやると。

もう一人も間違いなく何か隠し持ってるだろう。

こいつら、本当に手練れだなあ・・・なんで野盗なんかやってるんだ?


「そうか。じゃあ首の後ろの短剣も地面に置け。他に隠しているものがあったら、それも今のうちに出しておいた方が後悔しないと思うぞ?」


俺はそう言うと、リーダーの男はぎょっとした表情をして俺を睨んだ。


「それと投擲系の武器は俺には意味ないからな? 手で投げるモノのスピードなんて遅すぎるんだよ...信じられないなら一度試してみてもいいぞ」


魔獣は投擲系の武器を避けずに平気で突っ込んでくる奴が多いし、実際、毛皮が丈夫で大したダメージにならない相手が多いんだよね。

だから普通の感覚で言えば、投げナイフが牽制用の武器として効果があるのは対人戦闘だけだ。

だけど、いまの俺は投げつけられたナイフを手でキャッチできるよ?

たぶん。


リーダーの男はため息をついて吐き出すように言った。

「降伏すれば本当に殺さないか?」

「ああ、さっきの俺の台詞は脅しのつもりだったが軽率だった。捕縛するが、殺しはしない。あとは騎士団か衛士隊の判断に任せる」


この男、ナチュラルに『降伏』という言葉を使ったな。

ひょっとすると元は兵士か?


こいつらを騎士団の詰め所に野盗として突き出したとして、後はどうなるかな。

余罪が沢山あれば死刑になる可能性は高いが、そうでなければ鉱山で強制労働とかか?

ミルシュラントにそんなのあるのかな?

まあ無くても、なんか代わりの罰則があるだろ。

たぶん。


「その言葉を信用しよう。ならば、武装解除に応じる。これから小さな武器も出すから手を動かすことを承認してくれ」


「分かった。まずは隠し持っている武器を全部出してくれ。その後、他に隠しているものがないかを魔法で調べさせて貰う」

「そんな魔法が使えるのか、凄いな...いや、まずは言うとおりに武器を地面に出すぞ」


リーダーの男はそう言って、まずは首の後ろからナイフを取り出した。

続いて両手首の袖の内側から妙な形の金属製品を出して地面に置くと、腰の後ろ、胸の内側と順に手を入れてとりだしたモノを地面に並べていく。


いくつ持ってるんだよ!!!


全く、ハリネズミみたいな武装をした男だな。

しかしさっきも『武装解除』なんて軍隊用語を自然に使ってたし、二人目の斬り込んできた男の技といい、どうも素性が怪しい。

隣で膝をついている男も、いくつかの刃物を取り出して地面に置いた。


「そいつの分はどうする?」

リーダーの男が倒れている二人目の男を顎で示した。


「この、気を失ったフリをしている方か? 自分で出させてくれ。嫌がるなら俺が本当に気絶させてからもぎ取るけど」


「...アンディー、諦めろ。お前も素直に武装解除に応じるんだ。妙なことは考えるな」


そう言われて、アンディーと呼ばれた二人目の男はもぞもぞと身体を起こした。

絵に描いたように不満げな表情で、身体のあちこちから小さな武器を出して地面に並べていく。

俺は、最初に突っ込んできて、未だに気を失ったままの男に近づくと、腰のベルトを掴んでひょいと持ち上げる。

そのままぶら下げてリーダーの男の近くまでいき、隣に放り投げた。


「アンタ...凄いな...」

「破邪だからね。色々な技があるのさ」


もう全部これでごまかす!


「男の身体なんかまさぐりたくないんでな、アンタがそいつの隠してる武器を出してやってくれないか?」

「わかった」

よほど強く頭を打ったらしく、まだ正気づかない最初の男から、リーダーが手際よく隠し武器を抜き取って地面に置いていく。

どこになにを持ってるか全部把握してるなコレ。


最終的に、四人の前には結構な数の刃物類がずらりと置かれていた。

なんなのこいつら・・・


「よし、全員後ずされ。身長よりも後ろに距離をとるんだ」


俺がそう言うと三人が後ずさる。

まだ気絶したままの男は、リーダーがベルトに手を掛けてずるずると引き摺った。


「アンタ、こういうことに随分と手慣れているな?」


「知らないのか? 破邪にとって、野盗の討伐はそう珍しくない任務だぞ? 魔獣退治だと呼ばれていったら、実は領民を襲っていたのは山賊でしたってのは良くある話だ」


「じゃあ、本物の破邪なのか?」

「なにを言ってるんだ。さっきから破邪だと言ってるだろう?」

「ああ、まあ、そうだったな...」


しかし面倒だな。

一晩中、こいつらの見張りをしなきゃいけないのはキツいが、ダンガとアサムに負担を掛けたくもない。

まだレミンさんが明日の朝までに回復すると確信できる訳じゃあ無いんだ。


「お前たちを見張って夜通し起きているのも面倒だけど、俺が安心して眠っていられるほどキツく縛り上げると、手足の血流が止まって大変なことになる可能性もある。檻でもあれば入れとくんだがなあ...」


パルミュナから教わっている防御の結界を出して、魔力を逆向きに作用させれば檻になるんじゃ無いかっていう気もするんだが、ただの盗賊相手に精霊魔法を見せるのも気が進まない。

絶対、衛士隊に引き渡した後に、どうやって捕縛していたのか?って話になりそうだもん。

そこで、こいつらが妙なことでも言い出したらこっちの立場が危ない。


すると、リーダーの男がふてぶてしい表情で口を挟んだ。

「信用されないことは承知の上で言うが、俺たちはもう抵抗しないし逃げもしないよ。そう言われて安心する訳も無いだろうが、コレは宣言として言っておく」


もう殺されないと確信して開き直ったか?


「そうか? まあ本当にそうなら有り難いんだがな。明日の朝一番で近くの集落に衛士か騎士団の詰め所がないかを探すか、今夜これから夜通し歩くか、いま、悩んでいる所だ」


それに対する男の返答は、どうにも野盗らしく無いものだった。


「ここから一番近い衛士隊の詰め所は、東に向かって半日ほど歩いたデュソートの村にある。村と言っても、毎週、市が立つ程度には大きな集落なんで衛士隊も数人常駐しているよ。養魚場のある方に戻るよりも全然近い」


「...なあ、お前ら何者だ? さっきの言葉遣いといい、ここに並んでる武器といい、そいつの抜刀技といい、ただの野盗と言うよりも、兵士上がりだとしか思えないんだが?」


「絶対に信用して貰えるはずが無いと分かっているが、嘘をつかないために言う。俺たちは野盗なんかじゃ無くて現役の兵士だ」


・・・マジか。


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