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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第二部:伯爵と魔獣の森
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彼らの旅の目的


毛布を被ったレミンさんは、これまでの緊張と痛みの我慢から解放されたからか、ぷつりと糸が切れたように眠り込んだ。


俺たちは急いで寝るほどの状況じゃ無いから、焚き火を囲んで、少し彼らと話してみることにする。

なんだか深い事情がありそうな気配もするから、あまりツッコまないようにはしたいが、兄妹三人で旅をしている理由が気になるし。


「それにしてもミルバルナは遠いな。見たところ、あんたたちは破邪でもないし、兄妹三人でこんな遠くまで旅してきたのは、なんか事情でもあるのかい? ああ、もちろん言わなくても構わないぞ? 今のはただの興味本位の質問だからな」


ダンガは、俺の物言いにちょっと不思議そうな表情をして答える。


「いや、隠すようなことでも無いよ。実は、ミルシュラントに移住できないかと思ってね。いい場所が無いかを探しに来たんだ」

「そうなのか? 三人で故郷を出て暮らすのも大変そうだ」


「本当は...できることなら村全体で引っ越したい。もしも、村ごとの移住を受け入れてくれる所があれば嬉しいんだけど、やっぱり難しいかな?」


村ごと移住か・・・

それこそ話に聞く大昔のリンスワルド領みたいに、領主や国家主導の開墾事業がある土地なら受け入れてくれそうだが、すでに農地の移譲が済んで、村ができてしまっている場所は難しいだろうな。

新たに開拓できる場所だって沢山あるだろうけど、どこの領主も外国から余所者の集団をぽんっと受け入れるとは思えない。


「ミルシュラントでは種族差別が無いって言われてるから、引っ越してくるにはいい国かも知れないけど、数人ならともかく、村全員ってのは、かなりハードルが高そうだ」


「だよねえ。とにかくどんな土地なのか見て回って、もし俺たちを受け入れてくれそうな場所があったら、まずは三人で暮らし始めて、順調なら故郷に仲間を呼びに行く...安直だけど、そんな風にできたらいいなって思って村を出てきたんだ」


「じゃあ、これからも行った先で働いて旅費を稼ぎながら旅を続けて、みたいな感じか?」


「できればね...俺たちは村で狩人だったから、そういうことで金を稼げないかなって思ったんだけど、ここまで通った辺りじゃ、どこも人手は足りてて、そうもいかなかったよ」


「そりゃあ、狩人だ猟師だってのは、どこの領地でも免状制でうるさいのが普通だろ? 逆に、そうでないと、豊かな森でもあっという間に荒らされちまうさ」


「うん。話には聞いてたんだけど、思ってたよりも厳しかった。南部大森林の集落じゃあ、縄張りとか獲物の獲り分けとか緩くて気にしたことも無かったくらいだったんだけど、やっぱり、あれは住んでる人自体が少なかったからだったんだね...外に出て初めて分かったよ」


素朴な考えというか、子供の頃から一度も外に出たことの無い田舎の人間なら仕方の無いことかも知れないけどね。

いくら耳で『外の世界のルール』を聞かされていても、実感がないのでつい甘く考えてしまうんだよ・・・


「ところで、どうして移住したいと思ったんだ? 兄妹三人ならともかく、できれば村ごと全員でっていうのは、あんまり穏やかじゃないな」


「...ルマント村の暮らしそのものに不満はないし、獣も多くて作物もよく育つから住むにはいい土地だったんだけど...近頃、奥の森からどんどん魔獣があふれ出してくるようになってね」


「魔獣が?」


「うん。俺の村でも、ここ二年で三人が殺されてる。いまはまだ、近隣の集落と共同して、猟師たちを中心に森の見回りをしたりして防いでいるけどね、俺も狩人だから、段々、ヤバくなってきてるなって分かるんだ。たぶん、そのうち防げなくなる」


アンスロープ族が獣人族とも呼ばれているのは、身体に大きく獣の特徴が現れているせいだが、そもそも彼らは太古の昔、ポルミサリア全体に世界戦争の嵐が吹き荒れていたと言われている時代に、禁忌の魔術によって生み出された人造種族だ。


元々が戦闘奴隷として創り出された彼らは、狩人や兵士として卓越していると言われている。

そのアンスロープ族でもヤバいと思う状況か・・・

こりゃあ、相当に厳しそうだな。


「そうなると、おちおち畑を耕してもいられないだろうな。戦えない村人は逃げ出すしか無いか」


黙って聞いていたアサムが、ぱっと顔を上げて言葉を継いだ。


「そうなんだよ! それで、村人の中で、畑の世話や日々の決まり仕事がなくて自由に動けるのって狩人だけだし、みんな田舎者だからさ、一人で外国を旅するのは不安だし...ってことで俺たちにお鉢が回ってきたんだ。もし、いい土地が見つかったら、兄貴か俺が戻ってみんなを連れてくればいいってことで」


「ミルバルナの中じゃダメだったのか?」


「ミルバルナのアンスロープ族の集落って大森林の周辺にしか無いんだよ。平原の南半分は人間族だけの集落しかないし、北の方もエルフ族とかの集落はあるけど、アンスロープ族の集落は無いんだ。大勢のアンスロープを受け入れてくれないだろうし、領主様にも陳情したけど、新しく村を開墾させてもらうのは厳しいみたいだ」


「そっかあ...それは難しいな...それでミルシュラントか」


「ああ、ここは種族に関係なく、外国からの移住者も多いって聞いてね。だったら、俺たちが引っ越してこれるような土地もあるかもしれないって考えたんだ」


そう言えば、ラスティユの村でもそんな話をしていたな。

とはいっても、俺自身もミルシュラントでは余所者なんだし、彼らにアドバイスできるような知識も人脈も無い。

彼らの旅が良い結果になってくれることを祈るぐらいしかできないが・・・うーん。


ん?


ちょっと互いに言葉が詰まった所で、ダンガとアサムが揃って、ピクッと耳を動かした。

俺が気配を感じ取ったのとほとんど同時か。

さすがアンスロープ族だな。


「やれやれ、まさかこんなところでと思ったんだけどなあ...なんか嫌なのが近づいてるみたいだ」

「ああ。そうだな...俺たちはどうすればいい?」


物理戦闘には抜きん出て強いという話のアンスロープ族だが、ここは知らない土地だ。

どうやらレミンさんを助けようとしている俺に主導権を渡してくれるらしい。

ぶっちゃけ、俺も知らない土地なんだけど・・・

言うだけ野暮か。


「ここで動かないでくれ。レミンさんを怖がらせたくない」

「わかった」

「矢を射かけてくることはないと思うけど、念のために二人でレミンさんを守ってくれていればいい。俺が片付けてくるよ」

「少し人数が多いかも知れないぞ? 大丈夫なのか?」

「俺は破邪だよ? 問題ないさ」


四人ぐらいか?

気配を殺して、音を立てないようにそっと近づいてくる。

もう、そういう行動をとっている時点で『賊』だと確定だよ君たち?


万が一、慌てた野盗どもが矢を放っても大丈夫なように、そっと低木の茂みから這い出て、近寄ってくる野盗たちの方に向かった。


仮に矢を射かけられても、アンスロープの三人が射線上から外れていると確信できるところまで静かに移動してから、俺はおもむろに立ち上がって声を上げた。


「なあ、アンタたち、こっそり近寄ってくるのは敵意があるって考えていいんだよな?」


やはり野盗は四人だ。

周囲に伏兵が隠れているような気配もないし、連中の後ろからついてきているような増援もいないらしい。

接近を見抜かれて腹立たしいのか、その中の一人が大声で喚いた。


「やかましい! 抵抗せずに武器を捨てろっ!」


おおっと、つい最近も同じような台詞を聞いた覚えが・・・

それってホント定番の台詞だよね。

『山賊模範問答集』みたいな教則本があっても驚かないぞ。


まあ、ワンラ村の山賊は本職じゃあ無かったけどさ。


「聞く耳は持たないだろうと思うけど一応言っとくな? ここで死ぬか黙って引き返すか選ばせてやる。捕縛して騎士団に引き渡すなんて甘い対応をするつもりは無いから、破邪を相手にやるなら覚悟しろ?」


今は横にパルミュナがいないからね?

俺はまだ宣誓魔法は使えないし、犯罪者集団にはあんまり優しくないよ?

それにこいつらからは魔物の気配なんてしてこない。

正真正銘、本職の野盗だな。


「ハッタリをかまして逃げられるつもりか? 四人相手に勝てると思うんじゃないぞ!」


「そうか? ならいいさ。破邪を相手にしようとした自分たちの判断の甘さを後悔しろ」


俺が暗い藪の奥に立っているから装束もよく見極められないのだろう。

ハッタリだと言いつつも、警戒して足を止めている。

そりゃまあ山賊の類いにとっての破邪って、騎士団や衛士隊とは違う意味で天敵だよね。

なんであれ、俺が破邪だと名乗ったのに見極められない時点で、この四人の中には強い魔法使いも元破邪もいないことは確定だ。


埒が明かないので、俺は自分から藪を出て街道に進み出た。

ついでに指先に光魔法を灯して、自分の姿を照らしてみせる。

これで諦めるかな?


と、そこまで考えてハタと気がついた。

あの、エドヴァルから来た本街道の馬鹿な盗賊たちの時と同じだ。


もし、俺が手を汚したくないという理由でこいつらを見逃したらどうなるんだって言えば、こいつらは野盗を続けて、次の誰かを歯牙に掛けるに決まっている。

下手をしたら、旅を続けているアンスロープの三兄妹が、明日か明後日の獲物に狙われる可能性だってあり得るのだ。


只の破邪の時だったら、絶対にこいつらを見逃すはずが無かった。


襲ってこなければ見逃がしてやろうかなんて考えたのは、勇者になったことで、いつのまにか『人』と敵対することに躊躇いを覚えるようになっていたからだろう。


気は進まないけど・・・


自分が手を汚したくないから後は知らんふりって訳にもいかないよな。

それこそ、どこの勇者だそれって話だ。


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