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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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地下でのやり取り


そうなってくると、フェリクスが獅子の咆哮を自分にしか動かせないと嘯いていた理由も想像が付くな・・・


単に『獅子の咆哮』の起動鍵を知っているかどうかではなく、王宮の支配権を手中に収めていなければ、城壁に囲まれた王家の谷を殺戮の罠として利用することは出来ないからね。

何の準備も無く起動すれば、四百年前の大虐殺を繰り返してルリオン平野を不毛の大地にしてしまうだけに終わる。


さらに、俺たちが起動鍵だと睨んでいる『emeth(エメット)』と『meth(メト)』という二つの言葉は、獅子の咆哮の起動鍵であると同時に地下と地上を繋ぐ経路を開け閉めするためのキーフレーズだって可能性もあるだろう。

マディアルグ王の正統な後継者、いや『本人そのもの』のホムンクルスである自分だけが堂々と物見櫓を建てて地下と地上を行き来し、『獅子の咆哮』を兵器として思いのままに動かすことが出来ると言うことか?


もしそうだったら・・・まぁ、フェリクスだろうと誰だろうと、いま王家の谷でコッソリ試すなんてのは無理だよな。

政治的な搦め手や暗殺による王位簒奪がダメだったら、力押しで王宮を制圧するしてパトリック王達を追い出すしか無い。


で、それがワイバーン軍団を引き連れてフェリクスが攻め込んできた理由か・・・


「それでフェリクスは夜中にアーブルまで数刻も馬を走らせてから、わざわざ転移門でご近所に舞い戻ったってワケか? 奴が『面倒だな』って言ってた理由が良く分かったぜ」


「だな。まぁ、だからって『死に戻った方が早い』って発想もどうかと思うけどね?」

「違いない...」


「あっ、御兄様、錬金術師が戻ってきました!」


どこかから戻って来た老齢の錬金術師は『準備が出来た』とフェリクスに声を掛け、二人は連れ立ってどこかへ向かう。


ここが重要拠点なのは確かだから、複数の場所と行き来する必要があるのは当然だろう。

そうなると、どこかに複数の魔法陣を設置した場所があって、二人はその部屋に向かっているのか?


エルスカインの転移門は『橋を架ける転移門(ブリッジゲート)』だから、一つ一つの魔法陣が別の魔法陣と対になっている。

つまり、距離と魔力の制約はあるとしても各地の転移門を網の目のように繋いで跳ぶことが出来る精霊魔法の転移門とは違って、『橋を架ける転移門(ブリッジゲート)』の場合は、ある場所から十カ所に転移できるようにしようと考えれば、そこに十個それぞれの転移先と繋がっている魔法陣が必要になるワケだ。


物理的に魔法陣を複数置くのか、毎回、転移魔法陣の行き先設定を書き換えて起動し直すのかは使い方次第か・・・後者なら、常に転移門を扱える魔法使いがそこに張り付いてる必要があるけどね。


アヴァンテュリエ号の貴賓室からの跳び先だけが、さっきの『ホムンクルス置き場』に開いていたのは、あの円卓の転移門はフェリクスが独断で以前の錬金術師に置かせていたものだからかもしれない。


「二人が違う部屋に入りましたね」


銀ジョッキで後を追っていたシンシアが報告してくる。


もちろん、俺たちも操作台の画面に見入っていたから言われなくても承知しているんだけど、動きがある度にちゃんと一声掛けてくれるシンシアが頼もしいから、あえて言わない。


シンシアが銀ジョッキを二人の横側に滑り込ませると、転移門の前に立つフェリクスに対して、錬金術師が卓上に置いてある箱から銀色の細長い棒状のモノを取り出し、それをフェリクスに渡した。


『毎回、違う割符とは面倒な...どうせ配下しか通らぬ転移門だ。開けっぱなしにしておけば良かろうに』

『滅多に使いもせぬ転移門を起動しておいても無駄に魔石を消費するだけですし、都度の営繕も必要となりますからな』


老錬金術師の言葉に、フェリクスの顔が不満そうに歪む。


『分かっておるが、思いのほか制約も多いという話だ』


割符だと?

普通なら『割符』ってのは、商売人や貴族が特定の相手とスムーズに取引するために使うものだ。

誰で有ろうと正規の割符を持って来たなら、正当な取引相手だと認める。

つまり、お互いに誰を代理人に立てようが構わない訳で、やっかいな本人確認や委託の証明の手間を省くことが出来て、大いに自由度が上がるけど、代わりに割符の管理は『鍵』の類いと同様に、厳重に行う必要が出てくるのだが・・・


『遠方へ即座に転移できると言うことだけで十分な恩恵かと...何より転移門自体が失われた古代の魔法でございますゆえ、エルスカインさまの用心深さも一際(ひときわ)でございましょう』

『まあ、それはそうなのだがな...どうして転移門を出入りするたびに割符を受け渡す必要があるのか、理解に苦しむわい』


なるほど、割符を通行証代わりに使ってるってコトか。


『陛下、転移門とは魔力さえ通って開いていれば、その場の誰にでも使えるモノでございます』

『でなければ魔獣を通せんからな』

『左様で御座います。しかし仮に『凍結ガラス』の箱から支配前の魔獣が抜け出て転移門に飛び込んだといたしましょう。何も知らない向こう側は大惨事でございますな』

『バカな! そんなことが起きるものか!』

『わたしめも、この場所が早々部外者に知られる等とは思いませぬが、思わぬ事故というのは起きるものでございますゆえ。魔獣は割符を使えません...用心して悪いことなどございませぬよ?』


『不便が無いならな! 吾輩は程度問題だと言っておるのだ』


老錬金術師の説教じみた言葉に、だんだんフェリクス=マディアルグが苛ついてきているように見える。

ワイバーンの大群が自由に操れるとなったらロクな準備も無しに攻め込んできたことや、数刻ほど馬を走らせるよりも死んで戻った方が楽と考えるあたり、どうもマディアルグ王はせっかちで我慢の足りない人物のように思えるな。


そのあたりは耳にしていたフェリクスやマディアルグ王の人物像といっちしているのだけど、以前の疑問がまたしても湧き上がる・・・

なんで、エルスカインは四百年前からマディアルグ王を特別扱いしてるんだろう?

エルスカインにとって、彼の価値とは何なのだろうか?


『そう言えば、王宮に送り込む予定だった魔獣共はどうなったのだ? 勇者が水浸しにして防いだようなことを言っておったが、本当のところはどうなのだ?』


『水浸しですか...そうなのかも知れませんなぁ。今、あそことは一切の連絡が付きません。転移門も動かず、様子を見に行くことも出来ない状態です』

『ならば全滅か...』

『儂らはアレが物理的に、どこにあるかも知りませんからな。確認や救援のしようもございません』

『それもエルスカインの仕事だ。アイツは言わぬことが多すぎる!』


エルスカインが配下に情報を教えようとしないことは、マディアルグ王でさえイライラしているレベルか・・・


「フェリクスが魔法陣の上に進みます!」

「追えるかな?」

「確実とは言えませんが、やってみる価値はあると思います」


悩ましいところだな・・・銀ジョッキにフェリクスを追わせるか、今回は見送って、獅子の咆哮とホムンクルス工廠を探ることを優先するか、それとも・・・いや、三つ目のプランは無いな。


この転移門の向こうはエルスカインの本拠地か、それに近い場所であることは疑いの余地がない。


だけど、重要拠点との間で行き来する配下にさえ、毎回、違う割符を持たせるほどの用心深さだ・・・

銀ジョッキに割符を持たせるってのは無理な話だし、エルスカインの本拠地ともなれば、例え不可視状態であっても銀ジョッキによる尾行を検知されてしまいそうな怖さもある。


いま銀ジョッキの存在をエルスカイン側に知られるのは相当な痛手だ。

そうなったら確実に逃げられるだろうし、今後は何らかの銀ジョッキ対策も行ってくるだろう。

それに、こちらに居場所を探知されたと考えたら、そこが例え『本拠地』であったとしても一切の証拠を残さないように粉砕するのがエルスカイン流だ。


灰燼と帰した廃墟から次の手掛かりを探るのは絶望的だろうな・・・


逆に、このままフェリクスを行かせれば、向こう側での様子を盗み見ることは出来なくても、フェリクス自身に仕込んである探知魔法を使って、おおよその場所を割り出すことくらいは出来るかもしれない。

それに、フェリクスを泳がせ続けることで、覚られずにエルスカインの居場所を絞り込むことも不可能では無いかも・・・


どうする? どうする? どうする俺?


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