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390000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす  作者: 大森天呑
第八部:遺跡と遺産
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ホムクルス工廠


『そう文句を言うな。不死軍団とは全兵力が吾輩その物だ。不満も裏切りも下剋上も無く戦う力もみな同じ...かつて存在したいかなる軍団よりも統率の取れた兵となろう!』


『それはまあ、陛下が陛下を従える訳ですからな...』

『従えるのでは無く、協調するのだぞ!』

『いずれにしても民草にとってはいつも近くに『王の目』があるようなもの。逆らう気など起きますまいて』


『無論だ。この不死兵達は人数以上の恐怖を相手に与えることが出来る。世を統べる王の私兵、民を従わせるための支配者の刃として相応しいものだ』


フェリクスの言っていた不死のニュアンスが俺たちの想像とちょっと違っていたのは個々の兵士が不死身という事では無く、どれだけ死んでも、幾らでも代わりが造れて、それが全て同じマディアルグ王の複製だということだ。

つまり、マディアルグ王としての存在が不滅であるという意味だったらしい。


『しかし、不死軍団を世に出すための最後の仕上げはまだですぞ?』


老人の言葉に、フェリクスは不満そうに鼻を鳴らした。


『ヒュドラか? ふん、あの雇われ魔法使い共、自信満々にルースランド王家を使ってヒュドラの首を回収すると言っておきながら、未だに掘り出せてないのであろう? そもそもヴィオデボラの発掘作業で、なにか不測の障害にでも遭遇しておるのでは無いのか?』


おっと! ヴィオデボラって言った!

ってことはフェリクスは、アクトロス号とバシュラール家の事も知ってる訳か?


『アクトロス号は予定を過ぎてもウルベディヴィオラに入港しておりませんからな...ここにあるヒュドラの毒を全て回収して使えば不死軍団の人数分の『血清』を造ることは出来ましょうが、そうなると本来の計画に使えなくなってしまいます』

『それはエルスカインの負う責であろうよ。血清が無ければ不死軍団にヒュドラのガスの中を歩かせることが出来ぬ』


血清ってなんだろう?

二人の会話だとホムンクルス軍団を動かすために不可欠な感じに思えたんだけどな...シンシアなら知ってるかな?


「ねぇ兄者殿、どうやら彼等はヒュドラの毒を中和する方法を見つけ出したみたいだわ!」

「血清って、そういう意味かマリタン?」


俺が聞くより先にマリタンが教えてくれた。


「古代の魔導技術よ兄者殿。蛇なんかの強い毒を、特殊な魔法で薄めて身体に入れるの。それが血清ね」

「死なないのか?」

「とっても薄めて毒を弱くしてるから大丈夫なのね。でも、その毒を身体が覚えて対抗する力を生み出せるようになるって魔法なのよ」

「凄いな」

「ワタシが知ってる魔法はお酒に強くなって二日酔いをしなくなるって魔法だけど、原理は似たようなものだわ」

「酒って毒か?」

「そうよ。知らなかったの兄者殿?」


酒を毒とは思ってなかったな。

ガスを吸い込んだだけで即死する『ヒュドラの毒』と『二日酔い』を同列に語るのもどうかと思うけど・・・

あ、でもバシュラール家の先祖がヒュドラを倒した時は魔法で錬成した『麻酔酒』を使ったんだったな。

結局は、毒も薬も酒も使いようなのかもしれない。


それはともかく、画面の中では、老人がフェリクスに思案げな顔を向けている。


『しかし陛下、ヒュドラの毒を血清に使い切ってしまえば、そもそも大地に放つガスの材料も足りなくなる訳でございますから、計画の遂行自体が不可能になりますぞ? それでは血清の意味がありません』


『まあな。だが前回の発掘でヴィオデボラのおおよその位置は報告されておろう? いざとなったら勇者共を片付けた後に、吾輩がアヴァンテュリエ号を徴用してヒュドラの首を回収しに向かっても良いのだが...』


『それには少なくともアヴァンテュリエ号の員数分の血清は必要になりますな。作成には少々の時間が必要です』

『なぜだ? アクトロス号の連中は血清など持たずに往復しておるぞ?』


『それで戻ってこないとなれば、何らかの事故に遭ったと考えるのが自然でございましょう。嵐などの海難の可能性もございますが、ヒュドラの容れ物をうっかり開けでもしておれば全滅ですな』


『うぅむ...バカ共め!』


その推測は正しいよ、ご老人。

ひょっとしたらアクトロス号に乗り込んでいた傲慢な魔法使いが、いかにもそういう不手際を引き起こしそうな人物だと思っていたのかもしれない。


『それにアヴァンテュリエ号を使うかどうかはともかく、勇者を片付ける以前に、ホムンクルスを騎乗させる予定だったワイバーン軍団が全滅したと報告が上がっていると聞きましたが?』


『ふん、良い感じにワイバーン共の統制も取れていたゆえ、勇者相手でも勝てると思ったんだがな...くそっ!』

『恐れながら申し上げれば、東の果てから連れてきてそのまま王宮へ攻め込ませるなど、さすがに準備不足でございましょう』


『それを言うなら敗因は魔法使い共のせいだ。あれほど自信満々に『支配の魔法』の力を豪語しておいて、ドラゴンを抑え込みにアーブルへ行った連中は返り討ちに遭って全滅だからな!』

『そのようですな』

『しかし支配の魔法に脆弱性があることは、貴様の言っていた通りだった。アレは強いが脆い、そういうところか...』


『それに加えて、自信過剰になった魔法使い達がドラゴンやワイバーンを普通の魔獣と一緒に考えたことが原因でございましょう。太古から伝わる『ドラゴンの檻』が、なぜオリカルクムで造られていたか...彼等は、そこをもう少し考えるべきでございましたな』

『確かにな』

『魔法によって造りあげるモノを成果とする儂らのような錬金術師と違って、魔道士になる魔法使いというものは自らに蓄えた魔法の能力そのものを武器としますからな...自信過剰にもなりやすいものですぞ?』


『そう言うものか?』


『ええ、錬金術師が技能を磨き、最高の素材で最高の品を仕上げる職人だとすれば、魔道士は己の身体から発する魔法を鍛える、言わば格闘家のようなモノですからな』


『ふむ...それも一理はあるか...』


錬金術師だという老人の言う『ドラゴンの檻』ってのは、モリエール男爵に使わせた例の『ドラ籠』の事だろう。


そして錬金術師が職人で魔道士が格闘家だという比喩を耳にして、シンシアがなんだか微妙な表情をしている・・・言わんとする意味は分からなくもないんだけどね?

シンシアは純粋な魔道士としても、新たな魔道具を生み出す錬金術師としても超一流だと言っていいから、両方合わせて『闘う職人』なんだろうか?


フェリクスは錬金術師の例え話に頷きつつも、不満げに鼻を鳴らした。


『しかし、その自信過剰な魔法使い達のせいで、吾輩の引き連れていたワイバーン共も散り散りだぞ? それに勇者達は思ったより厄介だ。ドラゴンもだな...吾輩は目にしておらぬが、二頭目まで出てきたとはエルスカインにも想定外であろう...此度の件は仕方有るまいて』


そりゃあ、お前はエスメトリスが姿を現す前に失神してたから目にしてないよな!


しかしフェリクスは、支配の魔法でアプレイスを抑え込むことに失敗したのは、パルレアが精霊魔法で守ったからでは無く、魔道具を携えてワイバーンに乗って現れた魔法使い達が失敗したと思い込んでいるようだ。

同じく、ワイバーン達の支配が解けたのもエスメトリスの魔力によるものだとは認識してないらしい。


もっとも、いま彼が口にした『支配の魔法に脆弱性がある』って言い分は正しいだろう。

ヴィオデボラのドゥアルテ・バシュラール卿も、支配の魔法については『絶対でも恒久でもない』そして『ドラゴンを永続的に配下として使った例は存在しない』と断言していたのだ。


むしろ、エルスカインが支配の魔法に頼り切っているのは、『それしか手数を増やす方法が無い』からじゃあ無いのかな・・・?


『それは、一介の錬金術師に過ぎぬ儂の論じることではございませんので、陛下とエルスカインさまとで御相談を』

『ああ、ここで愚痴っていたところで何も進まぬわ。エルスカインもオリジナルである吾輩を粗末に扱うことは出来んし、仕切り直しを要求する』


『この後はどうなさいますか? すぐにエルスカイン様の元へと向かわれますか?』

『うむ』

『では転移門の用意をしますので、少々お待ちを』


そう言って錬金術師は、どっかりとその場に腰を下ろしたフェリクスに背中を向けて歩み去っていく。


おおっと、いま錬金術師とフェリクスは『エルスカインを訪ねる』と話したよな?

俺の聞き間違いじゃ無いよな?


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